小指探し
2011/10/21改稿
「嘘ぴょ～ん！」
今日もまた『小指』をしていた。そしてまた薬指役の女の子が泣いた。
「ゴメンって！ 泣かなくてもいいじゃん」
友人が笑いながらも女の子を慰めている。
この頃は初対面の女の子達と遊ぶ時はよく『小指』をやっている。『小指』とは小指役がゲームを進行して親指、人差し指、中指、薬指役の順に夢の世界に行ってもらい『小指』を探してもらうというゲーム。ここまではいかにも怖そうなゲームなのだが、実際は薬指役の女の子を怖がらせるだけの心霊ドッキリみたいなものだ。
今日も『小指』未経験者と遊ぶ約束をしていた。
女の子達と合流して僕達は「面白い遊びがあるんだけどやろうよ！」といつものように誘う。
いつもの電灯が少ない公園について今から遊ぶ内容を女の子達に説明した。適当な事を言って嫌がる女の子達を『小指』に無理やり参加させた。怖がっている子から順に薬指役、中指役、人差し指役を決める。いつもは僕が小指役（司会者）なのだが、今日は親指役をやることになった。
友人はいつも通りに『小指』を進行する。
司会者の友人がルールの説明などを終えるといよいよゲームが始まる
「それでは『小指』始めます。親指役から順に夢の世界に行ってもらうので、親指役以外は僕が肩を叩くまで目を閉じて、下を向き、耳を塞いで下さい。」
皆が下を向いてのを確認すると友人が僕の耳元に小さな声で夢の世界に行くための魔法の呪文を唱える。
本当は魔法の呪文なんてものはないんだが……
「迫真の演技をヨロシク！」
友人が僕の耳元でそう言うと、いつも友人がしているように僕は気絶をしたフリをした。
女の子達の反応を見たくなってきた僕は、うっすらとばれないように目を開けた――
おもわず僕は目を開けて、立ち上がった。
目を開けて見えたのはさっきまでいた薄暗い公園ではなく、一昔前の村。
――空は真っ赤に染まり、地は僅かながらも雑草があちこち生え、両手で数えれるぐらいの藁で造られた家々――
それはまさしく僕の頭の中で想像していた『小指』の『夢の世界』であった……
僕が混乱しながら呆然と立っていた所、突然背中にチクッとした痛みがした。思わず後ろを見ようとした時『小指』のルールを思いだした。
“決して後ろを向いてはいけません。後ろを向いたら現世に戻れません”
もし後ろを向いたら……僕は……と考えたら恐怖で身を固めた。
また背中に小さな硬い何かが当たった、そして今度は声が聞こえた。
「お兄ちゃん、遊ぼうよお兄ちゃん、遊ぼうよお兄ちゃん、遊ぼうよお兄ちゃん、遊ぼうよ」
僕は何も言わずに声が聞こえたと同時にそこから逃げ出すように走り出した。
しばらく走り続けて僕はとうとう疲れきってその場に座り込んだ。
吐き出す息が止まらない。足の震えも疲れからの震えなのか、この世界での恐怖体験の震えなのかよく分からなかった。
とにかく逃げ切れたと安心していた僕だったが、後ろからまたあの子の声が聞こえた。
「お兄ちゃんはもう返さないから……」
僕は走り疲れた体に鞭を打って、また逃げ出した。
（もう嫌だ、いつになったらこの地獄から解放されるんだ）
そんな思いも虚しく、後ろからあの子が僕に向けて語りかける。
「逃げても無駄だよ、だってここはお兄ちゃんが作った世界だから」
全身が恐怖で震えるのが分かる。逃げたいのに疲れと恐怖で動けない。背中には小さな小石や木の枝のような物が投げられているのが分かる。
僕は目を閉じ考えた……『小指』だ。
この遊びを終わらせるには小指を見つければ、元の世界に戻る事ができる。そう思ったら体が軽くなった気がした。この恐怖に体が慣れてしまったのか、僕は目を開け小指を探しながらまた走り出した。
走っても、走っても、走っても後ろにいるあの子の声が聞こえる。
「どうせ見つけれないよぉ～、そんな事はやめて私と遊ぼうよ」
それでも僕は小指を探しながら必死に走って、走って、走った。
「……見つけた」
僕は見つけた小指を掴むと小指が消え、全ての景色が真っ暗になった。
すると突然後ろから何かに抱きつかれた！
思わず驚いて体がビクっと反応する。するとあの子の声が聞こえた。
「お兄ちゃんまた来てね！ 次は絶対に返さないからさ！」
「嘘ピョ～～ン！」
友人の声がして、目を開けると女の子が泣いていた。
それはいつもと同じ『小指』の風景だった。
遊び半分でこういうことをしていると痛い目にあいますよ
