第十三話 残された時間
待合室に、変化はなかった。
景色も、空の色も、
あの住人の座る位置さえ。
それなのに。
「……減ってる」
僕がそう呟くと、
リュシアは小さく頷いた。
「感じたんだね」
胸の奥が、
ひくりと鳴る。
⸻
時間は、ここでは流れない。
そう思っていた。
でもそれは、
止まっているように見えていただけだった。
「……どれくらい、残ってる?」
問いは、
誰に向けたものでもない。
それでも、
意味は返ってきた。
――観測可能時間、減少中。
冷たい言葉だった。
⸻
「……期限、か」
口に出すと、
重さが増す。
「答えを出さなかったら?」
リュシアは、
すぐには答えなかった。
その沈黙が、
すでに答えだった。
「……待合室の住人みたいに?」
彼女は、
小さく首を振る。
「同じじゃない」
「あなたは、
問いを持ったまま、
ここにいる」
胸が、
静かに締めつけられる。
⸻
遠くで、
歪みが一つ、生まれた。
すぐに消える。
「……あれは」
「別の選択の、
残り香」
淡々とした声。
「誰かが、
答えを先送りにした痕」
あのときの光景が、
ふと脳裏をかすめる。
消えていく輪郭。
名前を呼ばれないままの存在。
⸻
「……待つって」
言葉を探す。
「思ってたより、
危ないな」
リュシアは、
否定しなかった。
「うん」
「考える時間は、
必要」
「でも」
一拍、置く。
「考え続けることと、
止まることは、
違う」
胸の奥で、
鈴が鳴った。
――ちりん。
それは、
警告に近い音だった。
⸻
「……ねえ」
僕は、
待合室の住人を見る。
相変わらず、
動かない。
「……あの人は」
「期限を、
自分で消した」
リュシアの声は、
静かだった。
「答えを出さない、
という選択を続けて」
胸が、
きしりと鳴る。
⸻
「……じゃあ」
僕は、
ゆっくり息を吸う。
「世界がくれた猶予って」
視線を、
観測点のあった方へ向ける。
「考える時間じゃなくて」
一拍。
「動くための、
準備時間なんだな」
リュシアの目が、
僅かに揺れた。
「……そう思えるなら」
「あなたは、
まだ間に合う」
⸻
待合室は、
何も言わない。
ただ、
少しずつ狭くなる。
座ることもできる。
立ち続けることもできる。
でも、
同じ姿勢ではいられない。
世界は、
答えだけを待っているわけじゃない。
選び続ける意思を、
確かめようとしている。
残された時間は、
静かに、確実に減っていた。




