表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

第5章①

「保護者にちゃんと渡すように」

 担任の教師が念を押した。

「エデンにプリントを届けてくれる人」

 いおりが挙手した。

 

 住所をもう一度確認して、インターホンを押す。


 返事が来ない。

 もう一度押す。


 やはり来ない。


 もう一度押す。

 同時に玄関ドアが開く。

 

 エデンと目が合う。


「プリント届けに来た」

 いおりは落ち着いている。

 

 エデンが少し動揺する。

「あぁ。ありがとう」

 

 いおりの両手からプリントをかっさらう。

 ドアが閉められる。

 だが、咄嗟にドアの取っ手を握った。


「学校戻らないの?」

 いおりが間から覗く。


「余計なお世話だ」

 勢いよくバタンと閉められた。

 いおりがため息をつく。


 インターホンを連打する。

 

 エデンがイラついた様子でドアを押し開けた。

「なんの用だよ」

 

 いおりがランドセルの中に手を突っ込み、パックに入った3本入りのみたらし串団子を出した。

 2割引のシールが貼られている。


「これ差し入れなんだけど」

 エデンが呆れる。

 

 ドアを片手で抑え付けて、

「入れ」

 

 いおりの目が見開く。

「え」

「それ、妹が好きなんだ」

「妹いたの?」

「うん」

 

 いおりは戸惑うが、同時にチャンスという単語が頭をかすめる。

「お邪魔しまーす」


 いおりが恐る恐る暗い廊下を踏む。ひんやりしている。

 エデンに引導されて、2階の階段をのぼる。

 白い扉が2つ並んでいる。

 奥の方の扉が開けられて、暗い部屋が白い明かりに染まる。


 女の子の部屋だった。


「妹さんの部屋?」

 いおりが中を覗き込んで言う。


「うん。こっち」

 

 エデンの立っているところに行く。

 正面にあるのは仏壇だった。

 可愛らしい女の子が白い歯を見せて笑っている。


「え、あ。もう」

 言葉に詰まる。


「あ、だんご」

 ランドセルを開けてエデンに渡す。

 

 すると、一本の串団子を抜き取る。

「一本だけもらう。お前も取れ」


「いいの?」


「お前のだろ。妹はだれかと食べるのが好きなんだ」


「そうなの。じゃあ、もらいます」

 

 いおりが一本剝がす。

 

 エデンは一本だけ残ったそれを妹の前に置く。


 各々団子を食べる。


 いおりは、写真を眺める。一個を食べ終えると口を開いた。

「何歳?」

 エデンが2個目をほっぺに寄せて、

「10さい」

 

 写真の方は幼い。小学校入る前の年齢に見える。

 エデンが視線を察する。

 

 妹の勉強机の引き出しを開ける。手にしたのはゲーム機でエデンが学校に持参しているのと同じだ。


 電源が入れられ、電子音が鳴る。

 カーソルの動く音。


 エデンがいおりの前面に掲げる。


「小5のときの妹の自撮り写真」


 妹がカエルのぬいぐるみをほっぺに寄せてピースしているツーショット写真。


 カメラの問題で画質は少し荒いが、見たことある顔だった。


 いおりの瞳孔が開く。

「エレンちゃん?」

「うん」


 エデンがゲーム機を握ったまま自分の方に向かせる。

「なんで名前知ってんの?」


「去年一緒に遊んだから。ドーマも一緒に」


「いつ?」

 エデンが食い気味に言った。

 

 いおりは圧倒する。

「6月くらい」

「妹はいつも帰りが遅かった」

 

 エデンが説明するように言う。

「今年の2月にいなくなった。いじめられてたんだ。学校で」


 いおりは思い出す。公園でもの憂いにベンチで座る少女。


「エレンとは夏休み明けて会えなくなった」


「どこで何して遊んでたの?」

 エデンが眼光を鋭くした。


 妹さんの相談にアドバイスをするドーマが思い浮かぶ。

「3人で公園を集合場所にして、『いじめっこ復讐劇~』を練ってた」


 「いじめっこ復讐劇?」

 「いじめっこに嫌がらせをするの。まあ警察沙汰にならない程度にね」

 エデンが顔をしかめる。


「結局どうなった?」


「失敗した。エレンが裏切った」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ