"恋愛"って、何ですか?
次の日の昼休み。
俺はいつものように屋上へ向かっていた。
だが、心なしか足が重い。昨日の氷室詩織の言葉が頭から離れない。
――「恋ってどういうものか、体験してみないと分からないでしょ?」
――「私が教えてあげる」
教えるって、どうやって教えるんだ?
まさか、恋の“レッスン”とか始まるのか?
屋上のドアを開けると、彼女はもうそこにいた。
昨日と同じベンチに座って、本を読んでいる。
「……来たわね」
「うん、来たよ。でも、正直まだよくわかってない」
彼女は顔を上げて、俺を見つめた。
「わからなくて当然。恋愛っていうのは、言葉で説明できるものじゃない。感じるものよ」
「感じるもの……?」
「例えば、胸がドキドキしたり、頭の中がぐちゃぐちゃになったり、時にはバカみたいに考えちゃったり」
「……それ、なんか厄介だな」
「そう。だから、ちゃんと教えないと。まずは“恋の気持ち”を知るところから」
詩織はゆっくり立ち上がり、俺の目の前に来て言った。
「今日のレッスンはこれよ。観察。」
「観察?」
「そう。私があなたのこと、じっくり観察してるから。あなたも自分を見つめ直して」
正直、意味がよくわからなかったけど、何か面白そうでもあった。
「わかった。やってみるよ」
その後、屋上での時間はいつもより静かに過ぎた。
俺は自分の胸の動きを、意識しながら詩織の隣に座った。
「ねぇ、神谷くん」
「うん?」
「次のレッスンは……デートの予定を組むことにしましょう」
「え?デートって……!?」
その日から、俺の恋の“レッスン”が始まった。