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☆☆☆


アカは、コルットと呼ばれる煩い少女とイオリを収納した。

前へ進む。門番が待っている。


牢屋の中に入ると、そこにいる奴隷たちが怯えた顔でアカを見つめた。


笑顔の門番は、彼らを指でつつくように示しながら言う。


「さーさー、レオパルト様が認めたお方よ。コイツらをお返しします。ところで、コルット様は何処へ?」


アカは答えない。ただ、シシリアの口元を見る。

黒いぐねぐねの毛と、液体。怯え切ったその顔は、街にたどり着く前とはまるで違っていた。

他に二人ほど、門番の服が乱れ、妙に爽やかそうな顔でアカを眺めている。


アカはそれらに興味はない。

生きてさえいれば良い――逆に、一人でも死んでいれば、この街を選ぶ理由がなくなる。

イオリが悲しむ時点で、この街は滅ぼされるのだ。


アカは黒い猫耳の獣人、シシリアに近づいた。

彼女は一番左で、もう一人の獣人の尻を撫でている門番から目をそらしていた。


アカは、その門番に手を向けた。

イオリは魔法空間で、あの女のことで虫ケラと言い争ってる


『弱めって言ってるじゃん!』


『しかしこの無礼もの、万が一主様がーーー』


『これで起きれないならどうするだよ!?』



ちょうどいい、とアカは思った。

イオリが一瞬だけ気を逸らしたその時、門番の体を収納した。


――『デスルーム』。


無の空間。

主に死体を収納する場所。イオリたちのいる空間とは別の魔法空間。

キメラも山賊も、皆ここで仲良死。空気の存在しない無の空間。

気圧低下による沸騰で、生物は瞬時に死ぬ。アカにとって都合のいい魔法だった。


右の門番が騒ごうとしたので、アカはそいつもついでに収納した。


仲間が二人消されて、門番の頭は目を見開き、騒ごうとしたが――

アカが手を向ける前に、自ら口を塞いだ。


害悪を片付けたアカは、獣人どもを空間に収納した。もちろん空気のある空間。

外気とマナを取り込み、基本スペックはイオリの居住空間と同じ。

イオリに言われて旅の途中で作ったが、使う前にアルギナへ着いてしまっていた。


牢屋に残るはアカと門番の頭だけ。

振り向いたアカを見ると、頭は震え上がり、足がすくんで動けない。


鑑定によれば、混乱と恐怖状態。

名はラルース。スキルは盗賊系。資産十万リル。親は存命、未婚。冒険者ランクはリル2。

脅威度の低いただの人間だ。しかし話を漏らされればイオリに叱られる。

獣人を盾にすればよいが、それでも「殺さなかった相手が死んだ」なんて知れば、イオリはショックだ。

それは困る。


だからこそアカは第四の魔法を行使する。

転移・鑑定・収納に続く魔法。

今までアカの存在を、社会からはみ出させないための、人知れぬ魔法。


――『証明(probatio)』。

その効果は大きく二つ。


ひとつ、『悪魔の証明(probatio diabolica)』。

“その存在が不可能になる”魔法。

指定された存在は、この世の誰からも認知されなくなる。


そしてもう一つ、『神の証明(probatio divina)』。

“存在しない事象すら是とする”魔法。

例えば、ある人がゾンビの花嫁と結婚しても、

人々はそれを「お似合いだ」「綺麗な花嫁だ」と認識してしまう。


当然、イオリの前では極力使わない。

万が一「僕のアカへの好きも、強制されたものなの……?」などと言われた日には、

神の証明による集団自殺が始まる。

冗談ではなく。


そんな馬鹿げた魔法で、アカは記憶を消す。

孤児院でも、イオリの裸を見た子供たちが数人、アカに“消された”。

死が誰にも認知されず、アカが疑われずに済んだのも、この魔法のおかげ。


アカが近づくや否や、『証明(probatio)』が発動する。

アカが門番の頭を見つめると、彼は途端に震えが止まり、逆に「すごいな」という顔をした。


「アレは収納の魔法かい? 初めてこんな大規模なものを見たよ」


効果が発動したので、アカは牢屋を出る。


『ん?アカ、彼らを収納したの? 魔法がもう完成した?』


「ああ」


地下から上へ。留置所を出て鑑定を始める。

一番近い奴隷屋を目指して歩き出した。


【ラーム奴隷販売場】

そこそこ大きな販売所で、高級性奴隷の試し部屋が三階まである。

住むには困らないだろう。


アカは扉をノックする。

街の人目が多いので、二人きりを狙った。

慌ただしい足音とともに、ふくよかな男が扉を開く。


「いらっしゃいませ、どんなご要望……え?なんだこの餓鬼」


アカは、デスルームの中でくたばった門番の金を出した。

男は一瞬で笑顔になり、後ろへ一歩引いてアカを中へ通した。


「さあさあ、どうぞ入って。お好きな奴隷を選んで、お客様!」


地下のような場所へ案内される。

店主の持つ蝋燭の光の中、いくつもの檻があり、獣人たちが閉じ込められている。

アカは興味もなければ、同情もない。


「他の店員は? 店主だけ?」


店主は笑顔のまま答える。


「前に一人いましたが、貴族様に気に入られて、今はメイドでもしてるかもな。

それより欲しい奴隷は見つかったかい?」


アカは躊躇なく“ふとよかな”男性を指差した。

男は冷や汗を流し、「ご冗談を」と一歩引く。


魔法が発動し、アカは店主を消した。

今回はイオリが決めた『消す』行為なので、存在そのものを消す必要はない。


デスルームの中で、男は叫びもあげられず爆死する。

どんな外道でも、この死に方はなかなか得られまい。

“妻”は貴族に奪われ、子もいない。

この上失われるのは奴隷と金と命だけだったが――それが一気に消えた。

失われた妻は今夜も、かつての旦那を思いながらベッドで行為に浸っているだろう。

存在を消されないことが、彼にとって最も幸福だったのかもしれない。


アカは地下で獣人たちを解放し、檻をすべて壊した。


その時、イオリとあの煩い娘が出ようとした。

魔法空間の扉を開き、イオリを抱える。

何度も出たのに、まだ目を瞑る癖が抜けず、怯えたようにアカの胸にしがみ付く。

その姿があまりに可愛らしく、アカは思わず獣人の前でイオリの唇を奪った。


イオリは抵抗せず、逆にアカの首に腕を回して求めてくる。


「ちょっと、イオリちゃん!?」


金髪の煩い女が喚く。

アカは徐々にイオリの顔から離れ、ぼんやりした彼女を呼んだ。


「イオリ」


その声でイオリは我に返り、獣人たちと金髪の煩い女――有象無象に――笑顔を見せた。






アカはイオリを再び魔法空間に投げ込み、金髪の煩い女と奴隷屋を出てギルドへ向かった。


ギルドのマスターは男か女かよくわからない人物。

金髪の女は彼と知り合いらしい。


アカはギルドマスターと会話を交わし、

それからテストを受け、合格。


金髪の女は受付嬢に何か言い、紙を受け取ってアカに渡す。

個人情報を書けばいいらしい。

ギルドは相変わらず煩い者ばかりだ。


書いて渡すと、金髪の女はギルドマスターと話し込み始めた。

アカはひどくストレスを感じた。

だがイオリに叱られるので“消す”ことはできない。

仕方なく、一番煩い奴をおもちゃにする。


髪の毛を一本ずつ抜くゲーム。

悲鳴で一束、音漏れで五本、沈黙なら一本。

アカは目の前のハゲを見て、次の標的を探す。

一人ハゲにして、また次――

気付けばギルドは静まり返っていた。


『うう、可哀想だよ』

だが殺していないので、イオリは叱れない。


金髪の女が鉄のプレートを持って現れた。

アカは半分ハゲた男を離し、プレートを受け取る。


半分ハゲ君は助かったと涙目で金髪の女に縋る。


「それでだけど、パーティー組んでくれないかな?」


金髪の女が問う。

アカは断ろうとした。


『いいじゃん、アカ。彼女と組もうよ?』


二対一。アカは仕方なく受けることにした。


☆☆☆


僕は逃げていく半分ハゲのおじさんを見ながら思った。

パーティーを通して、少しでもアカにストレス耐性がついたらいい。

じゃないと、このギルド、ハゲしか残らない……。


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