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無知の知って知ってますか?
無知を知ることは賢いという意味合いです。
小さい頃から、
父はよく小難しいどうでもいい内容の本を僕に読み聞かせた。知らないと言うと、
父に、それを自覚していることはとても大事なことだと言われる。
小馬鹿にされた気しかしない。
八歳のとき、母は父と離婚し、
僕を彼の元に残ったまま、逃げた。
何故なら父は仕事もせず、
毎日どうでもいい本を読み漁る生活で、
いつもイライラしていた。
そんな人が旦那なら、逃げないほうがおかしいか。
父に母が逃げる理由と聞いた
『無知だから』と答えた。
父は結局、
死ぬまでそうやって他人を小馬鹿にするだった。
無知の知など、どうでも良かった。
九歳のとき、
僕は何も知らないまま死に、転生した。
無知こそが僕にとって、たぶん、幸福なことだ。
もしも、少しでも知性を身につけ、
自我を持っていれば、
きっと、不幸になったのだろう。
僕はイオリ、転生者だ
転生と言ってもいろんな奴がいて、僕は性転換を果たしたものです。
でも死んだときの僕はまだ9歳、
性別については特に気にしなかった
まず、僕の転生先を紹介しよう。
国の名前は【アルカス教国】
大陸の東北に位置する宗教国、僕はその西の辺境村の付近の農園で産まれた。
その後は孤児になったけど。
親は農奴だった。
住んでいた地域は地震が頻繁だから、それで死んで、孤児になった。
【アカ】がいなければ僕も一緒に逝っちゃったかもしれな
彼に助けられ、逃亡先で偶然シスターと出会って、それが僕、それとアカが孤児になった経緯。
【アカ】は僕を助けた後も僕と一緒に暮らして、
もし同性ならばそれで命の恩人に加えて幼馴染にして親友。
けど僕は女の子、たとえ彼に僕はかつて男の子と言っても、
やはりアカは僕をただの女の子として扱った。
とまあ、後々ずぶずぶな関係になっちゃうわけだが、
【アカ】は僕の、大事な、大事な恋人です。
彼のことは後ほど語るとして、
前世について語ろう
と言っても、はっきり覚えるのは、最後の五日ですが、
終わりの記憶だけが、
トラウマのせいで、忘れたくとも忘れないのです
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始まりは、蝿が一匹飛んでる。
ぶんぶんと、気持ちよく飛んでる。
目で追うと、床に寝ている僕の【父】の目玉の上に止まった。
僕は腹が減ったのか、蝿に向かって涎を垂らした。
蝿を、食いたいと思った。
この日から、父は起きなかった。
叩いても叩いても起きなかい。
腹が減ったから、寝ることにした。
二日目。
父が全然起きない。腹が減ったが、
しかし常日頃から外へ出るなと父に言われた。
だから腹が減っても我慢する。
三日目。
寝ると腹が減ることを忘れられる。寝る日だ。
そう思っていたが、父が臭すぎて寝れなかった。
仕方なく濡れたタオルで父の体を拭いた。でも臭いままだ。
早く起きればいいだが
四日目
父が変な色になってる。
ちっちゃい虫が体から出てきた。
見てるだけで腹が鳴いた。涎と胃の鳴き声。
限界だ。一匹だけ手にとって、口に入れる、咀嚼せずに虫さんを飲み込んだ。
なんの味かはよくわからない、でも腹の足しになった。
今日も寝る。
五日目。
朝、腹が痛い。
夜の摘み食いの罰かも知れない。
せっかくあんなにたくさん腹に入ったのに、ぜんぶ吐いちゃった。
体中が熱くて痛い。
摘み食いしたから、きっとそれのお仕置きだ。
ごめんなさい。ごめんなさい。
僕は吐いたモノの中に倒れ、
ごめんなさいと言い続けた。
これが最後の記憶。
全てが黒くなって、痛みも、飢えも、全部なくなって、
気づけば、僕は、黒い何かの中にいた。
何もないところで寝ていた。
何も心配することなく、ただ寝ていた。
静かな時を過ごし。
ずっとずっとここにいられて、もう飢えることも、
お仕置きされることもないと思った。
そうなればいいと思った。
光が見える。
ああ、光は嫌いだ、
もう光なんて見たくない
また飢えて、苦しい思いに晒される
圧迫されるような感覚がした、
体が言う事を聞かずに、蠢く
引っ張られてる、誰かに引っ張れている
そう思ったら、急に圧迫が消えて、勝手に光が目の中に入ってくる。
息ができないーーーー
産まれたと同時に、意識が途絶する
僕の意識が一度眠りに沈んだ
孤児院に至るまでの農奴の娘の僕は、
僕ではなく、ただ息を吸い込み吐き出す、
それをひたすら繰り返すだけの肉人形みたいなものだ
言葉は聞こえる、が理解ができない
何年経っても、理解しようとしない
いつも能天気で日なたぼっこばっかり
当然だが、女は労働力としてはゴミ同然
もし僕が性的行為に耐え得る体になれば、幾ばく金になるが、
子供のときは何にもできない
僕は、ずっと部屋に閉じ込まれた、他の奴隷は女の子でも働くことを強要されるが、
僕は恐らく奴隷の主に気に入られただけだろう
何しろ白い髪に金色の目をしていた、素質的に麗しい見た目になる可能性が高い
だからか、奴隷の主は来るたびに、僕の足を舐めずにはいられない、そういう癖の輩だ
地震が起きる前日、僕は一人の男の子に連れ出された。
ソイツが【アカ】だ。
黒い髪に黒い目、無口で無表情、
大して部屋から出ない体の弱い僕と対照的に、
アカは労働にふさわしい体つきだった、健康的で、背が高く、力も強かった。
同年代にも関わらず、僕をお姫抱っこしたままの状態で、
農場から遠く離れて、必死に走ったはずなのに、息一つも切らさなかった。
翌日、地震が起きて、雨が降り始める。
山に近い農園は土砂崩れに遭い、あっけなく農園の主も親も奴隷たちもみんな死んだ。
僕とアカだけが孤児院へ逃れた。
逃げる途中、ポツポツと、僕は前世の記憶を思い出した。
父のこと、僕の名前のこと、体に対する違和感。
そして、僕が既に死んだこと。
受け入れることも、拒否することのできない、
呪いみたいな記憶、僕はパニックになった。
尿をこぼし、糞を散らかし、それでも治まらず、
何処かへと逃げようとした。
アカに止められた。アカに抱かれて慰められた。
落ち着いたきっかけも彼だ。
しかしやはり幼い空っぽのこの世の僕には、理解し難い死という「モノ」はいささか重過ぎた
食事することもままならなかった、
孤児院のお姉ちゃん(シスター)が僕の口にご飯を運んでも、
決して口を開くことはなかった
舌が、体が、脳が、何かを食うことを拒んだ
だが、何故かアカの言うことは、体が従う
アカは毎日変な色の団子を僕に食わした。
それがご飯の代わり。じゃなきゃ餓死でとっくにあの世へ逝った。
孤児院は、同い年の子供がいっぱいいた。
毎日、いろんな子供がきて、ご飯を食ってって言われたような気がする。
孤児院に拾われたときは、僕は5歳になった
最初はみんな好奇心でシスターと一緒に見舞いにくるが、
徐々に徐々に、一人また一人消えてった
アカはそばにいてくれた
食事も、下のことも、全部が一緒
そしたらシスターにアカが濡れたタオルで、僕の躰を拭く場面を見られてしまった。
当然、アカの行為はシスターに止められはしたが、
アカにはその言葉の意味さえ理解できなかったという
ある日、アカがいつも通り脇の不思議空間(収納魔法)から団子をーーー
どす黒い見た目の団子を、僕の目の前に突き出した。
臭い。臭かった、凄まじい臭いだった。
ウンコよりも臭い団子だった。
食えないと僕は首を振った。拒絶。
アカはしばらく考えて、それを半分こ割って、彼の口の中に入れた。
食えると言うアピール。
アカが食べ終わって、再び半分になった団子を僕の前に突きつけてきた。
半分なら、、、?という気持ちで一口パクり、それを口に含んだ。
意外と美味い。ひたすら甘くて香ばしい。
僕はそれを喉に通し、飲み込んだ。
アカが二個目をポケットから取り出した。
パクり。もぐもぐ。
一晩熱が出てままアカと寝て、
翌日になると、不思議なくらいに、僕は元気になった。
食事も食べれて、気力も前より上がった
昼に差しかかる頃、シスターが部屋へ入って来た。
アカと何か話してたら、アカを連れ出そうとしてた
戻れない予感がした、僕は焦った。
まだまだ弱ってるはずなのに、この時は無理して体を起こして、
お姉ちゃんの前でアカを抱きつくと、大声で泣いた。
本能に近いものを感じた
シスターは呆れたのか、しばらく僕らを見て、
諦めて部屋から出ていった。
僕はアカの体にすり寄って、思いっきり甘えた
まだまだ男の子の意識のはずなのに、同年代の男の子に、甘えたのだ。
思い返すたびに恥ずかしい、、、
話が変わるけど、団子について話そう。
アカに食わされたのは、ドラゴン殺しって呼ばれた丸薬だ
転生者が作ったという。
六つの種類があって、色合い的に、赤、青、緑、黄、白、黒。
魔物であれば一個食べてもアウト、奇跡的にマ素が適応しても心臓が爆発らしいい
魔物には劇薬だけど、人間には毒ではなく、別の用途がある。
特に人間の女性には、別意味の劇薬ーーー
簡単に言っちゃえば惚れ薬だ
しかも単に惚れ薬ではない。
未成年なら安産体系促進、成長につれて排卵の延期及び月経の短縮などなど、
しかも栄養豊富だから代用食もこなせる
農園から逃げた時も何個か食べた
転生者のギフトで作ったものは軒並価格が高い
それゆえ貧民には当然手の届くものじゃないが、
貧民には特にそういう必要はなく、そもそも娯楽がないから、
【そういう】欲求は自然に湧き出るため、無用の長物なのだ
一般的には欠陥が抱えられる貴族や金持ちにしか需要がなく、
でもこんなもの、常に使うと、色々とハマっちゃうから、生活の邪魔でしかない
一時期は何人もの王を腹上死にした罪で、
禁止薬もなったとか
食ったらが最後、嫌でも肉体は正直になっちゃうし、
廃人になりかねない。拷問にも使える優れ物
どうやって手に入れたって聞いたら、
農園の主から盗んだって返した、
僕、びっくりよ、、、
こんなものを隠すあの変態はいいよ、
大人しいアカがそんなことをするなんて
どれくらい盗んだのはよくわからないけど、
農園から逃げて五年の間、欠かさず僕に盛ってっと
一応薬の説明書はあります。日本語の説明書。
アカには読めない、当初は単なる食い物と勘違いして盗んだみたい
因みに説明書の最後に、こう書かれている
【転生者の方々の記憶回復にも役立つので、是非ご購入いただけたい!
あとこの薬、転生者の意識には影響しません、影響するのは肉体だけ!
肉体だけです!
異世界人ならともかく、同胞の皆さんに悪さをするようなものは、
俺は作らない!】
そうらしい。
まあ、たぶんそうでしょうね、実際冒険者になるまで
、それに近いものはあっても、
まともに「欲情」と呼べるものは一度もしたことないしね
それはそう。精神には影響が及ばないが、
精神というものは、そもそも肉体に引っ張られるもの、
仮に腹が凄く減ったとして、イライラしない人はいるかな
そういうこと、今の僕になったのは、ある意味確定の事実であって、
薬はやや早める効果に過ぎない
まあ、盛られたって知った時は既に時遅しだが
別に、今のほうが幸せだし、いいけど




