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第三章「軍師目覚めるは苦難への始まり」

「うぅ…あいてて…」


フレッドは小さく呻き声をあげて目を覚ました。

どれくらい気を失っていたのか分からない。

目立った外傷はない。

あの嵐から生き残れたのは運が良かったと思えるが、かすり傷程度で済んだのは正に奇跡的だった。


しばらくぐしょぐしょのローブを絞ったりなどしていたが、はっと気が付いて辺りをきょろきょろと見回す。

自分が倒れていたのは、どこかの浜辺。

打ち上げられた船の残骸などがごろごろ転がっている…しかし。

「おい、みんな!パール、グラットン、カムイ、フィオ、コリン!居るのかッ!」

旅の仲間の姿が見当たらない。

辺りには人影すら無く、フレッドの不安感は一気に膨らんだ。

 

まさか、みんなあの嵐で…

 

大きく頭を振る。

いや、今まで様々な戦場を駆け抜けてきた猛者達だ。

あれくらいで死ぬわけがない。

 

浜辺を駆け出す。嫌な考えが浮かんでくる前に、何とかして希望を見出したかった。

船の残骸と、打ち上げられた海藻類、投げ捨てられたゴミなどが広がる浜辺。

人の姿はフレッドを除いて他に無い。

走るスピードが、無意識に速くなっていく。心臓の鼓動が競りあがってくる…

「嘘だろ…誰も…居ないのか…」

呼吸が苦しくなり、フレドは立ち止まって浜に膝をついた。

突然過ぎる現状への変化、それは彼にとって考えられない事だった。

今まで共に戦ってきた、共に旅してきた仲間達が突然居なくなるなんて。

「パール、グラットン、カムイ、フィオ、コリン…みんな…!!」

「呼んだ?」

絶望に沈みかけた瞬間、フレッドの耳に声が飛び込んできた。

あまりに突拍子も無かったので、一瞬幻聴かと思ってあたりを見回したほど。

彼のそんな行動が面白かったのか、クスクスと笑い声が続く。

「こっちよ、馬鹿。」

馬鹿と言われてムッとくるよりも、聴いた覚えのある声に安堵する方が強かった。

立ち上がり、声がした方…後ろを振り返る。

「パール…!よかった、生きてたんだな!」

涙が溢れてきそうになったがぐっと堪えた。

そこにあったのは、間違いなく見慣れた毒舌魔導士の姿だった。

彼女はフンと鼻で笑い、当たり前でしょ、と笑った。

「私は魔導士よ?あの程度の衝撃なら、防御するのなんて簡単。」

確かに彼女にはかすり傷一つ無い。

ローブは所々擦り切れていたりしているが、やはり魔法の賜物。

「よく言う。」

とは言うものの、フレッドは安心していた。いつもの彼女そのものの様で。

「それにしても、他の連中は…?見なかったか?」

そう言った瞬間、パールレインの表情が暗く沈んだ。

その顔を見ただけでも状況の察しがつく。

「見てないわ…この浜には他に一人も居ないみたい。」

既に魔法で察知済みなのだろう。

「でも、死体で見つかるよりはマシよね。きっとどこかで生き残ってるわよ、きっと。」

彼女にしては珍しく、自分に言い聞かせるような口ぶり。

不安にさせまい、すまいとしているのだろうが…

波の音だけが辺りに響く。件の嵐が嘘のように静まり返った、穏やかな海。

しばらく無言だった。

「…とりあえず、だ。」

気まずい静寂を断ち切ったのは、フレッドからだった。

「ここで落ち込んでても仕方ないし、どこか休めるところを探そう。きっとみんな無事だろ…幾つもの死線を越えてきてるんだし。地図も何も無いから、町がどこにあるのかなんて分からねぇけど、こんな所でじっとしていても何も変わんねぇし。」

「アンタにしては珍しく前向きな事言うのね。」

すかさず飛んできた殴り言葉に苦い顔をしたが、彼女なりにフレッドの言葉を受け止めたということだろう。

「それじゃ、とりあえず負ぶってくれる?

「はァ!?」

あまりに唐突で、フレッドは今度は呆れ顔になった。

はぐれた仲間達が生きているかも知れない、さてみんなを探そうと立ち直った所に、このげんなりする言葉。

別に怪我をしているわけでもなかろうに、何でわざわざ負ぶってやらなきゃならんのだ、と。

「あれ。」

フレッドの顔を見て少し腹が立ったか、素っ気なく海岸を指差すパールレイン。

振り向いてみてみると、船の残骸、打ち上げられた海藻類、ひしゃげた車輪、殆ど原型を留めていない椅子と思しき…おや?

「壊れちゃってるのよね、車椅子。」

フレッドの口があんぐりと開かれた。

「お前…魔法で防御してたんじゃなかったのかよ。」

「してたわよ?」

「…その割に、車椅子壊れてるってのはどういう事なんだ。」

まさか彼女の魔法がその程度ってことではあるまい。

あの嵐で混乱し、ミスしたというのも、冷静沈着な彼女にしては…

「じゃあ、アンタの替わりに車椅子守って良かったってわけね?」

言われて、バッと振り返る。

自分がかすり傷程度で済んだのは、パールレインの防御壁が有ったから、ということか。

「そうか、お前が…」

「だからアンタは車椅子の替わり。さっさと私を運びなさい、馬鹿。」

フレッドに皆まで言わせまいと、パールレインは鋭く切り込んだ。

何だか守ったというのが気恥ずかしい。顔が少し紅潮しているのには気づかなかったが。

大した意味もなく馬鹿と罵られてがっくりと肩を落とすフレッドだったが、彼女の毒舌とこの性格は既知の事。

何赤くなってんだよと突っ込まない限りはこれ以上何も言いはしないだろうし、ハイハイと頷いておくのが一番だ。

「分かった分かった。ほら、負ぶされよ。」

近くまで行って、しゃがむ。その背にパールレインはふわりと捕まった。

おや?

「…パール。お前、車椅子無くても浮遊移動出来るんじゃねぇのか…?」

よく考えたら、彼女は車椅子に乗らないと移動出来ないわけではない。

足は否実体になっているため使いものにならないのは確かだが、魔法で浮遊移動すれば良いだけの話だ。

と言うか、むしろ車椅子の方が移動スピードは遅い。

「浮いたまま移動なんて、幽霊じゃあるまいし。それに、随時魔法使いっぱなしじゃ疲れるでしょ。」

じゃあ俺の疲れはどうでもいいのかよ、と言おうとしたが、どうでもいいと一蹴されそうなので止めておいた。

何も言わずによっこいしょと立ち上がり、とりあえず歩き出す。

「で、街はどこにある?」

「ここから南西。随分遠いけど。」

流石はパールレイン。既に街の位置は探知済みである。魔法とは便利なものだ。

「あの森の向こうね。まぁ、暗くなったら途中に小屋が有るみたいだし、異形が出たって大丈夫でしょう。」

パールレインが指差す先には、大して深くはないが森が広がっている。

森には身を隠す等の理由で異形が多く闊歩している事が多いが、パールレインが居るわけだし大丈夫だろう。

「オーケー。じゃ、行きますか。」

歩く方向を森へと変更し、砂を踏みしめる。

これから先何が起こるかなど、フレッドに知る術はない。

砂浜を踏みしめた一歩が、苦難の始まりの第一歩だった…

───…

「…ところで、お前ちょっと食事制限したらどうだ?」

鈍い打撃音が砂浜に響き渡った。

苦難の始まりとは言え、多少のものならはねのけてしまいそうではあるが。

久々の更新ですねー。死にかけたりとか病院行ったりしてましたorzこれからはガシガシやりますので、どうか見捨てないでやって下さい^^;

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