路上生活者の過ち
※2011/8/25訂正
会社をリストラされ、女房には捨てられ、働く気も失せて貯金も無くなり路上生活。さすが10年もこういう生活をすれば慣れる。私がまだホームレスになったばかりの時はどうやって生活したらいいか分からずに盗みばかりしていた。
私が路頭に迷うようになったばかりの頃は稼ぎ方も分からず食事もまともに取れず、お腹が空き過ぎて公園の水で空腹を満たすのは当たり前、それでも空腹を満たせない場合は公園にある雑草を食べる時だってあった。そんな時に無い知恵で思いついたのは、お墓に供えてある食べ物を拝借する事だった。
幽霊とか祟りなんか気にしてられなかった。その時の私は死ぬか生きるかの瀬戸際だったからしょうがないと思っていた。毎日お墓を回りながら供え物の食べ物やお酒、煙草などを盗む事でなんとか生活をする事が出来た。
今日も日課の盗みが終わり、いつものようにダンボールとビニールシートで作った家で寝始めようとしていた時に
「わしのじゃ」
家の外から声が聞こえた。私の家は公園内に設置しているので声が聞こえるのは当たり前なのだが、今日はいつもと違った。こんな深夜に年寄りの声が聞こえるのもおかしいが、私の家に向かって言っているようだった。
「かえせ、わしのじゃ」
また声が聞こえた。私はビニールシートを捲って外の声の主を確認する。
暗闇に立っていたのは一人の老婆。微かな月明かりだったので老婆の姿を目を凝らして見た。老婆はボロボロの布を纏っていたのは分かったが、顔は前髪で隠れてよく見えない。仲間かと思ったがとりあえず今は、私が寝るのに邪魔だったので何処かに行ってもらう事にした。
「すいません、何の話ですか。時間も遅いので何処か行ってもらえますか」
「かえせ、わしのじゃ」
私が何を言ってもそれしか言わない。さすがに手を出すのは出来なかったので、私は家から出て自転車で違う町の墓場に行く事にした。戻ってきた時にはあの婆さんはいなくなるだろうと思っていた。
公園に帰ってきて、時計台を見ると時刻は深夜4時30分。少し明るい。
家に帰る前に少し離れた場所から、老婆がいるかどうかを確認した。もしいたら今度は力ずくでも何処かに行ってもらおうと思いながらも確認をしたが居なかった。
どうやら何処かに行ってくれたらしい、私は安心して家の中に入り拾ってきた毛布で体を包んだ。
「かえせ、わしのじゃ」
眠気で意識がどんどん薄れていく時、また老婆の声がした。
私は頭にきてビニールシートに手をかけようとした時……
「かえせ、わしのじゃ」「盗った物を差し出せ」「罰当たりが呪ってやる」「末代まで祟ってやる」「絶対に逃がすものか」「かえせ、わしのじゃ」「盗った物を差し出せ」「罰当たりが呪ってやる」「末代まで祟ってやる」「絶対に逃がすものか」「かえせ、わしのじゃ」「盗った物を差し出せ」「罰当たりが呪ってやる」「末代まで祟ってやる」「絶対に逃がすものか」
今度は一人では無く、複数の人々がいる。彼らが言っている事に私は心当たりがあった。
私は恐怖で震える手でゆっくりとビニールシートを捲った。そこにいるのは人、人、人、人、人、数えきれない人。小さな公園が人でいっぱいになっていた。
ただの人ではない。今まで私が盗んできた墓の住人達だった。その事に気がついた私はショックで意識を失った。
しばらくすると、私は意識を戻した。
私はもう供え物には手を出す事を辞めた。
今では空缶や鉄くずを集めてお金に換えて生活を過ごす日常。
ただ
いまだに彼らは深夜、私の所に来て供え物を返してもらおうとする。
「かえせ、わしのじゃ」
自業自得で罰当りな話ですが、今現在こういった人はいるんですよねぇ~