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序章-prologue-

何年ぶりかの作品投稿です。不定期更新になりますが、気長にお付き合いくださいませ。

“夕日(twilight)”

私のコード・ネーム。夕日色の瞳が由来。


“ミニスカート”

これはえっと……気合いとか、そういうあれよ、あれ。


“冷たい”

両足の付け根には、ホルスターに入った二丁銃。私のお気に入り。


夕日は沈み闇が訪れる


 時刻はお昼から夕方になろうというころ。ロンドンの入り組んだ街の中、私はターゲットを追っていた。道行く誰もが振り返る。私はプラダのハイヒールを鳴らしながら歩く。正直、自分でもこんなに目立つやつが売れっ子殺し屋だなんて世の中終わってるって思う。まあ、だからこそ二番手なのだろうけど?

 私が所属する組織の一番手はダスクと言うコード・ネームの殺し屋だ。真っ黒なコートに赤色のマフラーが夕闇に似ているからそんなコード・ネームになったとか。たしかに真っ黒で地味にだけれど、あの子もあれはあれで結構、目立つのよね~。何せ人形みたいに整った顔立ちだもの。

 それは置いておいて、私はたった今任務中である……溜め息。貴族の分家の娘である私がどうしてこんな生活をしているんだろうと、たまに考えてしまう。他でもない自分のせいなんだろうけれど。ちょっと話が深入りしすぎたかしら。

 しかしま、あの男どこまで行くつもりなの? 次第に暮れて行く景色の中、数メートル目の前を歩くターゲットの背中を見失わないよう、目を凝らした。

 今回のターゲットは、私が所属するヒュー家とはライバル関係に当たる貴族一家、カルロ家の重要ポジションらしい。相当なやり手で、最近はヒュー家が手がける商売にも手を出してきているんだとか。結論、ヒュー家にとって邪魔なこの男を、私という都合の良い道具を遣って秘密裏に消してしまおうってわけね。それにしても、

「面倒ね……」

 働くのは嫌い。もし許されるなら、毎日スイーツ片手にワインでも飲んでいたいわ。この仕事だって早く終わらせたいのに、今回のターゲトはなかなか隙を見せないし。一体何時までコイツの尾行しなきゃならんのよ!?

『そこが君が夕闇さんに敵わない理由さ。夕日さん?』

 と。上司であり、気心の知れたあいつの声が甦る。ああ嫌なもん思い出しちゃったわ。何よ、どうせ惚れてんでしょ?ダスクに。ラブラぶな二人を見ているのはほほえましいけれど、勝手にノロケないでもらいたいものね。

 目の前にいるわけでもない奴に八つ当たりしてしまうほど、私は目の前の男の隙のなさに焦っていた。

『ここで焦るのは得策じゃないな』

 人を見下したような声が蘇る。うるさい小姑だこと。ダスクのと違って私の左耳のマイクロ・オーエスは通話できないはずなんだけどね。心の中で悪態をついてやった。いつ何時でも冷静にいられるのなんて、アナタとダスクくらいですってば。

 私は、基本的にターゲットには干渉しないタイプだ。だから、仕事に時間がかかってしまう。中には、ターゲットと接触して油断させてってのが得意なのもいるみたいだけど、私はこの通り目立つからなぁ。顔バレしたら、誰だって殺さなきゃならないこの仕事は正直私には向いていないのかもしれない。

自慢じゃないけど、ヒュー家の血筋を受け継いだ私は顔もそこそこ整っている。スタイルにも自信あり。体型維持はもはや趣味。寝るのはもっと本格的に趣味だけど、ってあれ。本格的に趣味って何かおかしいかしら。まあいいわ。とにかく、私ってばイケてるってことね。

そんなことを考えていたら、どうやら袋小路に入ったようす。永遠に思えたターゲットとの鬼ごっこも、ここらが潮時かしら。やっと巡ってきたチャンスに心が弾んだ。

 さぁて。ちゃっちゃと殺ってずらかるとしますか。私は、両足の付け根にある愛しのツインズに手をかけた。セクシーな網タイツとガーターベルトが丸見え、Wow。このまま街をあるいたらポリスに連行されちまうかしら? その場合は色仕掛けっと。物陰に身を潜めながらターゲットを見据える。ん? 何してるんだろ。壁なんか見つめちゃって、この先は行き止まりだけど。まーいいわ。チャンス到来かしら。私は未だ背を向けるターゲットに脳内標準を定めた。

「……貫け」

 そう小声でつぶやいて、引き金に指をかけた、まさにその瞬間だった。突如、ターゲットの男が振り返った。私はすぐに視線を男の手元に……銃!? 静かなだけだった空間に殺気が満ちた瞬間、私の本能が告げた、伏せろ!! 本能に従って方膝を折り、艶やかに伏せる。すぐ後ろで、弾丸が煉瓦を砕く音がした。

 

 ……私かっこよくね?なーんて。

 

 顔を見られたわね。男と目が合う。漆黒の髪にグリーンの瞳。ピシッと着こなしたスーツがとても似合って……あら意外に写真よりイケメンね。そう思った瞬間、私は思わず口を開いてしまった。

「ヒュ~、スリリングー! 危なかった。もう私のあそこはビッチョビチョよ?」

 下ネタしか思い浮かばないなんて、今日の私は冴えてるわね。任務中に顔を見られたことなんてなかったから正直、ビックリしていた。そして考える。どうやら今回のターゲットは堅気じゃないようね。予想はしていたわ? 全然隙がないんだもの。ターゲットである男が突然放った弾は、コンマ何秒かの差で私の頭があった場所を通過したようだった。

「美人がそういう下品なjokeを言うと萎えるな?」

 ターゲットの男は呆れた様子でこちらを見ていた。もう、さっきまでのすさまじい殺気は消えている。何て奴。一瞬であれだけの殺気を出したなんて。んで私は何故か急にこの男と何か話してみたくなって、てきとーに答えてみる。ターゲットに直接話しかけられるなんて初めてだから、新鮮だったのかもしれない。

「あぁら。ありがとミスター。グッと来る腕の持ち主ね?」

 背後のレンガに、弾丸の跡。あれが脳天を貫いていたかもなんて考えると肝が冷える。思わず舌なめずり。wow、狙いが正確だ。ここまで正確な腕前のガンマンとは、そうそう出会えるもんじゃない。

「あなた、堅気じゃないわね。かといって殺し屋、ってほど物騒なオーラでもない。ってとこは、ボディーガードかポリスってところかしら」

 ……ヤバい、口元が緩むを抑えられないわ。仕事で使ってる作り物の笑顔以外のやつ、久しぶりかも。

「……」

 男は黙っている。否定も肯定もしないってことは、あながち間違いじゃあないのかもね。男から一瞬も目を離さず、私は考える。ボディーガードかポリ公、しかも利き腕の奴がターゲットって面倒だわ。ダスクに任せたほうが早く終わる仕事だったんじゃないかしら。

 それにしても、このままずっと見詰め合っているなんて退屈ね。何か話しかけてみたら情報が得られるかしら。私は適当に話題を振ってみる。

「んー。そうね、このままあなたと楽しくいたしちゃっても良いんだけれど、アナタなかなか利き腕のようだし? 私、取りあえずまだ死にたくはないのよねぇ。ね、良かったらうちのボスの下で働いてみない?」

 男は何も応えない。代わりに静寂が訪れる。何だか私が寒いネタでもかましちゃったみたいじゃない? ちょっとおふざけが過ぎたかな。ちょっとだけ男の殺気が復活した気がするもの。

「ありゃー、私ったら墓穴掘っちゃった?」

 ニヤリと笑って首をかしげる。多くの男が私の虜になった仕草だ。しかしこの状況でこの態度ってのはさぞかし不愉快なのだろうと思う。でも、人をからかうのって嫌いじゃないわ。舌打ちの音が聞こえたかと思ったら、男の顔つきが変わった。怒らせちゃったかも。流石に不味いかもしれない。そう考えた瞬間、目の前から男が消えた。

「……な!?」

 と瞬きをするより早く、男の顔がすぐそこに迫っていた。二丁銃を握っていた手が捕らえられ、あっと言う間に見動きできなくなる。同時に、ものすごい殺気に全身を撫で回すように包まれた。――調子に乗り過ぎた、これまでかしら。そう思い、体に力が入る………あれ?

 甘いムスク混じってシガレットの香りが鼻腔を擽った。突如ゾワリとした感覚が訪れ、思わず力が抜けてしまう。

「ちょっ……と、なにして……!」

 思わず声が出た。だ、だってそこは! 予想外すぎるわ!! そう来ちゃうの? 顔が近い。美しいグリーンアイズから目が離せない。男の顔がセクシーに微笑んだ。

「おや、今日はTバックか。いい趣味だな?」

 銃を握ったままの両手はいとも簡単に拘束され、尻を揉みしだかれていた。

「な……!!!」 

 撫で回すように触れ、また絶妙な力加減で尻たぶを掴まれると、何ていうかその、変な気分になってくるわけで。

「……っ……ぁ……!」

 耳元で腰が砕けそうなテノールヴォイスで囁かれる。

「ったく、油断もすきもないな? このヴィッチーは。いっそのこと一からレディとしての教育をやり直したらどうだ? ジャンヌ・リー・ヒュー。コード・ネームはTwirightだったな。貴族・ヒュー家の分家出身、現在はヒュー家の専属雑用処理」

 ふっと微笑まれ――絶対、自分を襲おうとした相手にする表情じゃない――ガーターベルトと肌の間に触れられた。

「やめっ」

 今にも生まれそうな邪な感情に振り回されそうになりながら、働かない頭を必死に動かす。私のことを何故知っているというの!? 表向きの書面では、私は事故死とされている。しかもこれは、ヒュー家が一番秘密にしときたい、いわば貴族一家としてのメンツに関わる情報だった。同じ貴族一家であるカルロ家に弱みを握られたわけだ。商売敵であるカルロ家がこれを知ったら……。ここはあまり動揺しないほうがいいだろう。動揺しそうになるのを必死に押さえつけ、震える声を無理やりからかい口調に変えた。どうせもう隠したってこれが不味い情報だってのはバレているのだろうけれど。

「あらやだ、新手のナンパかしらそれ。まさに私のことよ」

 そう言いながら(なおも絶妙な力加減で揉みしだかれる感覚から逃れたくて)、男に拘束されている腕を一捻りして鳩尾に一発食らわせてやるために、肘を突き出しす。手応えはなかった。残念ながらひらりと交わされてしまったみたいね。私はというと息あがってるし、頬は熱いし、ダッサいことこの上ないけれどまあ、いいわ。これで拘束が溶けた。そのまま視線で男を捕らえたまま、後ろ足で急いで退散する。どうやら追ってくる気はなさそうだ。

「俺はイーサン・カルロ。知っての通りカルロ家の人間さ。Miss.ass、俺のボディーガードやらないか?」

 ほっとしたのもつかの間、男はニヤリと笑いながらそう言って来た。Miss.ass(お尻のお嬢さん)ですって!?頬がカーッとしそうになるのを必死に抑える。私の尻を揉みしだいたのがそんなに優越を感じることなのだろうか。ムカつくわね。でも悔しそうな顔なんてしてやらない。心とは裏腹に、余裕を装ってウィンク。何よりも、ちょこっと変な気分になっちゃったのが悔しくて、口元に力が入る。

「私はただの殺し屋よ? ロリポップ舐めてるようなチェリーボーイのお守なんてごめんだわ」


 レンガの壁を夕日が照らしてオレンジ色だ。私はハイヒールを鳴らしながらゆっくりと路地を抜けた。さて、今日の仕事については適当に報告して、始末書はあのお惚気上司シェンにでも押し付けますか。

 それにしても。さっきまで対峙していた色男が脳裏によぎる。イーサン・カルロ。漆黒の髪とクリーンアイズが脳裏に過ぎる。ゾクリと力が抜けるあの感覚を思い出しそうになって、急いで首を振った。ナニよアイツ!! ……見た目からして私とそんなに変わらない年だった。あれがカルロ家の凄腕重役(兼凄腕ガンマンってところかしら)ですって? ただの変態じゃないの。 ほんと、ムカつくcockerel(生意気な坊や)ね? 

 それに、私の情報のことだ。あの情報がいったいどんなルートでどこまで伝わっているか全くわからないけれど、これは報告しといたほうが良さ気ね。一番良いのは、イーサンがまだあの情報の重要さに気付いてなくて、たんなる揺すりネタとして持っていたという可能性。それだったら、私がアイツを始末すれば言いだけだし。

 もう会いたくもないけど、先刻まで浮かんでいた考えは既に消えていた。この獲物、他の誰かに譲るわけにはいかない。私のお尻は高いのよ? ダスクになんて、殺らせはしないわ。私の名前が刻まれたこの弾丸でいつかアイツの心臓を突き破るまで、きっと諦めない――そう心に誓った。

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