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星海の白狼  作者: シアンHCN
Prologue
1/3

File.1 第一次太陽系戦争

初投稿で至らぬ所も多々あるかと思いますが温かい目で見守って頂けると嬉しいです。

西暦2588年12月30日

AM 08:25《グリニッジ標準時》

太陽系・冥王星近傍宙域

地球統合共和国宇宙軍第1戦闘巡洋艦隊

艦隊旗艦・戦闘巡洋艦《インディファティガブル》

side 《インディファティガブル》艦長・赤司正典(あかつかさまさのり)大佐



 《インディファティガブル》艦内は水を打ったように静まりかえっていた。

 これから始まる一大決戦への緊張か、それとも嵐の前に脅える獣の心境か。それは分からないが、一時間も経過すれば私たちか、敵か、生存者がそのどちらかに絞られるであろうことは確定的な事実だった。

 五年前、突如として現われた地球外知的生命体(エイリアン)は、太陽系内を航行する地球の民間船舶を次々と撃沈し、暴虐の限りを尽くした。

 今日は、その粗暴なる異星人を追い出す――恐らくは最初で最後の機会だ。

 ここで勝てば晴れて異星人は追放され、太陽系に安寧が訪れる。反対に敗れれば太陽系は奴らの支配下に置かれ、地球人類は長い辛苦の時に置かれるだろう。

 今回は負けながらも力を必死で蓄え続けた地球人類の、最後にして最大の抵抗だ。


『反攻艦隊総司令より参加全将兵へ』


 スピーカーから音声が流れると、ブリッジの無質量モニタに反攻艦隊総司令である老齢の男の顔が映された。

 ブリッジクルーたちはこれまでの沈黙を壊さないまま、一斉にモニタへと目を向ける。


『本日の作戦は、地球人類の自由を懸けた戦いである。もしも敗れたならば、人類はこれまで大切に育ててきた自由という名の植物を刈り取られてしまうだろう。それから逃れる術はただ一つ。この戦いで勝てばいい。本作戦は決戦であると肝に銘じよ。負ければ自らの命も、家族の命もないと思え。だが……焦るな。常に冷静でいれば、たとえどのような戦況であったとしても必ず道は見える。訓練通りにやればいい。そうすればきっとあの異星人たちも殲滅できるだろう。――以降は第1種戦闘配備にて待機せよ。作戦開始の合図は全艦アラームにて通知する。以上、通信終了』


 総司令が軽く挙手の敬礼を行うのとほぼ同時に映像は途切れた。

 心に響く名演説などではなかった。そこには、ただ事実のみがある。

 将兵を鼓舞するという意味ではこの演説は決してよくはない。だが、将兵の心を引き締め、現実世界に戻すという意味では明らかに効果があった。

 物音一つも立てない気味の悪い沈黙はいつしかホログラフィックキーボードをタップする音が響く空間へと変貌している。その音を聞いて、これまでの虚無的な静けさの意味を察することができた。

 皆、一種の放心状態にあったのだろう。これからの戦いで自分の人生そのものが劇的に変貌するであろうという確信めいた予測を信じることができなかったのだ。

 私は我に返ったブリッジクルーに向かって命令を飛ばした。


「180度モニタに外部映像を投影。全兵装をスタンバイ状態に移行、情報収集艦からの情報同期レベルを最大に」

「……了解、180度モニタに外部映像投影、全兵装スタンバイ移行、情報同期レベル最大」


 クルーの復唱から数瞬後にはブリッジ前方の180度展開型大型モニタに星空が映し出された。

 左上に見える大きな星は冥王星の衛星・カロンだろうか。

 私が座っている席の前方にある3基ある小型モニタの1つに目を移すと、これまで全て赤文字で『停止状態』と表示されていた兵装ロック管理システムが黄文字の『待機状態』へと変化していた。

 作戦開始時刻はグリニッジ標準時で8時30分。もう2分と残ってはいない。

 戦闘配置図を見つめるが、恐ろしいほどに動きがない。

 こちらが大艦隊で迫っていることをとうの昔に知っているはずの敵方も、作戦開始まで時間を待ち続けている味方も、1ドットたりとも動きはしなかった。

 敵はやはり自信があるのだろう。烏合の地球人ごときにやられはしないという慢心にも近い自信。

 しかし、これまでの奴らの戦いぶりからして、練度はそれほど高くはない。ただ、使っている戦闘艦の性能が優れているだけだ。

 そこにつけ込むことが出来れば、私たちは確実な勝利を収められる。

 静止したモニタを眺めながら、息を吐いた。

 ほぼ同時、艦内にけたたましいブザーの音が鳴り響いた。

 作戦開始の合図だ。


「全兵装ロック解除! 最大戦速へ移行!」

「了解! 全兵装ロック解除!」

「了解。最大戦速へ移行!」


 甲高いピープ音と共に黄色の文字が緑の『発射準備状態』へと塗り替えられた。

 今回、私たち第1戦闘巡洋艦隊に与えられた任務は単純明快であるが故に最も困難なものだ。

 正面戦闘を担う5つの戦闘艦隊のサポート。

 サポートと言えばそれほど負担はないように見えるが、実際は防御補助、攻撃補助、補給補助など多種多様で臨機応変な行動が求められる。

 ……しかし、艦隊そのものの運用を担当するのは一階層下の戦闘指揮所(CDC)にいる艦隊司令だ。

 私は旗艦であるこの艦をどう活用し、生存させるかを考えるだけだ。


「航宙母艦《ホーネット》所属攻撃機が接敵!」

「第2戦闘艦隊、接敵!」

「第14駆逐艦隊、接敵しました!」


 ブリッジクルーたちが次々と接敵の報告を行う中、私は戦闘配置図のみをただ見ていた。

 主砲射程範囲に接近するまで、あと15秒程度だろうか。


「主砲発射準備、目標、敵巡洋艦ナンバー8」


 私の言葉に火器管制官が「了解」と答えると、戦闘配置図の赤い菱形にカーソルが出現した。

 ロックオンを意味するカーソルを横目に、私は時間を数える。

 6、5、4。

 3、2、1。

 ゼロ。


「主砲、発射」


 180度モニタの下部から荷電粒子の黄色い光の帯が何もない星の海へと吸い込まれていき……小さく瞬いた。


「着弾。しかしなおも目標健在。当該艦より高度エネルギー反応検知。荷電粒子砲発射兆候」

「対荷電粒子砲シールドの出力をレベル10へ」

「了解、対荷電粒子(CP)砲シールド出力レベル10」

「敵攻撃機接近確認、機数16」

近接防御火器システム(CIWS)起動、対(F)ミサイルスタンバイ」

「了解、CIWS起動、対機ミサイル発射準備」


 次々と報告される状況に対して私は命令を飛ばしていく。

 今のところCDCからの命令は下りてきていない。つまり、艦長判断に任せるということだ。

 個艦判断ができない状況――激戦状態になるまでは自己の判断で動けという、司令の声なき指示だった。

 あとは――。


「コード2112、戦闘巡洋艦《インドミタブル》より電信。『敵攻撃機ナンバー156より163はこちらで処理する。それ以外は貴艦での対処を願う』です!」


 艦隊のチームワークだ。


「《インドミタブル》へ返信。『了解、164より171を処理する』」

「了解。《インドミタブル》へ返信」


 攻撃機を処理、と言っても別に撃墜する必要はない。ミサイル、機銃等で弾幕を張って敵機ミサイルの射程圏外に置き続ければ良い。

 どちらも秒速数キロから数十キロで動いている状況で、弾幕をくぐり抜けるのは非常に困難だ。


「敵巡洋艦より荷電粒子砲発射確認。弾着まで6、5、4、3、2、1……」


 まもなく敵攻撃機がこちらの射程に入るというところで、180度モニタの景色が弾けた。

 続いて小さな振動。巡洋艦から発射された荷電粒子砲が正面シールドに直撃したのだろう。


「被害状況知らせ」

「正面対荷電粒子砲(CP)シールドに中度の散乱確認。25秒で修復し……敵攻撃機からの対艦ミサイル発射確認! ミサイル種別、遅発式荷電粒子砲ミサイル! 弾着まで15秒!」


 荷電粒子砲ミサイルということは、この艦の間近で荷電粒子砲を発射されることになる。

 シールドが修復されていない状態ではそれほどの出力でなかったとしても艦本体へダメージが及ぶ可能性も高い。

 私は危険性が大きいと判断し、火器管制官に向かって叫んだ。


「迎撃ミサイル発射! CIWSでの迎撃も試みろ! 対機ミサイルによる攻撃機排除もだ!」

「了解ッ!」


 復唱している余裕などないと分かっていたのか、火器管制官は即座に火器管制用のボタンを、一見すると乱暴に押し始めた。

 戦闘配置図の中央に『発射』の表示が現われるのと時を同じくして180度モニタが光に包まれた。

 深く沈み込むような音と振動が艦内を駆け巡り、明らかにシールドで受け止めきれなかったことを示していた。


「被害状況!」

「正面シールドに重度の散乱! 3F・G区画付近の装甲溶解! ただし気密区画までは到達せず! シールド修復に3分!」

「緊急停止! 後進一杯!」

「了解! 緊急停止、後進一杯!」


 気密区画にまで到達しなかったのは不幸中の幸いだったが、三分という時間はこの戦場では致命的な隙だった。

 このまま正面シールドに攻撃が集中すればほぼ確実にこの艦は沈んでしまう。

 艦隊旗艦であり、それほど多くない戦闘巡洋艦を失うのは大局的に考えても良いことではない。

 一時撤退やむなしと考え司令に指示を仰ごうとしたとき、通信士官が声を上げた。


「CDC・艦隊司令より緊急連絡。『本艦《インディファティガブル》喪失の可能性上昇。回避のため艦隊総旗艦位置付近までの撤退を命ず』です」


 どうやら、司令も私と同じ事を考えていたようだ。

 これまで口を出さなかったのはあくまでCDCによる指揮の必要性がないという司令の存意だったということだろう。


「戦闘巡洋艦《インドミタブル》、《インヴィンシブル》より電信。『貴艦の撤退を援護する』以上」

「両艦に返信、『了解。援護に感謝する』」

「了解。《インドミタブル》、《インヴィンシブル》に返信」

「右舷バウスラスタ、左舷スターンスラスタ起動、旋回開始」

「了解しました。右舷バウスラスタ、左舷スターンスラスタ起動、取り舵旋回を開始します」


 その場で《インディファティガブル》は旋回を開始し、180度モニタの景色がゆっくりと横に動いていく。

 それまでの方向から160度ほど旋回したところで私は命令を発した。


「両スラスタ停止、前進開始、第4戦速へ」

「了解。サイドスラスタ停止。前進開始、第4戦速」


 180度モニタが投影する星が後ろに流れ出すとほぼ同時、信じられない報告が通信士官からなされた。


「CDCより緊急連絡! 『撤退の必要なし。敵総旗艦撃沈、敵戦闘艦も多数撃破、敵艦隊撤退開始。全艦隊をもって追撃する。《インディファティガブル》も追撃に参加せよ』です!」


 通信士官の言葉の意味をしばし理解出来ず、私は混乱しながら命令した。


「左舷バウスラスタ、右舷スターンスラスタ起動、旋回開始」




 旗艦を失ったことにより大混乱に陥った敵軍は奴らにとって数世代は古いであろう私たちの艦隊に翻弄され、後退に後退を重ね、ついには潰走した。

 敵旗艦撃沈のきっかけを作ったのが軍技術研究所の超高度ステルス戦闘攻撃機であると知ったのは、地球へ向かって凱旋航行を行っている最中のことだった。


 何はともあれ、地球人類は敵対者としての地球外知的生命体(エイリアン)を太陽系から放逐したのだ。


 だから、私はこれで終わりだと思った。

 これからは太陽系を、そして更に外の宇宙に向かって開拓を進め、より豊かになっていくのだと信じていた……



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