屋上で出会った才女
昼休みのチャイムが鳴り、教室がざわつき始めた。
「おい神谷、また屋上行くのか?」 「うん。人が少なくて静かだし、弁当がうまく感じるんだよ」
俺――神谷遼は高校2年。
どこにでもいる普通の男子だ。成績は中の上。運動もそこそこ。
ただ一つ、人とズレてるって言われることがある。
特に恋愛関係になると、「お前、そういうの鈍すぎ」ってよく言われる。
正直、何がそんなに面白いのか、俺にはさっぱり分からない。
──そんな俺が、その日、屋上で運命みたいな出会いをする。
ギィ、と屋上のドアを開けた瞬間、心地いい風とともに、ひんやりとした声が降ってきた。
「……また君?」
視線の先にいたのは、氷室詩織。
学校一の才女。成績は常に学年トップで、見た目も完璧、誰もが一目置く存在。
感情の読めない無表情で、男子とはまったく話さないことでも有名な人だ。
「え、あ……ごめん。先客がいるとは思わなかった」
「いいわ。別に気にしてないし、私の場所ってわけでもないから」
そう言って、彼女はベンチの端にちょこんと座り、読書の続きを始めた。
……本当に、俺のことはどうでもよさそうだ。
「ここ、座ってもいい?」
「ええ。静かにしてくれるなら」
それだけの会話で、俺は彼女の隣に腰を下ろした。
しばらく沈黙が続いた。
風の音とページをめくる音だけが耳に残る。妙に心地いい。
「……神谷くんって、彼女いないのよね?」
「ぶっ……!?」
口の中の味噌汁を危うく吹き出しかけた。
「え、え、なんで急に?」
「クラスでそんな話が出てたから。ちょっと、気になったの」
「い、いないよ。そういうの、よく分かんないし」
「ふうん……」
氷室さんは本を閉じて、こちらを見た。真っ直ぐな瞳で。
「じゃあ、私が教えてあげようか。恋愛ってやつ」
──一瞬、時間が止まった気がした。
「……は?」
「恋ってどういうものか、体験してみないと分からないでしょ?
なら、仮に私と“そういう関係”になってみるのも、悪くないと思うけど」
「いや、いやいやいや、待って。え? それって、どういう意味?」
「文字通りの意味よ」
彼女はふわりと立ち上がり、スカートの裾を整えて言った。
「じゃあ、また明日。ここで会いましょう、神谷くん」
そう言い残して、氷室さんは屋上から立ち去っていった。
俺は、食べかけの弁当を前にしばらく動けなかった。
──一体、何が起きたんだ……?
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