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ワールド=ルーン=マーリン(仮)  作者: 杉浦このは
Lというものですが
2/4

L(1)

やあ

キーンコーンカーンコーン、、、


一限目終了の鐘の音が鳴った。

-エルミアル=グレートウルフ-通称エルはため息をついた。それは今日が月曜日の一限目だったということでも、放課後の剣の稽古を憂いてのものでもなかった。それは、一限目の大賢者マーリンの逸話がくだらなすぎてのものであった。トロッコ問題を引き合いに出して、自分の行為を正当化しているただの作り話である。そう思った。ましてや、ナレーションまでクソのクソである。何が、魔法使いたちの死は無駄ではない!だ。魔法使いたちが殺される時点で、マーリンの能力で厄災を退けることができる確証はない。つまり、魔法使いたちは同意のもと、殺されたわけではない。なんとも胸糞悪い話であった。そう思っていると隣から声をかけられた。

「エル!!やっぱりマーリン様は崇高な考えの持ち主なんだね!僕は感動しちゃったよ!やっぱり才能のあるものが力をつけなければ、世界の危機には立ち向かえないんだよ!」

声をかけたのは、-エルス=クライン-通称エスであった。栗色の天然パーマのショタガキというのが僕の第一印象だ。僕はぎこちない笑顔で

「やっぱりそう思うよね!エスの言う通り、マーリン様は偉大だよ」と返した。

こういう反応はエスだけではない。周囲の反応は一概にそうだ。マーリンを崇拝する排他的な考え方。気持ちが悪い。第一、世界の危機ってなんだよ。厄災を世界の危機とするならば、伝承上、マーリンが存在した800年前以降起きていない。つまり、才能があるものが力をつけたとしても、それは全くの無意味。無駄。それにすら気づかない愚か者。そうエスたちは蔑まないではいられなかった。だがここで内心思っていることを吐露したら、自分の立場が悪くなる。ここで、本心を言うほどエルは正直で素直な性格ではなかった。

「エル!僕もマーリン様のようになりたいな!!」

「そうだね!僕も応援するよ」

全く無意味な会話である。ここまで、表面上の会話も珍しいのではないか。齢15歳でこのような世渡りを習得しているのだから、エルも大したものである。だが、エルにとって、この会話は大して苦となるものではなかった(まあ少しはストレスではあるのだけど)。なぜなら、子供の頃からこのような会話をしてきたからである。母親だってそうだった。父親は物心つかない頃に他界したため、わからないが、母親もマーリン信者である。母親はいつも口癖のようにこうエルに言い聞かせていた。

「私たちはマーリン様の血族。マーリン様は私たち貴族の憧れ。エルもマーリン様のようになりなさい。」

毎日、こう言われていた。だから、今更、マーリン信仰の話をされたとしても、苦痛に思わないのは当然である。しかし、母親の信仰深さにも辛酸を舐めさせられていたことも事実である。剣術も、マーリンが得意だったからと言うことで無理矢理習わされたし、当然魔術理論も習わされた。あ、もちろんマーリンが魔法を使ったと言うことは、魔術理論も完璧だったのだろうと言う推測で無理矢理習わされたのだ。クソである。これはかなりストレスであった。マーリンの話を聞く分には別にいい。人の言葉というものは、左耳から右耳へ流れて消えていくものだから。しかし子供は自分の願望を叶えるための道具ではない。自由に生きさせてほしい。そう思った。だが、僕は耐えている。おとなしく大人の玩具となっている。それは、世渡りとは関係なく、親への愛情というか、好きでも嫌いでもないが、いなくなると困るという想いというか、おそらく生物学的な本能のような、複雑な感情に起因していると思う。

「エル!そういえば今日の二限目は実習だったよね!マーリン学実習とかいう、、一体何をするんだろうね!」

やっとまともな会話である。いや、あの大賢者に名前が会話に入っている時点で嫌なのだが、胸糞悪い伝承を讃える会話から抜け出せたのは、よかったと言えよう。

「いやー、僕も全然わかんないんよ。何をするんだろうね。」

空返事である。だが、顔に貼り付けた笑顔をここまで崩さないのは、エルミアル=グレートウルフなかなかの役者である。そうすると隣から甲高い声で声をかけられた。

「ええ、聞いてないんですの?グレートウルフとクラインの御坊ちゃまには情報が行き届いていないらしいですわね?子供だからかしら?」

そういうのは-アリシア=キンダーガーデン-普通にアリシア。赤色の髪が特徴で二重バッチリ瞼の美人。だが性格は悪いらしい。ちなみにグレートウルフ、クライン、キンダーガーデンというのは家名であり、家名のある貴族は7つある。グレートウルフ、クライン、キンダーガーデン、デッド、シーサイド、ヴァーキン、アリスバーンこれらを含めて7家紋と表すことが多い。家名のある貴族は全員マーリンの子孫だとかなんとか。そういえば、この王立学校に集められているのは、家紋持ちばかりのような、、

「アリシア、教えてよ。もったいぶらないで教えてよ。」

そう言ったのはエス。いいぞ。なかなかのショタ顔をしている。アリシアがショタ好きだったら一発で落ちるだろう。

「え、エルス君。そ、そんな近づかないでくれるかしら。ちょっと、、話しづらいというか、」

おっと?これは、、

と思っていたら教室に拡声魔法による校内放送が響き渡った。

「2限目マーリン学実習のあるものは地下の実習室に集まること、2限目マーリン学実習のあるものは地下の実習室に集まること」

放送が終わるとアリシアが咳払いをして言った。

「え、エルス君。今からわかることよ。今いうことじゃない。そう今いうことじゃないのよ!」

エスは口を尖らせて「けちー!!」と無邪気にベロを出した。

エルはそのとき、アリシアが「だって、今言ったら、、あなたたちが、、、」と言ったのを聞き逃さなかった。


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