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星海の白狼  作者: シアンHCN
Prologue
3/3

File.3 海王星域第一宇宙軍基地

2599年1月12日

PM 03:00《グリニッジ標準時》

太陽系・海王星近傍宙域

地球統合共和国海王星域第一宇宙軍基地・付近28万キロメートル地点

地球統合共和国宇宙軍第12調査研究艦隊所属小型偵察艇|《SR-15》523号機

side 523号機パイロット・カール・レディセス大尉



『管制塔よりRS7RP1。着陸を許可する。誘導レーザーの指示に従い着陸処理を実行せよ。現在当基地は第一種警戒態勢が発令されており、離陸する機が多数ある。出撃時の事故を避けるため基地周辺3万キロメートルよりは他機との接触事故に特に注意せよ。着陸後は機体を第24番ハンガーの15-87号に駐機、その後は係員の指示に従え』


「RS7RP1、了解」


 軍に入ってから10年近くが経つが、これほどまでに殺気だった雰囲気をびりびりと感じたのはこれが初めてだった。

 高倍率望遠システムを起動させれば、出撃していく戦闘機や攻撃機、基地から離れていく戦闘艦の群れが目に入ってきた。

 それも尋常な数ではない。

 望遠システムによって数える事を諦めて三次元レーダーを起動してみると基地付近では重なり合う機があまりに多すぎ、最早意味の無いでこぼこの塊にしか見えなかった。


『……とりあえず、無事に帰れて良かったわね』


「《オライオン》はどうなったか分からん。母艦を喪失していたら、無事に帰れたとは言わないさ」


 サラからの通信に対し、俺は無感情に返答した。


『あの艦はどうしようもなかったわ。0.8秒で全システムがクラックされてしまった上ほぼ同時に敵味方識別システム以外の軍事ネットワークから完全に切断された。特殊部隊がいれば艦に直接乗り込んでシステムを手動復旧できたでしょうけど、あの周辺にいた戦力では何も出来なかった。それに、あなたの体は無事じゃない。精神についてはどうか知らないけど』


「精神は最悪に決まってるだろ。同僚も上司も、持ち物も全部持って行かれた」


『失った、とはまだ言えないみたいね。《オライオン》が無事に戻ってくる可能性は非装甲の宇宙船が木星の大気圏内に突入して乗員乗客、設備全て無事で帰ってくる確率と大して変わらないわ。素直に諦めたほうが精神衛生上もいいと思うけど』


 『彼女は本当に14歳の少女なのか?』と疑ってしまうのも無理はない、と納得したのはもうこれで5回目になる。

 14歳という事実とつり合っているのは声と、若干反抗期めいた言葉遣いだけだ。

 子供らしい、純朴さや人懐っこさからはかけはなれた、現実主義的で冷淡な態度だった。

 しかし、それも当然だろう。

 この歳で既に科学者の端くれどころか古来の大科学者と並び讃えられるほどの実力の持ち主であるのだから。


「君はもう少し『思いやり』について勉強した方がいいと思うよ、ヴァルトルール博士」


『別に私はボランティアでもないし、人を思いやって何かよい結果が出たりするような職種でもないから勉強する必要性を感じないわ』


 皮肉に対してもあっさりとした対応、とりつく島もないとはまさにこのことだろう。

 こんなことをすればサラは嫌そうな顔でもするだろうか、と半ばいやがらせめいた考えで、俺は言った。


「好きだよ、サラ。愛してる」


『母船を失ったせいで精神がおかしくなったみたいね』


 動揺の一切も見せずに一蹴された。

 まあ今先程知り合ったばかりの人間にそんなことを言われて動揺する者もいないか。


『こんな会話でも少しは気が楽になるでしょ。あともうちょっとで基地に到着、あなたと会うことは多分もうないわ。何かの巡り合わせがない限り』


「まあ、そうだな。君は地球に帰るのか?」


『ええ。正確には月だけど。実験機をこんな前線に置いとくわけにはいかないし、私も来月までには大学に一回戻らないといけないから。あなたは……この基地で検査を受けてから火星か月の基地に異動になるでしょうね。あの時の状況を一番よく知ってる人間でもあるし、精神的ショックもかなり大きいと診断されるはず』


 多分、そうなるのだろうと予測していた。

 自分は《オライオン》が敵にやられた時にそのすぐ近くにいた証人の一人でもあるし、母艦を失った人間がすぐに新たな艦に配属されることはまずない。

 しばらく地上や基地での勤務が命ぜられるのが常だ。


「だろうな」


 返事をすると、突然サラとの通信が途絶した。

 まさか何かに衝突したかと慌ててレーダーに目を移したが現在サラの機体には機密保持のためレーダー隔離システム(ハイドモード)が設定されている事に気付き、ため息を吐きながらシートに腰を下ろした。


「全く、なんなんだ……」



 サラとの通信が回復したのは滑走路に突入するまであと数分ばかりというところだった。


『ごめんなさい、本当なら私もこの基地に立ち寄るつもりだったけど、今すぐ地球に戻る必要が出てきた。ここでお別れになるわ』


「一体なにがあったんだ? 燃料の残量は」


『国防情報庁《DIA》の鳥頭共からの呼び出しよ。もう何回も状況は説明したし、データも転送したっていうのに、どうやら直接会って確かめないと気が済まないみたい。燃料は……メインベルトの基地まではなんとかなるわ。とりあえずこの機体について、あと冥王星宙域で私と会ったことについては他言無用でお願い。変に情報が漏れたら私にとっても、あなたにとってもあまりよくないことになるから』


「そうか、燃料に問題がないならよかった。了解、機密についてはしっかりと守る。軍法裁判所行きはごめんだ」


 本来、彼女が俺を助けたこと自体がイレギュラーな出来事だったはずだ。

 宇宙軍の、航宙艇を扱う立場にいるにもかかわらず、機体のスペックはおろか、型番すら一切聞いたことがないというのはつまり……どういうことであるかは明白だ。

 誰かに話してしまったが最後、その日の夜には黒服の男達が来て俺をどこかへ連れ去ってしまうかもしれない。


『じゃあ、行くわ。あなたが無事でいることを祈ってる』


「ありがとう。君にも、君の信じる神の加護があるように」


 今度こそ本当に通信は切断され、俺は三次元レーダーに映った大量の機影の中から自分の位置に近いものを選び出し、予測軌道を確認する。

 通常最も危険な1万5000キロメートル地点はもう通り過ぎたためか、危険軌道にある機体は存在しなかった。

 オートパイロットのまま機は滑走路に突入し、下部のアレスティング・フックがワイヤーに絡め取られ、急制動がかかる。

 胸が締め付けられるような特有の感覚に顔を顰めながら、推進機関の停止ボタンを叩いた。

 これまでの着陸準備機動により十分に減速された状態ではあったが、未だにこの感覚は慣れない。


 機が完全に停止したのを確認すると、作業員たちが続々駆け寄ってきて機体の外部状況の確認をしつつ有害物質飛散防止用の洗浄液を盛大にぶっかけていく。

 俺は作業の終了を待ちながら、自分が二度目の宇宙戦争が発生する瞬間を見つめていたという事実を改めて確認した。

 一体、地球はこれから何度戦争に見舞われるのだろう。

評価や感想、誤字脱字の指摘など、お待ちしています!

次回更新は未定です、すみません

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