第4章②
朝、いおりはいつもの時間帯に教室を入ると、生徒3人組の鋭い視線が背中を突き刺した。
自分の椅子がなくなっている。
いおりは冷たい風に晒されたような心地になる。
クラスメートたちが注目する。
屈辱的で、冷や汗が背骨を伝う。
目を白黒にした。
昨日一緒に帰ったドーマの言葉が脳裡によぎる。
「そいつらがやったのさ。教科書の件も上履きの件も、ユカからいおりにターゲットが移ったんだ」
いおりは昼食のとき、3人組にからかわれたのを思い出して、腹が煮えたぎった。
引っかかっていたモヤモヤが確固たるものに変化する。
心臓の鼓動がうるさく頭を叩いた。
無意識に3人組の方を睨んだ。
3人は逃れようと目を逸らす。
一瞬、違ったらどうしようという考えが頭をよぎる。いおりはまだ冷静を残していた。
クラスメートたちの突き刺すような視線にハッとさせられる
椅子なら空き教室から借りられる。
どこからかそんな言い訳が聞こえてきた。
深呼吸する。空き教室から探そう。
思いのほかドアをぞんざいに開けてしまい、大きな音が鳴り響いた。
今ならよくわかる。ユカの気持ち。
ユカはクラスメートたちにいじめられても反撃しなかった。
怖いから。勇気を振り絞れないから。
いつもクラスメートたちに怒りを覚えた。なぜ見て見ぬふりをして助けないのか。
いおりは、よくわからない生き物を知ろうとして、ユカとつるむようになった。
だが、今度は自分が分からない。
まるで、糸のないツルツルの風船のようで、腕の中に収めようとしても、するりと飛んでいってしまう。
一人ではどうにかできない。
空き教室で自分の椅子が見つかった。
ドーマと一緒に帰ったとき、
「3人組を空き教室に呼んで、そこで問いただそう。俺も付き合うよ」
とドーマの言葉を思い出す。風船に糸が垂れる。
そう言ってくれて助かった。
いおりは糸を強く握った。
右手が痺れるほど丸くなる。
自分の椅子を運び、席についても、右手が閉じられたままだった。
自身の中に上手く収めるまで手放せなかった。