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星海の白狼  作者: シアンHCN
Prologue
2/3

File.2 エッジワース・カイパーベルト

更新が遅れてしまい申し訳ありません。

これからは一週間に一度くらいのペースで投稿できるかと思いますが、遅れてしまったらすみません。

2599年1月11日

AM 11:25《グリニッジ標準時》

太陽系外縁部・準惑星《セドナ》近傍宙域

地球統合共和国宇宙軍第12調査研究艦隊所属小型偵察艇|《SR-15》523号機

side 523号機パイロット・カール・レディセス大尉



 今日の観測予定を全て終え、俺は母艦である情報収集艦オライオンと通信を繋いだ。


「RP1よりレコンS7、半径36光秒内に異常はみられず。どうぞ」


『レコンS7よりRP1。了解した。《セドナ》地表面より500キロの位置まで接近可能か?』


 どういうことだ?

 観測はもうこれで終わりのはずじゃなかったのか?

 疑問を押し殺して俺は《オライオン》に返信した。


「……可能。ただし減速のため15分必要」


『了解。では《セドナ》を周回しつつ地表面の接近観測を行え』


「了解。《セドナ》地表面の接近観測を開始する」


 三次元レーダーの表示を見ながら減速処理を行い、少しずつ《セドナ》に機首を向けていく。

 10分ほどで《セドナ》の赤い地表面が見えるようになった。

 《セドナ》にはめぼしい鉱物資源が存在しないため、軍や民間人も滅多に足を踏み入れることがない、

 そんな場所を観測して一体どうしようというのだろう。


 いや、別にそんなことは考えなくていい。

 観測しろというからには何らかの理由があるのだろう。



 だが、観測位置についても何の反応もない。

 これまでの準惑星基本データと不一致の箇所が全く見られない。

 下方に《セドナ》の赤い大地が広がるだけだ。


 これは一体どういうことだと思い、俺は《オライオン》と通信を繋いだ。


「RP1よりレコンS7、当該準惑星セドナに異常なし」


『…………』


 《オライオン》からの返信がない。


「RP1よりレコンS7、応答せよ。当該準惑星セドナに異常なし」


『…………』


 何度も交信を試してみるが、一向に返信がこない。

 《オライオン》艦内でなにかただならぬ状況が発生していることは明らかだった。

 機器に異常が発生しているのなら機械音声でその旨について説明があるはずなのだ。

 それすらない、ということは……?


 突然、機内の緊急警報システムが作動した。

 けたたましいアラーム音と共に警報概要を伝える文字がレーダー上に表示される。


《ロックオン警報》


 戦時や演習時にしか出るはずのない警報が浮かび上がっていた。


《弾着までの残り時間 15秒》


 まさか、《オライオン》は……撃沈されたのか?

 いや、それはおかしい。

 レーダー上にはまだ《オライオン》は表示されているのだ。

 撃沈されれば表示が消えるはず。


《弾着までの残り時間 10秒》


 くそ、まずはこの機をどうにかして守らなければ。

 スロットルを限界まで引き上げ、緊急加速に入る。

 だが、これは所詮偵察艇。

 決して加速は良くないし、機動性もいいとは言えない。


《弾種確定 光子ミサイル》


 これはまずい。

 亜光速で迫ってくるミサイルに対処できる小型宇宙艇は機動性が高い戦闘機や自機防衛用火器を備えている爆撃機、攻撃機くらいのものだ。

 偵察艇でどうにかできるような兵器ではない。

 宇宙服のみで宇宙に放り出されるベイルアウトは勘弁願いたいものだが、このままでは確実に撃墜されてしまう。

 単座の偵察機じゃなければ緊急脱出パックとかいって脱出艇が完備されていたというのに……ついていない。


《弾着までの残り時間 5秒》


 ……脱出しかないか。

 そう考え、俺が緊急脱出レバーを引こうとした時、突然通信が入った。


『待ちなさい! 脱出したら、死ぬわよ!』


 それは間違いなく、女の子の声だった。

 絶対に成年女性の声ではない。

 つまり、軍用機に乗れる年齢ではない。

 それなのに何故軍用無線に割りみしてきているのだ?

 考えているうちにミサイルはベイルアウトすらできない位置にまで接近してきていた。

 ……終わりだ。

 走馬燈を見ながら、死をただ待つのだと思った、次の瞬間。


 前方で、光が弾けた。


 同時にレーダーに新たな光点が出現する。

 機種名、ESFX-3。

 実験機を表すXナンバー。

 それを与えられた機体が、俺を助けてくれた?


『早く! 逃げるわよ! ここじゃ《オライオン》からまる見えだわ!』


 同じ女の子の声だ。

 通信接続はESFX-3だから彼女はESFX-3に乗っていることになる。

 だが、そんな疑問よりももっと優先しなければならないことがあった。


「《オライオン》から……? どういうことだ?」


 俺の質問に対して、彼女はとんでもない返信を寄越した。


『《オライオン》は、敵に奪取されたわ。共和国軍の動きは敵に完全に把握されてる。以上、説明終わり! とりあえず海王星の基地まで飛ぶわよ!』


 光点は戦闘機でも不可能な急転回を行い、彼女の言葉通り海王星に向かうルートを進んでいく。

 実験機を子供が操るなんて聞いたことがない。

 一体彼女は何者なんだ?


 ……本当に《オライオン》がまだ何者かも分からない敵に奪取されたとするなら早急に逃げなければならないのは確かだ。

 《オライオン》は情報収集艦で、レーダーの能力は非常に高い。

 海王星まで行けばさすがにレーダーの効果範囲を離れる……か。

 俺は光点について行く事に決め、方向転換と加速に入る。


「結局、君は何者なんだ? なんだって子供が実験機なんかを……」


『私の名前、教えといてあげるわ。サラ・ヴァルトルール』


 名前を聞いてやっと、この不可解な状況を理解することが出来た。

 サラ・ヴァルトルールといえば、四年ほど前に話題となった『千年に一度の天才科学者』だ。

 10歳のときに超光速航法の改良についての論文を提出し、学会どころか世界中が大騒ぎになったことは誰もが覚えていることだろう。


 現在は軍に特別待遇で招聘され新型戦闘機の開発に携わっていると聞いたことがある。

 つまりこのESFX-03というのが件の新型戦闘機なのだろうか。


『さあ早く、撃ち落とされくないなら海王星へ針路を!』


「君の実験機と違ってこっちの旋回能力はそんなに高くはないんだよ! 君と同じような事をすれば俺とこの偵察艇はGで木っ端微塵だ!」


『ったく、遅いくせに旋回すらまともにできないなんて』


「君のが異常なだけだ!」



 訳の分からない論戦を繰り広げながら俺と少女はなんとか海王星の宇宙軍基地へ辿り着いた。


 そしてそこで、10年前の敵がまたしても襲来した事を知るのだった。




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