第2章④
5限の体育の授業は無事行われた。
ゲーム機がなくなっていることに気づいたのは、その後の帰りのHRである。
着替えから全員が戻る。
担任の教師がこれといった知らせがなかったので、号令係に合図し、「起立」、「気を付け」、「礼」。
「さようなら」とクラスメートたちが合唱した。
クラスメートたちのテンションは上がり、待ちわびていた者が扉に向かおうとする。
だが、騒然を上書きするほどの怒声が爆発した。
「お前らは帰るな。足を折るぞ」
真顔なエデンの表情に人を怯えさせるような色が滲んでいた。
いおりとドーマが昼休みに実行させた計画を見ていた数人のクラスメートたちは、この状況の原因を知っている。
ドーマは一瞬エデンに気おされた。
だが、その瞳を輝かせ、事態の成り行きを楽しみに待つ。
全員がエデンに着席させられる。
担任の教師は出るときに、一瞥はしたが何も言わなかった。
エデンは教壇に立つ。
いつもの無表情を保とうとしているが、顔に熱を浴びていて冷静を隠し切れていない。
「俺の物を盗んだやつ、名乗り出ろ」
沈黙が流れる。
生徒たちからどよめきが零れる。
否定の代わりに、正面を向かない。
クラスメートたちをこっそり観察するドーマ。
必死に陰になろうとしている子。
怯えている子。
手に取るように心理状態が分かる。伝染して身体の芯に震えた。
エデンは黙り込む。
一人一人を舐めるように見ている。
怪しまれないようにクラスメートたちと同じ気持ちを装うドーマ。
「お前だろ」
過敏になった生徒たちは空気の振動に身が震えた。
ドーマは大きく動揺し、おしりを浮かしそうになる。
エデンの足音が響く。
4列目の真ん中辺りで止まる。
異変に気づいたユカが顔を上げる。
襟が掴まれ、座ったまま大きく投げ飛ばされる。
「どけ」
ユカは地面に転がった。
机の中が漁られ、教科書や文房具が引っ張られる。
今度はユカのランドセルを開ける。
中からゲーム機が現れる。
ドーマは目を疑った。
いおりが背中越しで首を左右に動かす。
「そ、それは僕のだ!」
ユカが必死に訴えた。
エデンがしばらくゲーム機をじろじろ見る。
ランドセルに戻す。
驚いたことにユカに手を差し伸ばして謝罪した。
「悪い。疑ってすまない」
ユカがその手を握って身体を起こす。
エデンが散らかった物を拾い上げ机に置く。
その中にエデンから貸してもらった国語の教科書が目に入る。
「あ」
ユカは呆けた顔を浮かばせた。
思わぬ失態に声が震える。
「これ、教科書、ありがとう」
目をつむり、歯を食いしばる。
「あげるよ。いらない」
ユカは手を差し出したまま。
エデンがイラつく。
「あげるってば」
奇妙な光景だ。ドーマが息を呑む。罪滅ぼしだろうか。
ユカが教科書を受け取ると、エデンは自分の荷物を担ぐ。
手に扉をかけようとして止まる。
「裏庭の灌木に隠されたよ」
エデンが頭を動かずに、端的にいう。
「そうか。誰が?」
ユカは動揺する。
視線が一瞬いおりの方を向く。
言うか言わないか迷う。
いおりにいつも給食当番で助けてもらっている。
言えるはずがない。
「ごめん。言えない」
いおりの肩が安藤で下がる。
「そうか」
エデンがそれだけ返すと扉を開けて、足音が徐々に足音が小さくなる。
数分。10分経つ。
チャイムが鳴った。
生徒の一人が友達と一緒にドアから出る。
それを栓抜きに、ぼちぼちと人が減った。
ドーマの方にいおりがよろよろ近づく。
安藤の色が浮かんでいる。
「心臓に悪い。終わったかと思った」
ドーマが飛ばすように笑って、目に鈍く光を反射させる。
「でも、楽しかった」
「本気で言ってる?」
いおりが呆気にとられた。
「冗談だよ」
どうでもよさそうに手をひらひらさせる。
荷物を持ち上げる。
いおりは後に続いて廊下を出る。




