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異種族ネゴシエーターのお仕事  作者: らにのちてち
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異種族さんの村

思ったより、簡単にみつかった。結構覚悟したんだけれども、あっさり見つかってしまった。…うん、まあよかった。


先んじて調査を行った連中からは、今回ある程度立場がある私が、この山に名目上ではあるが再調査に行くと聞いて内心面白くなかった者もいたらしい。我々が十二分に調査を行った場所に再度調査に出るとは、まったくもって資金の無駄遣いであるとか何とか。


まあ、これで成果の出ようものなら彼らの評価にかかわるとかそんなことを思っているのだろう。

とはいえ、今回の私の職務とそれにかかわる結果が周知されることはない。向こう十年は公表など無理だろう。どちらにせよ彼らの評価に響くことはない。


私がなぜまたここを調査するのか疑問を持っているものはいるだろうが、そこら辺の対処は…面倒くさいから部下にやっといてもらえばいい。部下にしっかりと仕事を回すのも上司の役目だろう。うん。


僻地でフィールドワークを行っているのだから、内部事情まで相手にしている余裕はない。体力もない。


なにはともあれ、村は見つかった。光による錯覚を用いた目隠し。よくできている。グラスを外してみると、村の姿はない。というか地面すらない。足がすくむような高い、高い崖が映っている。

なるほど、理にかなっている。こんな崖なら、これ以上先に人間は立ち入れない。先人が見つけられないのも無理はないな。


再度グラスを装着すると、崖は消え、石積みの家が数件点在している村がしっかりと視認できる。

彼女の作った道具の効果と、彼らの使う超常の効果も証明されたというわけだ。


村だなぁ、うん。いやぁ本当にあったよ。まぁなかったら仕事にならないし、見つかったのはいいことだ。

でも、あれはなぁ。村というより、集落…いやもっと言えば廃村って感じだ。


この山頂の村はわずかに高山植物が点在するだけで、あとはほとんどが岩場で、なんというか生気を感じない。


戦後、廃墟になった街にも、こんな雰囲気が漂っていた。

生き物の気配が極端に薄い。

活気が根こそぎ流れ去って、静かに潰えようとしている街の気配だ。


「これから交渉に入る相手の住処をそんな風に考えているのは、うん、よくないな。」


とりあえず、行こうかな。

まだ少し歩かなければいけない。村に囲いはないが、道は何となくある。

村への出入りは割と多いのだろう。若干ではあるが、ならされている場所がある。


ここまでの岩場と比べればずいぶんと歩きやすい。



何物にも遮られず、自由に吹きすさぶ風と、砂利道を踏みしめる自分の足音だけが鮮明に聞こえる。

蓄積された疲労と痛みで足取りが遅くなりそうなとこを、ぐっと耐えて、きびきびと歩く。

私の視界には確かに村が見えている。向こうもきっと私を見ている。侮られる要素は少しでも減らさなくてはならない。


もっとも、山の変動を見るに、最初から何らかの手段で察知されていた可能性は高い。

いまさら、かもしれない。


建物のなかの様子まで見える距離に差し掛かったとき、とうとう私は出会った。



耳は長くとんがっている。人間のそれとは大きく異なる。

光を反射するその金髪は長く美しい。種族独自と思われ特殊な文様の服を身に着けた女。

だがそれらの感想よりも先に一つの感想が脳を埋め尽くした。


「でっっか」


背丈は2mを優に越えるだろう。じっとこちらをうかがう青い双眸は、距離が近くなるにつれて私を見下ろし、眼前に相対すれば、私の視界から外れてしまうだろう。


これまで争い、交流してきたあまたの人間のどれとも違う特異性。心に感じた僅かな恐怖は、その女が片手に携えたものを見てぐんと膨らんだ。


その女は、おそらく同族であろうものの腹をがっしりとつかんで持っている。

ぐったりとして動かないその人物は、女と比較すれば小柄だが、それでも人間では長身だろう。片手に持った槍は地面に線を引いているだけで本来の役割を果たせるようには思えない。



…こわぁ。これじゃまんま蛮族だ。

交渉できるのかな、私。


「おい、お前はどうやって、何をしに、ここに来た。」



しゃべれんのかい。

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