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初めて名前で呼んだ日
春の暖かな陽気が校庭を包み込む頃。
俺と詩織はいつもの屋上で、いつもの時間を過ごしていた。
「ねえ、神谷くん」
「ん?」
「私、あなたのことを“遼”って呼んでもいい?」
その言葉に心臓が跳ね上がる。
「え、えっと……あ、ああ、もちろんだよ」
詩織は少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「私、ずっと呼びたかったんだ。
神谷くんって呼ぶのは、なんだか遠く感じて」
その日から、詩織は俺を「遼」と呼び始めた。
それは、彼女の中で俺が特別な存在になった証だった。
俺もいつしか、詩織のことを「詩織」と呼ぶようになった。
お互いの名前で呼び合うことが、自然で嬉しいことだと感じていた。
「遼、ありがとう。これからも、よろしくね」
「こちらこそ、詩織」
二人の距離は、言葉以上に近づいていた。




