第1話 目覚め
こんにちは、矢代大介と申します。ご存じの方はたいへんお久しぶりです。
ここしばらくはハーメルンで一時創作を書いていたのですが、「もっといろんな人に読んでほしい! あわよくば感想とか欲しい!!」という欲望丸出しな魂胆のもと、こちらのサイトへ転載という形で投稿を始めさせていただきました。
「第一部完」に近い形で終わらせた作品ではありますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
プシュウ、という、空気の勢いよく排出される音が、「俺」の耳を叩く。
ゆっくりと蘇ってくる五感へ伝わってくるのは、何かの機械が動くような、微かな駆動音。そして、肌を撫でていく空気。
「ん……」
起き抜けのせいか、いやに甲高く漏れた自分の声を合図にして、重たい瞼をこじ開けると――そこにあったのは、見知らぬ光景だった。
ひどく古びた天井は、いたるところに亀裂が刻まれているどころか、一部が崩落してしまっている。
むき出しになったいびつな鉄筋の向こうからは、記憶よりもずいぶんとくすんだ色合いの空が顔を覗かせていた。
「……どこだここ」
明らかに日常からかけ離れた光景に、思わず疑問が口をついて出る。
寝起きできしむ体に無理やり力を入れて、その場でのそりと上体を起こす。そうして周囲を見回してみれば、この場の惨状がより克明になった。
打ち放しコンクリートの壁面はボロボロに朽ち果てており、周囲には何の用途に使うのかわからない機械たちが、埃を被ったまま雑然と転がっている。
間違いなく、廃墟。それも、軽く年単位は放置されているような、ずいぶんと年季の入った廃墟だった。
そして、そんな廃墟の部屋の真ん中には、俺と、先ほどまで俺が寝ていたベッドが設置されている。
もっとも、それは俗にいう「普通の形状」とは程遠い代物だ。寝台は金属板で卵型に覆われており、上面には先ほど開け放たれたであろう、半透明のカバーらしきものが跳ね上がった状態で固定されている。
これが閉じていれば、その風貌はさながら「SF作品に出てくるような睡眠装置」といって差し支えなかっただろう。そんな奇怪なベッドの上に、俺は上体を起こした状態で座っていた。
「えーっと……?」
目を覚ますと、突然周囲が見知らぬ廃墟に変わっていた。
そんなわけのわからない状況に頭を押さえつつも、今に至る原因となったであろう出来事を思い、出そうとして――はたと思考がせき止められる。
思い出せないのだ。
〈御上 千尋〉という自分の名前は覚えているし、自分が現代日本に生きていたことも、なんのとりえもない平凡な男だったということも思い出せる。
しかし、この場で目覚めるに至った原因となる出来事が――もっと言えば、直前に自分が何をしていたかという記憶が、ごっそりと抜け落ちているのだ。
必死に思考を巡らせども、一向に記憶は蘇ってこない。
ほどなくして回顧を諦めた俺は、別の手がかりを探そうと立ち上がる。裸足のまま、砂っぽい床を数歩進んだところで、ふと、視界の端に何かが映りこんだ。
それは、なんてことのない割れたガラス窓だ。
大半が砕け落ちる中で、わずかながらフレームに残されていたガラス窓の残骸。そこへ映りこんだ光景に――俺は、言葉を失った。
――割れたガラスの中に、少女が映りこんでいる。
否、ただ映りこんでいるだけではない。鏡面の中に立つ少女は、「俺と全く同じ体勢で固まっている」のだ。
驚きにたじろぐ。
ガラスの向こうの少女が、鑑写しに同じしぐさを見せる。
思わず、ガラス片へ近寄る。
ガラスの向こうの少女の顔が、同じだけ俺との距離を縮める。
「な……これ……どう、いう……?」
驚愕のままに言葉をこぼせば、目の前の少女の口が同じ形に口をゆがめる。
そして、気づく。
今しがた俺の口からこぼれた声が――「まるで少女のような透き通った声だった」ことに。
「これ……俺…………?」
震える手でガラスの向こうを指させば、その先に居た少女が、泣きそうな顔で指をさし返してくる。
――この場にいたはずの御上千尋という男は、そこに存在せず。
朽ちた廃墟の中には、あどけない風貌の少女だけが、呆然と立ち尽くしていた。
1~3話までを同日中に投稿したのち、以降は隔日更新となります。




