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滅びた未来で、TSメカ少女は戦場に咲く  作者: 矢代大介


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第5話 目指すは〈コロニー〉



「……えーっと。話をまとめるね?」


 スイと名乗った少女に案内された先、停めてあった大きな輸送機――いわゆるティルトローターからプロペラを取り払い、代わりにジェットエンジンを取り付けたような飛行機に乗り込んだ俺は、同乗したスイに促されるまま、ここまでの経緯を語って聞かせた。

 


 一通りのいきさつを話し終えると、目を白黒させていたスイが、両手で静止の構えを取ってから、要点を言葉にしてまとめ始める。


「チヒロちゃんの視点から見たお話だと、目が覚めたら世界が崩壊してて、しかもチヒロちゃんはもともと男の人だったのに、なぜか女の子になってる……ってことでいいんだよね?」

「ああ、合ってるよ。で、こうなった手がかりを見つけたくてウロウロしてたら、あとはスイの知ってる状況になった……って感じだな」


 話をまとめてようやく内容を飲み込めたらしいスイが、はーと気の抜けた声を漏らす。


「わたしが言うのもなんだけど……大変な状況だったんだね、チヒロちゃん」

「まぁ、な。こうしてスイに助けてもらえはしたけど、俺がこんな姿になった理由も、世界が荒廃してる理由も、結局なにもわからずじまいなんだよな」


 命を拾うことはできたものの、目の前にあるのは今も変わらず、うず高く積もった疑問の山。

 光明の見えない問題に額を抑えていると、対面に座るスイが、おとがいに指を添えながら口を開いた。


「んー……わたしも昔のことはそんなに知らないけど、〈マザー〉ならいろいろとデータを持ってると思うな」

「マザー?」

「うん。わたしたちの住んでる〈コロニー〉を管理してる人工知能(AI)だよ。わたしの上司みたいなヒトでもあるんだー」


 スイの言葉が、何度目ともつかない驚きをもたらす。

 世界の様相的に、未知の手段で時間が未来に進んでいることは薄らと察していたが、まさかそんなものまで実用化されているとは。

 AI=チャットボットという認識の俺からすれば、人工知能が上司を務めているというのはなかなかに衝撃的なカミングアウトだった。


「それはぜひ聞いてみたいけど……聞く感じだと、偉い立場のAIなんだろ? 俺なんかが話を聞いてもらえるのか?」

「大丈夫だよー。偉いっていっても、マザーって呼ばれてるだけあって『みんなのお母さん』みたいな感じのヒト(AI)だから。わたしたちも他の人もけっこう気さくに接してるし、チヒロちゃんのことも通信で報告したら『ぜひ歓迎したい』って言ってたから、心配ないよ」


 そういえば、道すがらスイが俺に断りをいれて虚空へ話しかけていた時があったが、あれは〈マザー〉との通信だったらしい。

 のんびりした言動に似つかない要領の良さに驚くが、今は彼女の力添えがこの上なくありがたかった。


「何から何まで、本当にありがたいよ、スイ」

「んーん、わたしはお仕事してるだけだから、気にしなくていいよ。……それより、到着までまだ時間があるからさ。チヒロちゃんともっとおしゃべりしたいな。せっかく知り合えたんだから、お友達になろうよ?」

「え? まぁ、俺は構わないけど……面白い話なんてできないぞ?」

「いいよそんなのー。面白いお話よりも、わたしはチヒロちゃんのことをもっと知りたいな?」


 ずいっと身体を前に乗り出したスイが、無邪気な笑顔のまま上目遣いでこちらを見つめてくる。

 それなりのスペースがあるとはいえ、輸送機の中で取れる距離はたかがしれていて、その状態でさらにスイの顔が近づけられている状況だ。間近に迫った顔立ちは人形のように愛らしくて、思いがけず心臓が跳ねてしまうのを感じた。


「わ、わかった。なんでも答えるから……その、この距離だと話しにくい」

「あ……えへへ、ごめんごめん」


 好奇心に任せただけのうっかりなのか、それともある程度の打算に基づくあざとさなのか。

 かわいらしい顔立ちに、屈託のない、しかし底知れない笑みを浮かべるスイへ、俺は曖昧な笑みだけを返した。



 *



 

 スイに促されるままあれこれ答えたり、逆にスイのことを聞いたりしながら、輸送機に揺られること、おおよそ一時間。


 ふいに、輸送機のなかがゆらりと傾き、軌道が変わったのを感じとる。

 それと同時に、スイが覗き窓の外を確認。何かを――おそらく目的地の存在を見とめたスイが、窓際で俺を手招きした。


「チヒロちゃん、着いたよ! ほら、アレがわたしたちの住んでる街――〈コロニー〉だよ!」


 促されるまま顔を近づけた、覗き窓の向こう。そこにあった光景は――俺の想像を別の意味で超えるものだった。


 そこにあったのは、「超巨大なドーム状の建造物」だ。

 輸送機の高度からうかがえるその規模や、周囲に散見される廃屋の大きさから類推するに、その規模はおそらく大きな都市のひとつくらいならすっぽりと中に納まるほどだ。

 鈍色のドームはおそらく全面が金属製であり、中にあるもの――おそらくは人や街を守るための強固な防護壁として建造されたものであろうことが伺い知れた。


「あれが、コロニー……てっきり普通の街だと思ってたけど、あんなドームがあるなんて。なんか、意外な光景だな」

「本当はドームもなくして、自然の光を入れた方がいいんだろうけどねー。でも、コロニーの外(ここ)が人の生きられない環境になって久しいから、仕方ないんじゃないかな」

「なるほど……えっ?」


 何気なく呟かれた、スイの一言。そこに含まれる、看過できないキーワードが、耳に引っかかる。


「どういうことだ? 人が住めないって……じゃあ、俺はなんで?」

「え? ……あっ」


 俺の問いかけに首を傾げるスイは、直後にハッとした表情になる。

 何かに気づいた、というだけの顔ではない。どちらかといえば、それは「重大な何かを失念していたことに気づいた」ような、そんな顔だった。


「そっかぁ……確かに、ここまで誰にも会わなかったなら気づかないよね」

「スイ? どういうことだよ?」

「んー……ごめんね。わたしの口から話すと、たぶんすっごく長くてわかりづらくなると思うんだ。だから申し訳ないんだけど、理由は〈マザー〉から聞いてほしいな」


 眉尻を下げてそう嘆願され、追求に詰まる。

 確かに、輸送機は既に駐機場のすぐ上まで迫っていて、スイにあれこれ聞き出すには時間が足りない。それに、これからマザーという生き字引のような相手に会うのならば、そちらであれこれ聞いた方が手っ取り早いのは確かだろう。


「……わかった。そうさせてもらうよ」

「うん。ごめんね、こんなタイミングで」

「こっちこそ。急にごめんな」


 申し訳なさそうに謝罪してくるスイへ謝罪を返す間に、輸送機はゆっくりと駐機場へ着陸していった。

 

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