表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/27

第十六話 境界の外縁

 待合室を抜けた瞬間、

 空気の重さが変わった。


 息が、少しだけ深くなる。


 「……近い」


 何が、とは言わなかった。

 それでも、意味は通じた。


 リュシアが、

 ゆっくりと頷く。


 「世界に」



 境界は、相変わらず境界だった。


 石畳も、空も、

 はっきりとした輪郭を持たない。


 それなのに、

 どこか現実に似ている。


 音が、増えていた。


 遠くの足音。

 風が何かに触れる気配。


 「……人の生活音、

 みたいだな」


 リュシアは、

 少しだけ眉を寄せる。


 「似てる、だけ」


 「ここは、

 世界の外縁」


 胸の奥が、

 静かに鳴る。



 道のようなものが、

 前に伸びていた。


 待合室の線よりも、

 はっきりしている。


 「……踏み出したら」


 僕は、

 足元を見る。


 「何が変わる?」


 リュシアは、

 すぐには答えなかった。


 代わりに、

 周囲を見渡す。


 「影響が、

 戻ってくる」


 「……影響?」


 「選択の、

 反動」


 言葉が、

 胸に残る。



 外縁の先で、

 何かが揺れた。


 人影のようで、

 そうでもない。


 「……あれは?」


 「まだ、形になってない」


 リュシアの声は、

 少しだけ低い。


 「選ばれなかった可能性が、

 世界に触れ始めると」


 「こうして、

 影になる」


 胸が、

 ゆっくりと冷える。



 鈴の音が、

 小さく鳴った。


 ――ちりん。


 それは、

 警告ではない。


 「……聞こえるな」


 僕が言うと、

 リュシアは頷いた。


 「境界が、

 あなたを“内側”として

 扱い始めてる」


 「……内側?」


 「世界に、

 影響を与える側」


 その言葉は、

 軽くなかった。



 足元の感触が、

 少しだけ確かになる。


 石畳が、

 石畳らしくなる。


 「……触れる、

 ってこういうことか」


 リュシアは、

 こちらを見て言う。


 「触れたものは、

 戻らない」


 「影も?」


 「影も」


 その答えに、

 胸が静かに締まる。



 外縁を歩くにつれ、

 境界は薄くなっていく。


 世界が、

 すぐ向こうにある。


 「……ここまで来て」


 思わず、

 言葉が漏れる。


 「怖くない?」


 リュシアは、

 少し考えてから答えた。


 「怖いよ」


 正直な声だった。


 「でも」


 視線を、

 前に戻す。


 「戻らなかった理由が、

 ここにある気がする」


 胸の奥で、

 鈴が鳴る。


 ――ちりん。


 それは、

 進行を告げる音。



 外縁の向こうで、

 影が、確かに形を持ち始めた。


 まだ遠い。

 でも、逃げない。


 境界は、

 もう問いを投げない。


 代わりに――

 結果を、

 静かに返し始めている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ