消えた焔
「……、」
沈黙が辺りを包み込む。司としての自分なんてもう価値も何もありゃしないと自負しているからこそ、そうなってしまうと言葉の紡ぎ方が分からない。えと、あの、と言葉を探している娘に対して、俺は何が出来る?何を与えてやれるってんだ?
「早く、寝ろ。」
「そん、」
「おまえのそれは幻想だ。司はおまえの思うような人間じゃない。」
「だって、そんなのわかんない…ッ、」
「おら、こっちは客だぞ。出てけよ、早く。仕事の邪魔。」
ついには尖ったナイフしか向けることの出来ない、臆病な自分。言葉を見失った娘は、しゅんと肩を落として静かに部屋を後にした。
「……、終わらせるか。そろそろ。」
潮時だろう。自分には、あの少女に向けた感情を、ありとあらゆる形で表して残すしか術を持たない。だが、現世で交わってしまっては、もうそこまでだ。少女は娘となり、自身は司となる。そこに文章は生まれない。残る頁を埋めるように筆を進めていくと、存外さらさらと終わりは見えてきた。
そう、終わらせる。
何も、かもを。
「え?」
「だから、今朝早く発たれたから、部屋片づけておいて。」
「うそ、でしょ……?」
母の言葉に愕然とする。穂村は今朝早くこの下宿を出ていったのだと。言葉はうまく反芻されず、不協和音として脳裏をぐしゃぐしゃにしてくる。
私が、想いを伝えたから?
だから、邪魔になった?鬱陶しくなった?ぞわぞわと嫌な汗をかきながらも、回答が見当たらずに思わず涙が出た。ぽたり。落ちた先には何もない。宥めるどころか、罵倒の言葉さえとんでこない。そう、だって彼はもういないのだから。