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シノブのできること

思ったより評判が良かったので連載開始します。

よろしくお願いします。

 空の高いところを鳥が飛んでいく。

 気候でいえば春だろうかとルビに問うと、この辺りに四季という概念はなく、ずーっと過ごしやすく代わりに雨季と乾季があるのだそう。今は年初めの雨季が終わったあとで、種まきの真っ最中なのだとか。


「忙しい時に、なんかゴメンね」


「何言ってるのサ。家族も、友達も、家も、仕事も、みーんな無くして。一番大変なのシノブの方にゃ」


 なんか良いことないと不公平にゃ、とシノブの代わりにプリプリ怒ってくれていた。


「私にできることがあればいいんだけどなー」


 なんといってもつい先日まで100人以上の部下やアルバイトたちの面倒を見ていた身、世話になることにどうも居心地の悪さを感じてしまう。


「村長も言ってたでしょ? のんびり構えて慣れていけばいいのにゃ」


 ルビに連れられて、先ほど村長に挨拶をしてきたところ。羊族の村長はシノブの体調などを気遣い、しばらくの足しにと小麦粉を一袋分けてくれた。


「でもにゃー、小麦って手間がかかるから苦手なんだよね」


「普段はどうやって食べてるの?」


「とりあえず、油と塩と水でこねて集会場の共同窯で焼くのが多いかにゃ」


 いわゆるナンみたいな物が主流のようである。


「パンとかは?」


「あー、パンかー。なんか腐った果物の汁入れたりするのがどーも苦手でさー」


 確かにドライイーストなどないこの世界では果物酵母を使わなければならないし、確かに発酵している様子は明らかに腐っているように見える。食中毒などが直接命を落とす危険をはらんでいるから、そう考えるとギャンブルであった。


「よし、美味しいパンを作ろう」


「お、おー」


 あまり乗り気でないルビをしり目に、思い立ったら行動は早い。酵母は近所に住む同じく猫族のご家族から小麦粉をいくらか渡して手に入れた。


「うむ」


 キッチンに材料が一通り並ぶのを見て満足げにうなずく。


「ここから面倒なんだにゃー」


「美味しい物を食べるのに苦労を惜しんではいけないぞ」


 ルビの経験上、パンという物はそれほど美味しい物ではないのだが、シノブがあまりに生き生きとしているのでその感想を口にはしにくかった。納得のいくまでやらせてあげよう、という優しさ。


「で、どうやって作るのかにゃ?」


「ざっくり説明するとね、まず、小麦と果実の汁と砂糖、塩を混ぜてお湯を入れてこねまーす。で、かまどの近くで倍に膨らむまで待つの。何等分かして濡れ布巾をかけてテーブルで休ませるー。で、形を整えてもっかいかまど近くで温めてー」


「ひゃー。覚えられんにゃー」


「もう一度、テーブルで休ませながら『美味しくなーれ』っておまじないをするの」


 その時ルビは食材たちが温かい光に包まれるのを見た。背中を向けているシノブは気づいていないようだがたしかに光っている!?


「シ、シノブ?」


「パン窯で焼いたら、美味しいパンの出来上がり!」


 テーブルの上が目を開けていられないほどの光に包まれる。


「な、何!?」


「にゃー!」


 恐る恐る目を開けてみると顔ほどの大きさのパンが4つ、湯気を立てながら鎮座していた。


「凄ーい! 作り方を言うだけで出来上がるのね! 便利な世界だわ!」


 歓声を上げるシノブに、


「そんな訳あるか! これはシノブの魔法か何かの力にゃ。……ひょっとして神様の使いか何かですか?」


「変にかしこまらないでよ。へー、これ、私の力? あぁ、なるほど、そうかも……ね……」


 急に意識が遠のいてその場に倒れこんでしまった。間一髪、ルビが抱きかかえる。


「こりゃー、とんでもないお客さんが来てしまったみたいだにゃー」

 

 テーブルのつやつやと輝く湯気立つ見たこともないようなパンからシノブに視線を移し、やれやれというため息をついた。 

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