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放課後のララバイ その二

「来たわよ、綾香ちゃん♡」


 水曜日の昼下がり。今朝、風邪で寝込んでいた私はお見舞いに来てくれたうみちゃんとお散歩に出かけることにした。

 そんな中、家を出たところで事件が起きてしまったのだ。


「み、美紀さん!?」

「熱を出していたんでしょう?心配で会いに来たのよ♡」


 美紀さんは恍惚とした表情で、私にその美しい顔をぐっと近づける。


「あの……実は、午前中に熱が下がって、今はもう元気なんです」

「あらそうだったの?でも良いわ。お陰で今こうやって、綾香ちゃんに会いに来れたんだもの……」


 そう言うと美紀さんはあろうことか、そのぷるんとした桃色の唇を私の唇に重ねた。


「ちょっと、美紀ちゃん!?」


 薄れゆく意識の中で、うみちゃんの声だけが聞こえてくる。

 視界がだんだんと狭くなっていき、私はそのままふらふらと路上に倒れてしまった。




「あ、綾香。おはようー!」


 目が覚めると、うみちゃんが私の顔をじっとのぞき込んでいた。

 そうか、私は美紀さんにキスされて、そのまま気を失ってしまったのか……


「うみちゃん……?」

「綾香、急に倒れちゃうんだから。私と美紀ちゃんで家のベッドまで運んだんだよー」

「美紀さんは今どこに?」

「1階でお料理してるよ。綾香のために、お夕飯作ってくれるんだって」


 美紀さんとうみちゃん、私のためにそんなことまで……

 なんだか少し申し訳ない気持ちになってきた。


「ありがとう……美紀さん、傷ついてないかな」

「どうして?」

「だってその……キスしてくれたのに。私、気絶しちゃったから」


 それを聞くと、うみちゃんは笑って言った。


「大丈夫だよー!美紀ちゃんもやりすぎちゃったって、ちょっと反省してるみたい」

「……そうなの?」

「うんっ!あたしがちょっと厳しく言っといたし」

「でも美紀さん、私のこと好きって本当だったんだ……」

「あたしの言ったとおりでしょ?」



* * *



 私と美紀さんが初めて会ったのは、編入前日のこと。

 うみちゃんに連れられて、校舎の下見をしに来た時のことだ。


「次は3階だね。3年生の教室があるフロアだよ」


 その日は日曜日で、学校には部活の人たちくらいしかいないはずだった。しかし……


「あれ、誰かいる……」


 廊下の一番奥、3年5組の教室に、小柄な女の子が一人机に向かっていたのだ。


「あら、うみじゃない。どうしたのこんな所で」


 彼女はすぐにこちらへ気付くと、すたすたと教室の扉の前まで歩いてきた。


「綾香が明日編入するから、校舎の案内をしてたんだよー」

「あ……初めまして、椎名綾香です」


 美紀さんはこちらに向き直ると、にっこりと笑った。


「あなたが綾香さんね。私は桜堂美紀よ。一応、ここの生徒会長をやらせてもらっているわ」

「えっ!そうなんですか?」

「そうだよー!美紀ちゃん凄いでしょ?」


 百里高校の生徒会長はとんでもない美少女だと聞いたことがある。やっぱりこの人だったんだ……

 ところでうみちゃん、そんな呼び方していいの……?偉い人なんでしょ?

 そんな私の疑問を察したかのように、美紀さんが口を開く。


「私とうみはお友達なのよ。綾香さんも、うみと幼馴染なのよね?」

「あ、はい……おっしゃる通りです」

「いいのよ、そんなに畏まらなくても。一つしか違わないんだから」

「あ、ありがとうございます」


 緊張する私を見て、うみちゃんが笑った。


「綾香固くなりすぎー!美紀ちゃん怖い子じゃないよ?」

「人見知りさんなのね。かわいい♡」

「すみません……緊張しちゃって」

「綾香、かわいいー♡」


 うみちゃんが肩を寄せてくる。


「もう、うみちゃんったら……」

「ところで、美紀ちゃんは何してたの?」

「生徒会のお仕事よ。来月、文化祭があるでしょう?」

「そっか、もうそんな季節だね~」


 文化祭か……前の学校では、行事ごとにはほとんど参加しなかったからなぁ。


「ここの文化祭は、どんなことをするんですか?」

「そうね……基本的には出店を出したりするのだけれど、普通の学校と違うところがあるとすれば……」

「男子禁制!」

「そんなところね」

「ええ!?」


 びっくりした。女子校なのは知っていたが、行事ごとまで女の子だけでやるの?


「あら、綾香ちゃん知らないの?ここは行事も例外なく女の子だけでやるのよ♡」

「親とか兄弟でも立ち入りすらできないからね~、珍しいかもしれないね」

「ま、待ってください。それじゃあつまり……」

「察しが良いわね。恋愛事情のコトでしょう?」

「美紀ちゃん、綾香はまだ何も言ってないよ」


 うみちゃんがすかさずツッコむ。確かにそれも気になるが、私が聞きたいのはそこじゃない。


「文化祭で、検問を張るってことですか?」

「ええ、そうよ。毎年校門の前に、屈強な女性教員の方々が立ってらっしゃるわ」

「すごい……厳重ですね」

「まぁでも他の高校から女の子たちが来てくれるし、いつも結構賑わってるよ!」


 うみちゃんが笑って言う。確かにここは生徒数も多いらしいし、楽しいことは間違いないだろう。

 こういう行事ごととか苦手だったけど、今年はせっかくだし参加してみようかな。

 何よりうみちゃんと一緒なら、何だって楽しいに決まってる。


「ところで綾香さん……」

「はい?」

「入学前に校舎に入ってきちゃダメよ……?」

「あ、やっぱりそうですよね」




 つづく

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