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第五章「少女目覚めるは柔らかな日差しの中」

大きな水が襲ってきて、ボクの体を押し潰した。

凄く怖かった。

逃げ場所は無くて、ただされるがままに成るしかなかった。

海は怖い。

全部飲み込んでしまう、怖いもの。

 

コリンは、うっすらと目を開けた。どうやら気絶していたようである。

目覚めたのはベッドの上。

あんまり暖かくて、一瞬死んじゃったんじゃないかと思ったくらいだ。

「フレッドちゃん、ここ、何処ぉ…?」

まだちょっと眠い。

むっくりと体を起こして、ごしごし目を擦りながら寝ぼけ眼で辺りを見回す。

あれ?

首をかしげる。

誰もいない。

フレッドもグラットンもパールレインもカムイも…そして、海に呑まれた時でもぎゅっと握って離さなかったフィオの姿も。

はっとなる。完全に目が覚めた。

 

そうだった。

嵐に遭って、船が壊れて、激流に流されて…!!

 

ベッドから飛び起きて、傍らに置いてあった靴を履く。ここが何処かなんてもうどうでもいい。

「ねぇ、みんな何処ッ!?居ないの、ねぇッ!」

一気に不安が押し寄せた。眉をハの字に歪めながら首を巡らせる。

視界に映るのはタンスや本棚、テーブルや椅子などの家具ばかり。仲間の姿は何処にも無い。

朝の日差しが差し込む窓を見つけ、外を見てみた。

見覚えが無い地、建物。どこか知らない街の様だ。

石畳の街道、煉瓦造りの家々や商店。道は人で溢れ返っており、がやがやと賑やかで活気が見える。しかし、見覚えのある姿はやはり何処にも無かった。

街人の顔や姿を注意深く見て回ったが、宝石だらけの派手なローブ姿も、二メートルを越す巨体も、車椅子のブロンドの女性も、寝癖みたいな頭の黒衣の姿も、小さな妖精の姿も何も無かった。

もっと不安になった。

ひょっとしてボクは一人になっちゃったんじゃないか、あの嵐で皆何処か知らないところに行っちゃったんじゃないかって。

不安をかき消す用に急いで窓を離れ、部屋の隅にあるドアを見つけて走った。

走る勢いそのままに、乱暴にドアを開けて飛び出す。

「みんな、居ないの!?」

今にも泣き出しそうだった。木造の細い廊下を走り出す。

何処へ行こうというものは無く、ただじっとしているのが不安だった。

しかし、曲がり角に差し掛かったとき。

「きゃぁッ!」

何かにぶつかりそうになって、コリンは尻餅をついた。

咄嗟に退いた為に接触はしてないが、相手の方も吃驚して同じく尻餅をつく。

銀の長い髪が、ふわりと床に降りた。見覚えの無い女性だった。

「あ、ご、ごめんなさい。」

立ち上がって、急いで謝る。

混乱と不安の所為か、全く気配に気付かなかった。

普段のコリンなら、気付かないわけが無いのだが。

「あ、いいえ、こちらこそごめんなさいね。もう起きて大丈夫?」女性の方も立ち上がり、にっこりと笑った。

屈託のない笑顔からも分かるが、柔らかい雰囲気に包まれている女性だった。

コリンがちょっとだけ落ち着いたのも、この柔和な雰囲気のお陰だろう。

「うん、大丈夫。お姉ちゃんがボクを助けてくれたの?」

「いいえ、私はあなたと同じ、この病院の患者ですよ。助けたのは先生です。」

病院と聴いて、思わず首を傾げた。

元気印が取り柄のコリンにはあまり関係のない場所だった。

と言うより、病院というもの自体が珍しい。

何故なら病院と定義付けられる施設は、魔法を一切使用せず、人の技術のみによって病を治す場所を指すからだ。

大抵どの街も魔法の力で傷や病気を癒す小さな診療所が有るくらいで、一般的には診療所の魔道医師に来てもらうなりして病を治す。

魔法の力で治せない病というものも少なからず有るとは言え、魔法を使わずに治療をする"病院"というものは、コリンでなくともあまり必要とされないのだ。

「病院?お姉ちゃん、どこか悪いの?」

病気というのは一見では分からないことも多いが、どう見てもこの女性は病を患っている様には見えない。健康そうな印象なのに。

コリンの気を察したか、女性は自分の眼を指さして、弱く笑った。

「ええ、眼がね。どんどん視力が落ちて、見えなくなってしまう原因不明の病気なの。」

「眼が見えなくなっちゃうの?ボクの顔、見えてる?」

その長い髪と同じ、銀色の透き通った瞳を覗き込むコリン。

こんなに綺麗な眼なのに、何も映さなくなるなんて…

「ぼんやりとしか見えないけど、可愛い女の子ね。」

言われて、エヘヘと照れ笑い。

可愛いなんて、フレッド達からはあまり言われたことがないし、素直に照れる。

いや、素直なのはいつものことなのだが。

「そう言えば、何だか急いでたみたいね。何かあったの?」

あっ!と声をあげるコリン。そうだった、すっかり忘れていた。

「そうだ!お姉ちゃん、このくらいの大きさの人とか、こーんな大きい人とか見なかった?」

体一杯に、小ささと大きさを表現する。

フィオとグラットンを訊いたのも、眼の不自由な女性でも分かりやすいだろうと思ったからだ。

まぁ、このくらいの大きさの人や、こーんな大きさの人は、街中探してもそうそう見つかりはしないだろうが。

「…そんなに小さい人や大きい人、居るの?」

銀の女性が眉をひそめながら言った。

そりゃあ、会ったことのある人間の方が少ないだろう。

異形と接点を持つ人間なんて、警備隊などを除けばそうは居ない。

「うん、フィオちゃんは妖精さんだから、これくらい。グラちゃんは巨人さんだから、こぉんなに大きいの。見てない?」

「妖精さんに、巨人さん…あなたのお友達?ごめんね、見たこと無いみたい。」

見たこと無いと言われ、すっかり頭の中から消えていた不安が甦ってきた。

「ボク、独りぼっちになっちゃったのかなぁ。フレッドちゃんも、パールちゃんも、カムイちゃんも、誰も居ない…」

俯いたコリンの瞳が、次第にうるうると揺れ始めた。

銀色の女性が、その涙を見て取れたか慌ててコリンの小さな手をぎゅっと握る。

「事情はよく分からないけど、きっと大丈夫。あなたのお友達は、きっと違う場所に行ってるだけだと思うわ。すぐにまた会えるわよ。」

今にも声を上げて泣き出しそうなコリンを、優しく包む。

根拠なんて何処にも無いのだが、一応涙は流れることなく留まった。

「…ホントに?」

「ええ、ホントに。信じていれば、きっと。だから泣かないで、ね?」

まだ眉をハの字に歪めたままだが、コリンは一応頷いた。

 

 

何だかお母さんに似ている。

コリンは不意にそう感じた。

そりゃあ、顔とか体つきとかは似ても似つかないんだけど、この雰囲気、自分を優しく包み込んでくれる柔和な雰囲気が、とても似ている、と。

 

 

仲間との別れの事も頭からなかなか離れてくれないが、妙な懐かしさを感じていた、その時。

 

「うわああああぁぁぁ!」

場の空気にそぐわない、何とも間の抜けた悲鳴が聞こえてきた。

それと同時に

「待たんかあああぁぁぁ!」

という怒号も飛んでくる。

コリンと銀の女性は同時にビクッと身を震わせ、声の飛んできた方向を見やる。

通路の奥から、何かがぴゅ〜っと飛んでくるのが見えた。

飛来物の更に後ろから、頭の寂しい白衣の男が憤怒の形相でこちらに走ってきている。

飛来物を見て取ったコリンが、あっ!と声を上げた。

「ああ、コリン、助けて!」

「フィオちゃん!」

焔の如き紅い髪、水晶のような紫の瞳、背中に生えた四枚の薄羽。

飛来物は、紛れも無くフィオの姿だった。

フィオは飛んできた勢いそのままに、コリンの胸に飛び込んできた。

「良かったぁ、生きてたんだ!」

「そんなことはどうでもいいから、ちょっと助けてよ!」

どうでもいいとは少々酷い言い方だが、コリンは気にしない。

もとい、気にも止めない、というか気付いていない。

「お姉ちゃん、ホントだね!信じてたらすぐに会えたよ!」

ぜぇぜぇと肩で息をしているフィオを掴んで女性の前にグイッと突き出し、コリンは笑って見せた。

対する女性は、引きつってはいるものの、笑顔で答える。

呆れる所だろうが、力一杯笑顔を見せる所が、出来た人間である。

「だから、コリン、ちょっと、ねぇ、聴いてる!?」

手から抜け出ようと、フィオが藻掻いたが、しかしコリンは気にしちゃ居ない。

と、そこへ先程の怒号の主が到達したか、フィオと同じくぜぇぜぇ息を切らせながら、コリンの数歩前で止まった。

「でかしたぞ、お嬢ちゃん!さぁ、そこの妖精を渡しなさい!」

「へ?何で?」

何で?と言われて、白髪の白衣姿が一瞬唖然とした。

まさかそう切り返されるとは思っていなかったのだろう。

「ちょっとコリン、アタシを渡さないでよ!」

手の中からフィオ。一体何をやらかしたのか分からないが、フィオも老人も必死だ。

仲間との再会の喜びに浸る間もなく、渡せ、渡すなと板ばさみに遭って、コリンは大きく首を傾げるのだった。

随分遅くなってしまいましたが、覚えてくれてる読者様はおりますのでしょうか…(汗)ようやくスランプの渦から這い上がりはじめましたので、少しずつペンが進む、もといキーボードを打つスピードが早まりそうです。悪い意味でのリバウンドが無い様、良い意味でのリバウンドが来るように頑張っていきたいと思います〜。

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