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008.犠牲と選択

包囲の朝、選択の時が来る。

知識は刃にも癒しにもなる——ミサキは仲間と町の未来を天秤にかける。

第八話は、犠牲と信頼が交差する瞬間を描いた物語です。

挿絵はその決定的な一瞬を切り取りました。

どうかページをめくり、彼女たちの声に耳を傾けてください。

【毎週日曜日投稿予定】

第一章: 包囲の始まり



グランベルの町。


城壁の上から、私は公爵の軍を見ていた。


五十騎以上。いや、もっといる。旗が風になびいている。双頭の鷲。


七十……いや、八十近い。


町を完全に包囲している。


「数が多すぎる……」


私の隣で、グレゴールが呟いた。その声は、かすれている。


「七十は下らない。いや、もっとだ。こんな大軍、魔獣大戦以来だ」


グレゴールの手が、剣の柄を握りしめている。わずかに震えている。


何十年も戦ってきた老戦士が、震えている。





エリカが地図を広げた。


「包囲は完璧ね。北も南も東も西も、全て封鎖されてる」


「逃げ道は?」


「ない」


マティアスが答えた。その声は、静かだが重い。


「森も監視されている。抜け出すのは不可能だ。これは――完全な封鎖だ」


町の人々が、城壁の下で準備をしていた。


バリケードを作り、武器を研ぎ、矢を用意している。


でも――その動きは、ぎこちない。


農具を持つ手が震えている。


子供を抱きしめる母親の目に、恐怖が浮かんでいる。


セバスチャンが駆け寄ってきた。息が切れている。


「ミサキさん、町の食料を確認しました」


「どれくらいある?」


「三日分……いえ、節約すれば四日分です」


セバスチャンの声が、震えている。


「でも、子供たちが……小さい子が泣いてて……」


たった四日。


「水は?」


「井戸があるので大丈夫です。でも――」


セバスチャンは公爵の陣営を指差した。


「あちらは補給路があります。いくらでも持ちこたえられます」


時間が経てば経つほど、不利になる。


その時――。


公爵の陣営から、使者が来た。


白い旗を持った騎士。その鎧は磨き上げられ、太陽の光を反射している。


圧倒的な、力の差。


「町の代表者と話がしたい!」


グレゴールが城壁を降りた。私もついていく。


町の門が少しだけ開き、使者が中に入ってきた。


「アルブレヒト公爵閣下からの伝言だ」


使者は巻物を開いた。その声は、冷たく、機械的だ。


「ミサキと名乗る者を、三日以内に引き渡せ。さもなくば、この町を総攻撃する」


「もし引き渡せば?」


グレゴールが聞いた。


「町の人々の安全は保証する。食料と金貨も支給しよう。公爵閣下は、寛大なお方だ」


使者は私を見た。その目には、軽蔑が浮かんでいる。


「ただし、ミサキは王都へ連行する。これは交渉の余地なし」


三日以内。


使者は去っていった。


町の人々が、私を見ている。


その視線には――迷いがあった。


不安。恐怖。そして――諦め。


「……私が行けば、みんなは助かる」


私が言うと、トマスが叫んだ。


「ダメだ! ミサキを渡すなんて!」


トマスの目から、涙が溢れている。


「ミサキ……あんたを犠牲にしてまで、生き延びたくなんかない! そんなの、生きてる意味がねぇだろ!」


「でも、町のみんなが――」


「俺たちは、自分で決めたんだ」


一人の男が前に出た。手には、古い斧。


「ミサキを守るって。だから、戦う」


「そうだ!」


町の人々が、口々に叫ぶ。


でも――。


何人かは、黙っている。


不安そうな顔をしている。


一人の女性が、小さな子供を抱きしめている。


当然だ。


家族がいる。子供がいる。


彼らを危険に晒す権利が、私にあるのか?


「ミサキ」


グレゴールが私の肩に手を置いた。その手は、重く、温かい。


「お前が決めろ。私たちは、お前の決断に従う。それが、戦士の誇りだ」


私は――。


「三日、時間をください。その間に、何とかします」


「何とか?」


「公爵を説得します。それか――」


私は城壁の向こうを見た。


「別の道を見つけます」


-----


## 第二章: 防衛の準備



町の中央広場。


私たちは、作戦会議をしていた。


「まず、食料の配分を見直します」


私は紙に書き出した。手が、わずかに震えている。


「一日二食に減らし、子供と老人を優先します」


「水は?」


「井戸は大丈夫です。でも、念のため煮沸を徹底してください」


セバスチャンが頷いた。その目には、決意が宿っている。


「ミサキさん、僕は――もう怖くないです。あなたが教えてくれたこと、全部覚えました」


「セバスチャン……」


「だから、任せてください。町のみんなに、治療法を教えます」


「次に、防衛体制」


エリカが地図を指差した。


「城壁の弱点は、東門です。ここを重点的に守ります」


「武器は?」


「弓が二十張り、剣が三十本、槍が十五本」


「足りない……」


私は考えた。


何か、知識で作れるものは?


視界に検索画面が開きかけた。


でも――。


頭痛が走る。


【警告: 精神力不足】

【精神力: 15/80】

【検索実行には最低20必要】


使えない。


精神力が足りない。


「ミサキ?」


エリカが心配そうに見ている。


「大丈夫……ちょっと考えてただけ」


でも、大丈夫じゃない。


能力が使えなければ、私は何もできない。


ただの、無力な少女だ。


知識もない。力もない。


仲間を、守れない。





「ミサキさん」


セバスチャンが声をかけた。


「以前、教えてくれた薬草の調合法――あれを使って、傷薬を大量に作りました」


「本当?」


「はい。それと、熱した油を使う防衛法も、準備してあります。グレゴール様が指示してくださいました」


グレゴールが頷いた。


「お前の知識は、もう俺たちのものだ。お前が倒れても、俺たちが戦える」


そうだ。


私の知識は、すでにみんなに伝わっている。


私がいなくても、みんなは戦える。


「ありがとう、セバスチャン。グレゴール」


その時――。


町の入口で、騒ぎが起こった。


「何事だ?」


私たちは駆け寄った。


そこには――。


痩せこけた男が、倒れていた。服はボロボロ。顔には打撲の跡。腕には、深い切り傷。


「誰だ?」


「わからない……でも、公爵の陣営の方から来た」


男は、かすかに息をしている。


グレゴールが男を抱き起こした。


「しっかりしろ。誰だ?」


男は、目を開けた。


「……ル、ルーカス……」


「ルーカス!」


私は驚いた。


ルーカスは、ひどい傷を負っていた。顔に打撲の跡。腕には切り傷。足も、引きずっている。


「レオノーラは……?」


「……捕まった……俺だけ、逃げた……すまん……」


ルーカスは、私を見た。その目には、後悔が浮かんでいる。


「ミサキ……公爵は……本気だ……三日後……必ず……攻めてくる……」


そして、意識を失った。


「セバスチャン! すぐに治療を!」


「はい!」


ルーカスは担架で運ばれていった。


私は――拳を握りしめた。


レオノーラが、捕まった。


ルーカスは、こんな状態で逃げてきた。


全部、私のせいだ。


私の知識が、仲間をこんな目に遭わせた。


-----


## 第三章: 記憶の加速



夜。


私は、町の見張り台に一人でいた。


公爵の陣営では、焚き火が燃えている。騎士たちが、交代で見張りをしている。


星が、空に輝いている。


どうすればいい?


どうすれば、みんなを守れる?


考えれば考えるほど、答えが見つからない。


その時――。


激しい頭痛が走った。


「ぐっ……!」


手すりにつかまる。


頭の奥で、何かが溶けていく。


言葉が、音が、色が――全てが混ざり合う。


また、記憶が消える。


今度は――異世界の記憶も混ざり始めた。


エリカの笑顔が、母の笑顔に変わる。


グレゴールの声が、上司の声に重なる。


トマスの顔が――誰かの顔に。


境界が、曖昧になっている。


どっちが本当?


どっちが、私?


視界にメッセージ。


【記憶消失: 急速進行中】

【橘美咲としての記憶: 残存25%】

【異世界記憶との混同開始】

【アイデンティティ喪失リスク: 73%】

【警告: 80%到達まで残りわずか】


もうすぐだ。


もうすぐ、80%に達する。


そうしたら――システムの真実が、もっと明かされる。


でも――。


それまで、私は私でいられるのか?


「ミサキ」


背後から声がした。


振り返ると、エリカがいた。毛布を持っている。


「一人で、悩んでたの?」





「……うん」


エリカは隣に座った。毛布を私の肩にかけてくれる。


「あのね、ミサキ。あなたは一人で全部背負わなくていいの」


「でも――ルーカスが、あんな目に。レオノーラも捕まって」


「それは、あなたのせいじゃない」


エリカは私の手を握った。


「ミサキ、聞いて。あなたの知識は、たくさんの人を救った。トマスも、町の人たちも」


「でも、危険にも晒してる……」


「それでも、みんなあなたと一緒にいたいの。あなたがいてくれるから、希望が持てる」


エリカの目に、涙が浮かんでいる。


「あなたが記憶を失っても、私たちが覚えてる。あなたが倒れそうになったら、私たちが支える」


「エリカ……」


「だから、一人で抱え込まないで」


涙が、溢れそうになった。


そうだ。


私は、一人じゃない。


-----


## 第四章: 夜明け前の静寂



二日目の朝。


まだ夜明け前。


空が、わずかに白み始めている。


私とエリカは、城壁の上にいた。


町は、静かだ。


人々は、まだ眠っている。


「ミサキ」


エリカが呟いた。


「明日、死ぬかもしれないって思うと――怖い」


「エリカ……」


「でも、あなたと一緒なら、怖くない」


エリカは空を見上げた。


「十年前、私は逃げた。仲間を見捨てて。でも、今度は違う」


「エリカは、もう十分戦ってる」


「ううん。まだ足りない」


エリカは私を見た。


「今度こそ、最後まで戦う。あなたと一緒に」


太陽が、地平線から顔を出し始めた。


オレンジ色の光が、町を照らす。


新しい一日が、始まる。


-----


## 第五章: 究極の選択



二日目の朝。


ルーカスが目を覚ました。


「ルーカス!」


私は駆け寄った。


「ミサキ……すまん。レオノーラを、助けられなかった」


ルーカスの目に、深い後悔が浮かんでいる。





「いいの。あなたが無事で」


「でも――俺は、あいつを見捨てて逃げた」


「あなたは、情報を届けるために逃げたの。それは、正しい選択だった」


ルーカスは体を起こそうとしたが、痛みで顔を歪めた。


「公爵の陣営は……厳重だ。レオノーラは……地下牢に……」


「休んで。無理しないで」


「俺は、お前の知識を守る盾になれた。後悔はない」


ルーカスは、かすかに笑った。


「でも、ミサキ……お前の知識が、俺をこんな目に遭わせたとか、思うなよ」


「ルーカス……」


「俺は、自分で選んだんだ。お前と一緒に戦うって」


その時。


町の外から、声が聞こえた。


「ミサキ! 聞こえるか!」


公爵の声だ。


私は城壁に上った。


公爵が、馬に乗って町の前にいた。


その鎧は、黒く光っている。まるで、死神のような。


そして――その隣に。


レオノーラが、鎖で繋がれていた。


「レオノーラ!」


「ミサキ! 来ちゃダメ!」


レオノーラが叫ぶ。その声は、か細い。


公爵は剣を抜き、レオノーラの首に当てた。


「ミサキ、取引だ」


「やめて!」


「お前が今すぐ降伏すれば、レオノーラは助ける。町の人々も助ける」


公爵の声は、冷たく、そして――どこか疲れている。


「でも、あなたは私を――」


「そうだ。お前を王都へ連れて行く。お前の知識を、私が独占する。そして――この世界を、私が導く」


公爵の目は、真剣だった。


「知識は、一人が管理すべきだ。民衆に渡せば、混乱と破壊しか生まない」


知識の独占。


「これが、最後の機会だ。拒否すれば、レオノーラを殺す。そして、町を攻撃する」


選択を、迫られている。


レオノーラの命か、私の自由か。


「ミサキ! 行っちゃダメ!」


トマスが叫ぶ。


「私たちは、戦う!」


町の人々も、叫ぶ。


でも――。


レオノーラの首に、剣が食い込んでいる。


血が、一筋流れた。


「時間がない。答えろ、ミサキ」


私は――。


「待って!」


私は叫んだ。


「一つだけ、条件があります」


「条件?」


「レオノーラを解放してください。そうしたら、私が行きます」


公爵は考えた。


そして――。


「いいだろう」


公爵はレオノーラの鎖を外した。


「行け」


レオノーラは、よろよろと町の方へ歩いてきた。


「ミサキ……あなた……」


「大丈夫。私は――」


その時。


視界に、メッセージが表示された。


【緊急警告】

【重大な選択を検出】

【自己犠牲による降伏を選択した場合――】

【試練失敗】

【システム強制終了】

【橘美咲の魂、完全消滅】


消滅……?


【別の選択肢を推奨】

【精神力を全消費し、能力を限界使用】

【代償: 記憶消失80%到達】

【結果: レオノーラ救出+防衛戦継続可能】


どっちを選んでも、何かを失う。


でも――。


自己犠牲は、試練の失敗。


誰も犠牲にしない未来のために――。


「公爵!」


私は叫んだ。


「やっぱり、取引は断ります!」


「何?」


「レオノーラは、もう安全です。だから――私は戦います! 知識を独占させない!」


公爵の顔が、怒りで歪んだ。


「貴様……!」


【選択確定: 能力限界使用】

【精神力: 15/80 → 全消費開始】

【記憶消失: 加速】


視界に、検索画面が開いた。


でも、今度は違う。


複数の画面が、同時に開いた。


情報が、洪水のように流れ込んでくる。


【緊急検索: 防衛戦術】

【緊急検索: 簡易火薬の作り方】

【緊急検索: 罠の設計】

【緊急検索: 心理戦】

【緊急検索: ゲリラ戦術】


【精神力: 15 → 10 → 5 → 0】


頭が、割れるように痛い。


視界が、真っ白になる。


でも――。


【記憶消失: 75% → 80% 到達】


全ての情報を、吸収した。


「みんな! 聞いて!」


私は叫んだ。


「これから、作戦を伝えます!」


-----


## 第六章: 最後の記憶と真実の開示



作戦を伝え終えた後。


私は、その場に倒れた。


「ミサキ!」


エリカたちが駆け寄る。


視界が、ぼやけている。


意識の中で、最後の記憶が浮かんだ。


社員証の端切れ。


そこに書かれた名前。


「橘美咲」


そして――。


過労死する瞬間。


モニターの前で、意識が遠のいていく。


最後に思ったこと。


「もう一度、誰かの役に立ちたい」


それが――私の、最後の願いだった。


その願いが――今、叶っている。


視界にメッセージ。


【記憶消失: 80%到達】

【システム真実開示: レベル2】


新しいメッセージが表示された。


でも、今度は――エリカとの会話の中に混ざるように。


「ミサキ! しっかりして!」


エリカの声。


【真実5: 観察者の正体――それは、未来の可能性の一つ】


「エリカ……観察者は……」


【真実6: 橘美咲の魂は、複数の時間軸に分裂している】


「複数の……時間軸……」


【真実7: 現在のミサキは、その一つの断片】


「私は……断片……」


【真実8: 記憶消失100%到達時、全ての断片が統合される】


「統合……される……」


【真実9: 統合後の存在は――】


そこで、メッセージが途切れた。


【ERROR: 情報開示上限】

【次の開示は記憶消失100%時】


「ミサキ、何が見えるの?」


エリカが聞く。


「……未来……可能性……私は、断片……」


「わからないけど、大丈夫。休んで」


エリカが私を抱きしめる。


「大丈夫……作戦、書いた……紙、見て……」


「わかった! でも、あなたは休んで!」


私は、目を閉じた。


もう、前世の記憶は、ほとんどない。


名前と、最後の願いだけ。


でも――。


この世界の記憶がある。


だから、大丈夫。


-----


## 第七章: 防衛戦の開始



三日目の朝。


公爵の軍が、攻撃を開始した。


「攻撃開始!」


騎士たちが、一斉に町へ突撃してきた。


馬蹄の音が、地面を揺らす。



でも――。


町の外側に、罠が仕掛けてあった。


地面に穴。そこに尖った杭。


騎士たちが、次々と落ちていく。


「何だ、これは!」


「罠だ! 気をつけろ!」


次に、城壁から熱した油が降り注いだ。


「ぐあああ!」


騎士たちが、悲鳴を上げる。


そして、弓矢が放たれた。


町の人々が、一斉に矢を射る。


「やった! 当たった!」


トマスが叫ぶ。その顔には、誇りが浮かんでいる。


公爵の軍は、一時撤退した。


「すごい……ミサキの作戦、成功した……」


セバスチャンが呟いた。


でも――。


公爵の軍は、すぐに態勢を立て直した。


「第二波、来るぞ!」


エリカが叫ぶ。


今度は、盾を持った騎士たちが前に出た。


矢を防ぎながら、進んでくる。


「まずい……」


でも――。


町の人々は、諦めなかった。


「ミサキが、俺たちに力をくれた!」


「今度は、俺たちが戦う番だ!」


彼らは、次々と新しい罠を発動させた。


網、落とし穴、煙幕。


ミサキが教えてくれた、全ての知識を使って。


公爵の軍は、再び撤退した。


-----


## 第八章: 真実への扉と新たな希望



夜。


私は、ようやく目を覚ました。


「ミサキ!」


エリカが抱きついてきた。


「よかった……目を覚まして……」


「戦いは……?」


「大丈夫。あなたの作戦のおかげで、公爵の軍を二度も撃退したわ」


「本当……?」


「ええ。でも――」


エリカの表情が曇った。


「公爵は、まだ諦めてない。明日、また攻めてくる」


私は体を起こした。


頭が、まだ少しぼんやりしている。


視界を確認する。





【精神力: 0/80】

【回復不可】

【記憶消失: 80%】

【橘美咲としての記憶: 残存12%】


もう、ほとんど何も残っていない。


前世の記憶は、名前と、最後の願いだけ。


それ以外は、全て消えた。


でも――。


この世界の記憶は、鮮明だ。


「エリカ」


「何?」


「ありがとう。ずっと、支えてくれて」


「当たり前よ。あなたは、私の大切な仲間だもの」


その時――。


視界に、新しいメッセージが表示された。


【真実への扉: 42% → 55%】

【防衛戦での選択が評価されました】

【自己犠牲ではなく、能力使用を選択】

【仲間への信頼を示しました】

【補足: 残り45%で、最終真実が開示されます】


あと、45%。


それで、全ての真実がわかる。


-----


## エピローグ: 新たな希望と迫る脅威



翌朝。


公爵の陣営に、変化があった。


旗が、下ろされている。


「どういうこと?」


グレゴールが首を傾げた。


そして――。


公爵が、一人で町の前に来た。


「ミサキ!」


私は城壁に上った。


「話がある。一人で来い」


「罠かもしれない」


エリカが心配する。


「大丈夫。行ってくる」


私は町の門を出た。


灰色も、ついてきた。


公爵の前に立つ。


沈黙。


風が、二人の間を吹き抜けた。


「……お前は、諦めないのだな」


公爵が言った。その声は、どこか疲れている。


「はい」


「レオノーラも、お前と同じことを言った。『ミサキは、絶対に諦めない』と」


公爵は剣を鞘に収めた。


「私は――間違っていたのかもしれん」


「公爵……」


「力で支配しようとした。知識を独占しようとした。でも、お前は違った」


公爵は空を見上げた。





「お前は、知識を分け与え、人々と共に戦った。そして――勝った」


「それが、正しい道だと思います」


「……そうかもしれんな」


公爵の目に、かすかな涙が浮かんでいる。


「十年前、私は家族を失った。だから、二度とあんな悲劇を起こさせないと誓った」


「はい」


「でも――力で全てを支配しようとした。お前のように、人々を信じることができなかった」


公爵は私を見た。


「今日は、攻撃しない。明日も、しない」


「本当ですか?」


「ああ。私は、間違っていた。知識は――人々のものだ」


公爵は馬に戻ろうとした。


でも――その時。


遠くから、黒い霧が流れてきた。


「何だ、あれは……?」


公爵が呟いた。


霧は、公爵の陣営に向かって流れている。


そして――。


陣営のバリケードが、音もなく崩れ落ちた。


まるで、見えない手で押し潰されたように。


「何が起こって――」


その時。


空に、赤い光が走った。


稲妻のような、しかし血のような色。


【緊急警告】

【外部干渉: 最大級】

【観察者が直接介入を開始】

【試練段階: 6/7 → 最終段階へ強制移行】


視界にメッセージが表示される。


「公爵、気をつけて!」


私は叫んだ。


「観察者が、動き出した。お前を狙っている」


「観察者……?」


公爵が振り返った。


その瞬間――。


公爵の背後から、黒い影が現れた。


観察者だ。


「ミサキ」


観察者の声が、空気を震わせた。


「よくここまで来た」


観察者のフードが、風で揺れる。


その下から、顔が見えた。


私の顔だ。


いや――違う。


橘美咲の顔だ。


でも、その表情は冷たく、無機質で――。


「次が、最後の試練だ」


観察者が手を上げると、黒い水晶が現れた。


「お前は、真実を知る覚悟があるか?」


水晶が光る。


その光が、町全体を包み込んだ。


【最終試練: 開始】

【試練内容: 観察者との対決】

【制限時間: なし】

【勝利条件: 真実への扉100%到達】

【敗北条件: 記憶消失100%前の自我喪失】

【警告: この試練で、全てが決まる】


公爵が剣を抜いた。


「ミサキ、下がれ!」


「公爵――」


「これは、私の贖罪だ」


公爵は観察者に向かって突撃した。


でも――。


観察者が指を動かした。


その瞬間、公爵の体が空中で止まった。


「愚かな」


観察者の声。


「力では、私には勝てない」


公爵が、地面に落ちた。


「公爵!」


私は駆け寄った。


公爵は、まだ息がある。


「ミサキ……お前が……戦え……」


「でも――」


「知識で……戦え……それが……お前の……武器だ……」


公爵は、気を失った。


私は立ち上がった。


観察者と向き合う。


「さあ、ミサキ」


観察者が言った。


「お前の全てを、見せてもらおう」


観察者の背後で、巨大な影が動いた。


複数の顔が重なり合っている。


そして――その中心に、私の顔。


いや――未来の私の顔。


これから、なろうとしている私の顔。


「戦いは、始まったばかりだ」

-----

第八話 完


次回: 第九話「観察者との対決」


ついに姿を現した観察者。その正体は、もう一人の「私」。真実への扉が開かれる時、ミサキは自分の存在の意味を知る。そして――記憶消失100%の先に待つ、究極の選択とは。全ての答えが、明らかになる。

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読んでくださり、ありがとうございます。今回の章はキャラクターの選択と成長を中心に据えました。ミサキの行動は代償を伴いましたが、仲間の絆が新たな光を生みます。次回は観察者との対決――真実の扉がさらに開きます。

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