表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

三章 執行された正義



 翌日。教室に入るなり、それまで一度も話した事の無い女子数人が俺へ寄ってきた。

陶島とうじま君。昨日は大活躍だったそうじゃない」

「は?」

 いきなり苗字を呼ばれて面食らう。活躍って何の事だ?

「しらばっくれなくていいよ」

「柚芽を助けてくれたんでしょ、あの不良から」

「今朝からクラスはその話題で持ち切りだよ。カッコいいなあ、陶島君」

 奥の方では柚芽が、クラスメイト相手に何時に無い熱弁を振るっていた。昨日の放課後、餓鬼大将に捕まって街を連れ回された所を俺が助けたと言う、半分正解で半分出鱈目な内容だ。しかし普段嘘を言わず、しかも成績優秀な彼女の話を疑う者などいない。


 バタンッ!ダダッ!!「境が職員室に引っ張られていったよ!」クラスの盛り上げ役の女子は興奮した様子で叫んだ。「絶対謹慎処分だって!!」「マジで!?」「覗きに行こうよ!!」


 ザワザワザワ……波が引くように教室を出て行くクラスメイト達を遠巻きに見つめ、図書委員は俺を見て微笑んだ。

「お前、一体何したんだ?」

「朝一番に職員室へ行って、ありのままを担任に報告しただけよ。ほら、困った事があれば何時でも相談しに来なさいって、よく帰りのホームルームで言っているじゃない」

「でっち上げじゃないか。お前一回家に帰っただろ着替えに。何でそんな嘘」


 バンッ!叩かれた机が厭な軋み音を立て、危うく真っ二つになりかける。


「庚が悪いんでしょ!?あんな社会のゴミを何時までもいい気でのさばらせて!私があいつに変な目で見られてても助けてくれなかったじゃない!」

「いや、だって俺じゃ到底敵わない」


 ガンッ!!駄目だ、とても話し合いの出来る状況ではない。


「……御免」備品が壊されない内に素直に謝っておく事にした。「柚芽がそんなに苦しんでいるなんて、俺鈍いから知らなくて。本当悪かった」

「ふん、分かればいいの」冷笑を浮かべ、「邪魔者も片付いたし、これで安心して中等部に進めるわね」

「あ、ああ」

 十二歳にしてこの怖さ……こいつだけは絶対敵に回さないようにしないと。

「そう言えば怪我の具合はどうだ?」

「え」

 ポッ、頬に可愛らしい赤みが点る。

「う、うん……もう痛くないわ、平気。アイザさんの手当て、凄く上手だったから」

「アイザさんって、あの女の人の事?」

「そうよ。色々相談まで乗ってもらって。その意味ではあのゴミ屑に感謝してもいいわ」どうやら金輪際名前で呼ぶつもりは無いらしい。

「へえ、良かったな。内容はやっぱその……家族関係?」

 すると柚芽は頬に両手を当て、何故か恥ずかしそうに視線を外した。

「え、ええ。それもあったわね」

「?」

「庚には関係無いでしょ、そんなの。人の秘密を聞きたがるなんて無粋よ」

 (俺は重々知っているが)例の暴力衝動の件か?まあ彼女は大抵の異常事には動じなさそうだし、この様子だと良いアドバイスを貰えたようだ。深追いは止めておこう。

「そうだな。何にせよ柚芽が元気になって良かった」

 偽らざる想いから胸を撫で下ろす。最近学校ではしょっちゅうイライラしていたので、こうして自然な笑顔を見られて純粋に嬉しい。

「そ、そう?ありがと……庚」

 窓の向こうの空へ顔を背け、一応そろそろ授業の時間よ、席に着いて皆を待っていましょう、同級生はそう提案した。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ