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イオリです。
思いのほか耳舐めが気持ち良かったらしく、アカから禁止された。
具体的に言うと舐める途中に、アカが衝動を抑えてきれず、
僕とキスしちゃいました。唇と唇が軽く触れ合った程度だけど、何回もしちゃいました。
ロマンスのアレとは違う、生々しさはなく、ぼうっとする感じ。
キスのショックで寝落ちしちゃったわけだが、
翌日の昼頃にようやく起きれた。
起きてすぐ、アカに叱られた
『しばらくは耳舐め禁止』って。
顔が真っ赤なアカを見るの初めて、
それと魔法空間で起きたのも、初めて。
知らない天井ではないけど、知らないシチュエーションです。
どうやら東に向かってる様です。
ギルドのある場所は東に位置する迷宮都市、アルギナ。
うん千年前の魔王が封じられてるという街。
しかし、まさか寝てる時に出発したとは、不覚
魔法を使ってデンチュを隣りに召喚する。
『おはようございます、主』
おはよう。今日もピカピカなハサミで綺麗です。
いつものルーティンでデンチュのハサミを撫でる。
特にやることはないが、二度寝する気にもなれない。
何か娯楽でもするかと考えた。
ふとアカの顔を思い出した、キスしたとき、あの真っ赤な顔
もう一回したら、どうなるのかな、、?
耳舐めであんなに怒ってたし、、、
うーーーーむ、やめよう
適当なロマンスの本を一冊読んで、衝動を抑える
なぜだか内容が脳に入らない
悩んでると、アカの視界に人が映った。
獣道なのに、馬車を引いてる。
服からして傭兵みたいだけど、馬車の上に檻がある。
何かを運ぶ途中のようだ。
よく見ると、檻の中、全員獣人だった。
首輪をついてる。
獣人の、奴隷。
フィルターを外し、見たところどいつも絶望に満ちた顔で檻の中で動かずにいる。
切り傷、火傷。何
だがその中でも、とびきりに綺麗な娘が一人いた。
黒い髪に、黒い目。アカと同じ黒髪の猫耳娘。
無意識に拳を握る
可哀想な人たち、
きっとあの人さらいたちは、
金髪の貴族のように奴隷を愛さないでしょ。
彼女らは、きっとひどいことをされたのだろう、、、
/あか/
/、、、ああ。
話しつけてくるよ/
アカは言う
/ごめん、無理なら、帰ってね、、
その、無茶は、駄目だから、、、/
/ああ/
アカはそう返してすぐ、視界が見えなくなった
☆☆☆
いつものように依頼を受けた。
税金を上納できない獣人の村を、男は殺し、女子供は奴隷として売り飛ばす。
こんなまともな人間では考えもしないものを、
グロテスクが好きなお偉いさんがわざわざ依頼しにくる。
そして俺らクズは金の為に仕事をする。
村ごと皆殺しにして、その映像を魔法水晶で撮る、
女を犯す場面があるならなおいいっと、女貴族の癖だらしい。
理解し難い、けどどうでもいい。
全ては金のため、今更手を引いたら貴族に殺されるだろう。
もはや手遅れだ。
元々この傭兵団に入るのは村を守るためだったが、
肝心な村は山賊に襲われて、なくなってる。
そのせいで結構な数の傭兵が引退したが、
俺を含めて、傭兵稼業に希望を見出だしてる奴は何十人もいる。
今は五十人もいるそこそこの傭兵団だ。
仕事終わりに女を抱いて、仕事の指示で獣人を皆殺し、
やってることは山賊と何ら変わらない。
いや、もう山賊と言っていいだろう、ただ武器は優れた、バックに貴族がついてる私用山賊。
仲間は金さえ足りればいいって人ばかり、
クズな連中の中にいる俺も、所詮はクズの一人
きっと、碌な死に方はしない。
常々そう思ったが、実際はどこか、
遠く未来のできごとだろうと勘違いした。
尿意を感じ、団は一度休憩を取ることになった。
小便の帰りに、人影が見えた。
草むらの隙間に、黒い髪の坊主が見えた。
ソイツが、うちらの荷物をじっと見つめてる。
特にあの状態のいい娘をじっと見ていた。
なるほどね、あの黒い髪の獣人と知り合いなのかね
今楽にしてやるからさ、大人しく首をよこせーーー
剣を抜いてゆっくり背後から近づける、が、一瞬で見失った。
どこにいったと思って、荷物の方向から悲鳴が上げた。
急いで荷物の方へ走る、黒い髪の坊主が仲間のクライスの首を撥ねた。
クライスの剣を使って、クライスの首を切り落とした。
幾つもの戦場を潜り抜けた傭兵の何人はこの一瞬を察知し、黒い髪に襲いかかった。
だが、気が付けばみんなの首がなくなっていた。
何も見えなかった。
腰が抜けた。
それからは一方的な虐殺。
未熟だがそこそこの青年、入りたて見習いの餓鬼、
ギリギリ反応できたベテランも、
酒を交わし、一緒に女を犯した親友も、
全てが首チョンパされた
あっという間だった
俺はできるだけ声を抑えて、地面を這って逃げようとした。
逃げ、逃げねえと、殺されーーーー
視界がーーー
アーー
「、、、、イオリ?ああ、問題ないよ、今交渉中だ。
もう少しで終わる、もうちょっと待て」
☆☆☆
魔法空間でデンチュとじゃれあう
アカの返事を待っていた。
遅いな。
もう少しって言うわりに、遅い。
そう思って頬を膨らませたら、アカの視界が戻った
しかも、奴隷が積み込んでる檻の前に立ってる。
アレ、終わったのか?
傭兵たちは?
/ああ、話しつけた。
みんな捕まることを恐れて、どっかに逃げたよ/
話し合いが通じる相手だったのか、
てっきり蛮族なんかと同じものと、、
/蛮族とは言えないが、少なくともいい人ではない/
/そっか、でも話だけでいいなんて、
やっぱり良心は持ってると思う/
それはそれとして、
獣人の子らなんか怯えてない?
/アカ、出してくれ/
そう言ったら、出してくれた。
アカにお姫様抱っこされる姿で、檻の前。
檻の中を覗いたら、中の獣人たちはみんな僕に目線を集中した。
「や、やー僕、イオリ、といいます。
み、んな、大丈夫、ですか?」
久しぶりに外の人に話しかける、緊張で口の扱いがぎこちない。
みんな驚いた顔で何も話さない
ああ、檻の中にいるから、そりゃ話せないよね、怖いもんね
デンチュを召喚、さあ、ご立派なハサミで鍵を開けてくれ!
と命令する。
デンチュはブンブンと素直に檻の鍵に向かった。
ハサミの間に青く光る。
鍵に向かって、放たれる。
ぴりっと言う音が鳴り、強い白い光が光った次の瞬間、鍵が消滅した。
『終わりました主』
、、、強い!よしよし、いい子いい子!
『光栄デス』
帰ってくるデンチュを撫で撫で、再び獣人たちに話しかける
「えっと、僕、悪い人じゃない、よ?」
けれどやはり誰も返事してくれない。
僕は扉を開き、檻の中に入って、ゆっくりと見渡す
そしたら、獣人たちが何故かみんな泣き始めた。
怯えてる、わけじゃない、だが、嬉しいとも言えない。
僕が困惑してると、
みんな一斉に頭を下げて土下座し、手のひらを見せた。
何かよくわからない言語で歌い始めた
ほえ?
黒い髪の毛の獣人が前へ出て、跪く。
「その容姿、その麗しき声
、、、間違いない、
あたな様こそ、我らが偉大なる母、
偉大なる我らが母よ、どうか哀れな我らに救いを、、、、
もし贄を所望するならば、どうかこの私、
シシリアを召し上がってください
他のみんなはいずれもあnお人間種らによって穢れたゆえ、
申し訳ありません」
僕はしばらくフリーズした。
、、、いけない、ついていけない
何か、変な感じが、この空間の中に漂ってる
取り敢えず、何か話そうか
「そ、そうですね。
じゃあみんなを連れて、一緒に、あの、
アルギナに行きませんか?」
「我らが母がそう望んであれば、、、」
シシリアと呼ばれた黒髪の獣人が僕に近づき、
他の娘と同じく額を地面に、掌をみせた。
「あの」
声をかけるが、彼女はその姿勢のまま返してきた
「どうなさいましたか?」
「あ、なんでも、ない、です、、、
あの、その、、、、
あ、あ、うう、、、、
アカ、、、僕、この人達、こわい、やっぱり、帰る、、!」
シシリアに気迫に押されて、僕は彼女に背を向けて素早く逃げて、
アカの胸に飛び込んだ。
転移。魔法空間のなかに逃げる。
いったん息を整う。
『、、、は!
き、消えた?
おい、そこの貴様、我らが母をどこへやった!』
『魔法空間。
、、、それより、俺ら、アルギナにいくんだが、
一緒にいくなら、他の奴を起こせ、
出発するぞ』
『、、、質問に答えろ、
貴様は何者だ、なぜ我らが母は貴様にような奴と一緒にいる?』
『アカだ』
『繰り返す言おう、
なぜ貴様は我らが母と共にしてる』
『、、、』
無言。それだけでアカが不機嫌であることが明白した。
アカは短気である。
僕以外との対話が、彼にとって、極めてストレスに感じる
いええ、たとえ僕とでも、無意味なやりとりなら、少しストレスが感じるらしい。
気を逸らす為にもアカは僕の胸を揉んでるって。
けど僕にイライラするアカなんて一度も見たことない。
/傷つけちゃ駄目だよ!/
/ああ、わかった/
『、、、静かにしろ、でないと二度と、君らはその母に逢えなくなる』
黒髪の獣人はビクッとした。
彼女の後ろの娘らも同じく、体をびくびくしてた。
ええ、、、?いや、確かに傷つけないって言ったが、、
脅しじゃん
『わ、わかった、、、、
それだけは、頼む、
どうか、どうかそれだけは、、、
我らが悲願、我らが希望が、彼女にある、、
それだけは、、、』
僕を使って脅しやがって
、、、アカくん、、、悪い奴だ、、
後で耳舐めてやろうか
/アカ、、いじわるは駄目だろう
可哀想だぞ、、、/
/そうか/
一見無関心とも言える返答だが、
これでも反省の意があるので、許す。
てなわけで、獣人たちと一緒にアルギナにいくことになったが、
二十人半数が飢餓状態、歩くのもふらふら。
なので獣人たちはアカと一緒に檻を壊して、馬車を街道に引いた。
暇つぶしとアカの謝罪として、僕も馬車に乗った。
獣人たちの話によれば、彼らは僕らの村よりも西の辺境に住んでたらしく、
魔人の領域とは一つの川しか隔てない。
魔人は魔人、古来よりこの地の覇者なるもの、みたい。
実際誰も見たことないから、なんなのかよくわからない。
今までは魔人の領域が近いこともあって、人間の獣人狩りからは免れたが、
遂に彼らの村も狩られることになったとか。
狩りの事情がよほどひどいみたいで、誰も話さない。
好奇心で聞きたいが、アカに止められた。
目がとれてる娘が四五人もこの中にいて、それでもかなり幸運な例だそうだ。
戦争もののストーリーを思い出す。
いつも獣人が悪い人に描かれる、いつも人間が、何とか教が正義の味方として描かれる。
全然正義なんてないじゃん、、
ウソをついてる、本が、ウソをついた。
正義じゃなかった。
「アルギナも獣人の奴隷がいますのか?」
「はい、我らが母よ、、、
あの人間のオスたちは言いました、私たちをアルギナの貴族に売り渡すと」
「そうですか、、、」
シシリアが一人の幼女を抱えてる。
舌が切り落とされた、髪が真っ白な幼女。
シシリアの妹、みたい。
昔は黒髪だったけど、両親の死がショックでこうなった。
シシリアはこの国において、最後の獣人の村の長。
それで酷いことから免れ、でも売り飛ばされたら同じ結末。
僕はようやくわかった。
あの金髪の三人の奴隷は、例外中の例外だってことを
沈黙と痛みの呻きが耳に入る。
もやもやな気持ちが心を乱す。
僕はアカの太ももの上に座る。
「ねえ、どうにかならないのか、アカ、、、」
「そうか。
なら、アルギナの貴族とやらを
ーーー消してしまえばいいじゃないか?」
僕は目を開いた。無茶なことを、、、
「駄目でしょ、もし他の人間が攻撃しに来たらどうするの?」
「あの"他の人間"もあの貴族の仲間として、一緒に消せば解決だ」
頭を撫でられて、僕は啞然した。
キメラに食べられる孤児院の子供を思い出す
もしアカが"キメラ"をそのまま野放しにしてれば、
孤児院のみんなも、
シスターも、全員殺されていた。
消す。
普通に考えれば、この行動は凄く無茶だ。
けど僕は知ってる。
消すなら、アカには簡単なことだ。
誰もアカの邪魔にはならない、何人いようが、アカには勝てない。
けれど戦争ものに書かれた通りなら、
恐らく、たとえ人でなし貴族でも、消してしまったら、大勢の人間が敵となる。
つまりいっぱい人が消されちゃう。
悩む。
この娘らを救ってあげたい、僕の力じゃ無理。
でもアカを無茶させたくない
「やっぱり駄目、アカが傷ついちゃう、、、」
「そうか」
アカは僕の乳首をつまんだ、どうやら僕の言葉に嬉しいみたい
獣人の苦しみ悶える声を背に、僕は高い壁を見えた
あれが、アルギナか




