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第二章「軍師に降り懸かるは不幸の嵐」

コリンがずっと泣き続けていたため、他の五人は同室で休むことになった。

パールレインが男と一緒の部屋に寝れるかと腹を立てたが、彼女も流石にコリンの心中を察せないほど冷たくはない。

「お前なんかにちょっかい出す男なんて居ねぇよ。」


と言ったフレッドを張り倒しつつ、渋々ながら了解した。


ベッドは三つしか無かったため、フレッドは床に寝ることになった。

フィオはパールレインと同じベッドで休んでいる。

ちなみに、フレッドには毛布すら与えられていない。

ある意味では自業自得、身から出た錆とも言えなくはない。


「なぁ、パール。起きてるか?」


フレッドはなかなか寝付けずにいた。コリンの事が心配で仕方無いのだ。

「…寝てるわよ。」


「起きてんじゃねぇかよ。」


まだ根に持っている様だ。

彼女を怒らせると、機嫌を直すのに長いことかかる。

「コリン、どうしてんのかな。」


「泣いてるわ。」


魔法で遠隔視したか、声を拾ったのか。

彼女もコリンを心配して、様子を見ていたのだろう。即答だった。

「そうか…」


コリンは船に乗ってからというもの、食事も取らずに泣き続けている。

彼女の過去…小舟で海原を漂流し、空腹と絶望に囚われていた時と似通った状態に、自ら追い込んでいるのだ。

そして、また亡き両親の事を思い出し───…

悪循環だった。

しかし、彼女の幼さと純粋さが、その悪循環から抜け出せないようにしている。

「やっぱり船旅は止めた方が良かったのかな?」


「馬鹿ね。遅かれ早かれ船は旅に必要よ。時期がが早まっただけだわ。」


フレッド達は、歩みを止めるわけにはいかないのだ。

パールレインの言うことは正しい。

しかし、何だかやりきれなかった。

「アンタ軍師でしょ。少しは考えなさい、馬鹿。」


「あのなぁ、馬鹿馬鹿って言ってくれるが、俺はなぁ…」


「寝るから。」


ぴしゃりと言われ、フレッドは口を噤んだ。

しかし、口は悪いがパールレインはフレッドの気持ちを整えてくれている。厳しい態度、冷たく感じることも有るが、彼女には感謝していた。


陸に着いたら、コリンに謝ろう。

機嫌を直す為にも、多少の我儘も聴いてやろう。

今更あれこれ考えても仕方無い。これからどうするかが問題だ。

そう思った。




しかし、翌日。


フレッド達は、予期せぬ事故に見舞われてしまった。




「うわぁッ!」


大きく船体が傾き、バランス感覚に於いては右に出る者はないというカムイも、体勢を崩して尻餅をついた。

甲板に叩き付ける雨の音が部屋まで届いてくる。

床は甲板から流れ込んできた大量の雨水で浸水しており、揺れの度に壁や家具に跳ね返って飛沫を散らし、部屋中を濡らした。

「一体どういうことなのよ、もう!」


パールレインが濡れたベッドの上で怒鳴った。

彼女自身、既に頭から爪先までぐしょぐしょである。

「うぅぉえぇ…気持ちわる…」


フレッドは半ばグロッキー。

タンスにしがみつきながら、青白い顔で必死に耐えていた。



フレッド達は運の悪い事に、嵐に見舞われていたのだ。

この海域は大抵は穏やかなのだが、春から夏にかけての数日間の間、天候が突然崩れる時が稀に有るという。

一行は其のタイミングに、見事に的中してしまったようである。

多くの者は、フィオの様に宙に浮かない限りは、激しい船酔いを起こすだろう。

カムイの様にバランスに特化していたり、パールレインの様に魔法を使って酔いそのものを無くすなら別として。

「…流石に…参る…」


いつもの無表情で静かな声のグラットンだが、顔面蒼白だ。

さしもの彼も、この激しい揺れには耐えきれない様である。

更に、押し寄せる海水混じりの飛沫から機工の両手両脚を守るのにも必死な状況で、ベッドの上で藻掻いていた。

「運が悪いわね、全く。…転覆しなきゃ良いけど。」


パールレインも不安を隠せないようだ。

ごうごうと唸る風の音や雨の激しさから、嵐の強烈さが分かる。

木造の船がどこまで耐えられるか分からない…最悪、本当に転覆、沈没しかねないと思える。


フィオは、コリンの事が心配でたまらなかった。

嫌いな船、嫌いな海に、この酷い嵐だ。

どれだけの不安と恐怖を抱いているか、想像もつかない。


「ちょっとアタシ、コリン見てくる!」


流石にこの状況で放っておくわけにもいかないだろう。

誰か、すがる者が居ないと…と、そう思った。ドアを開け放ち、通路に出る。フィオはその能力…炎を操る力を持つ為に水が嫌いだったが、そんな事を言ってもいられない。小さな四枚羽を全力で羽ばたかせ、コリンの部屋へと急ぐ。

「…あの子に任せて大丈夫かしらねぇ…」


パールレインが少し不安そうに言った。

「大丈夫じゃないかな。フィオは純粋で、根は優しい…コリンに似てる部分もあるし。」


床に座り込み、ベッドの脚に捕まって体を作りつつ、カムイが言う。

パールレインは彼の答えに頷いた。

「…そうね。私達が行くより良いかもしれないわ。」





「きゃああぁぁぁあッ!!ヤだ、怖いいぃいいッ!!」


コリンはあまりの恐怖にパニック状態に陥っていた。

上下左右に揺れる船に弄ばれる様に部屋を右往左往し、壁や床に何度も打ち付けられている。

しかし、痛みより吐き気より、恐怖の方が強かった。

顔を手で覆い隠し、泣きながらも必死に恐怖に耐えようとしてるが、幼い彼女には酷だろう。


怖い、誰か、お父さん、お母さん、助けて…!!


頭の中でその言葉ばかりがループする。

誰でも良いからすがりつきたかった。少しでもこの恐怖が和らぐのなら…

「コリン、大丈夫!?」


バン、とドアが勢い良く開いた。

助けが来た!と察知したコリンは、顔を覆っていた手を離して声の方に駆け出していた。

「フィオちゃん!怖いよう!どうなっちゃうの、この船!!」


抱きつきたかったが、相手がフィオだから仕方がない。

両手でがっしりと体を掴んだ。

フィオは、首から上だけ出されて四肢を固定された状態になっている。

「ちょ、コリン、苦しい!ちょっと落ち着いて!」


言われて、ぱっと手を放す。

よほど苦しかったのが、げほげほと少しだけせき込んだ。

「フィオちゃん、ボク怖いよう!どうしよう、ねぇ!」


落ち着けと言うのが無理な話か、コリンは尚も泣きながらフィオにすがる。

どうしようと言われても、フィオにもどうすれば良いかなんて分からない。

「大丈夫、大丈夫だから!」


何とか少しでも落ち着かせようとして、大丈夫、と何度もコリンに言い聞かせる。

船は更に激しく揺れ、コリンを、そして他の皆の恐怖と不安をより一層掻き立てる。

「コリン、兎に角フレッド達の所に行こ!ここに居るよりはずっと…」


バァァアアンッ!!!

フィオの言葉をかき消すように、突如轟音が響いた。下層船室からだった。

「な、何ッ!何なのッ!?」


コリンが再びフィオをがっしと掴んだ。

同時に、船体が船尾の方向へと大きく傾く…!

「さっきの音って、まさか──!」


「駄目だ!沈むーーッ!!」


下層から、悲鳴に近い声が聞こえてきた。フィオの

「まさか」

は的中している…船底が耐えきれず、破壊して水が押し寄せてきた音だ!!

地鳴りにも似た音が響いてくる…!

「キャアアアァァァァッ!!」


半狂乱のコリン。しかし、もう船の運命は決まっている。

後は、生き残れることを天に祈るばかりだ。


一ヶ所に損害を受けた船はもう体を維持する事が出来ず、次から次へと致命的な破壊を受けていく。

大量浸水から内部からの破壊が連続し、船はその機能を失っていった。


そして、フレッド達が乗った船は、目的地に到達する事無く、海の藻屑と消えたのだった──…

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