第5章②
帰路の途中にある公園に何気なく視線を向ける。
ベンチでランドセルのままこうべを垂れる少女が目に入る。
絶望のオーラを発している。
ドーマは棒立ちになる。
見たことない禍々しい色彩だ。
足が公園の砂利を踏む。
蛍光灯に誘われる蛾のように、ドーマは項垂れる少女の前に立った。
「きみ大丈夫?」
好奇心で聞いた。
少女が顔を上げる。
目がやつれている。
どこかで見た顔だ。
口がゆっくり開く。
「うん。大丈夫」
ドーマは人当たりのいい笑みをみせる。
「僕は5年○組ドーマ」
1人分離れた隣に座った。
「わたしは5年○組エレン」
名前は初耳だった。
「担任だれ先生?」
硬かったエレンの表情が和らぐ。
「○○先生」
賢そうな顔立ちの女性教師が頭をよぎる。
「放送委員を担当している先生でしょ」
「そう」
エレンが頷く。
ドーマが笑う。
ブランコが風で揺れる。
「なにしてたの?」
前を向いたまま尋ねた。
視界の端でエレンが自分の足元に視線を下した。
「休んでた。学校疲れるから」
「学校疲れるよね」
「うん」
いおりは気がかりだった。
大丈夫じゃないのになんで大丈夫なんて嘘つくんだろう。
帰路の途中で公園がある。
いおりは寄り道することにした。
ベンチで読書している少女が目に入る。
エレンだ。
ページ上に覆いかぶさるようにしてページをめくる。
数人の子どもが楽しげな声を上げて追いかっけしているが、エレンの方だけまるで別世界だ。
あと一歩の距離に近づいても気づかない。
「なに読んでるの?」
本がバタンと閉じられる。
目つきが鋭い。
いおりの目線が揺らぐ。
「ごめん。邪魔するつもりはなかったの」
「えっと、大丈夫」
エレンが優しく微笑む。
「びっくりしただけ」
「ならよかった」
安堵で息を吐いた。
「4人組のあいつらのことなんだけど、わたしに相談してもいいからね」
エレンが苦笑を浮かべる。
「ありがとう。でも本当に大丈夫」
「わたし味方だよ」
「うん。体育とか休み時間で一緒に行動してくれて助かってる」
「本当に大丈夫そう?」
いおりが念を押す。
「うん。本当に大丈夫」
「ならいいけど」
納得できなった。
エレンの視線が下がる。砂利を凝視する。
何か思案している。
いおりは待ってみることにした。
ゆっくり口が開く。
「実は計画があるの」
いおりは困惑した。
「計画?」
「うん。先週考えたの。○組のドーマと一緒に」
まさかそんなことがあったなんて。
ドーマは知っている。
算数のクラス分けで同じだ。
「計画って?」
「いじめっこに復讐するの」
いおりの目が大きく開く。
復讐。エレンの口からその言葉が出るのは意外だ。
「そんな計画があったのね」
エレンの疲れたような据わった目を捉える。
「復讐したいの?」
「うーん。でも、このままは辛い」
「それもそうよね。やられっぱなしじゃ何も変わらないし」
胸の中でモヤが疼く。
「ドーマと仲いいんだ」
エレンが首を左右に振る。
「先週話したばかり。同じくここで。わたしが落ち込んでいるところを心配させちゃったみたい」
砂利を踏む音。
そちらを見ると、ドーマが手のひらを掲げた。
いおりがエレンの顔を覗く。
エレンが恥ずかしそうに笑う。
「話し中に悪いね。俺の名前が聞こえたからさ」
「今日計画の日なの」
「そうなの?」
いおりが思わず声を上げた。