山頂の村捜索
痛いなあ。足。
さんざ歩かされたというのもあるけれど、普段使わない体の使い方をしたためか変なところが痛い。結構時間かけてストレッチしたんだがなぁ。つらい。ほんと年を取るってのはやだね。五年前ならこのくらいの運動で体いためたりしなかったのになぁ。
まあ戦後は事務仕事ばっかりで訓練には参加してなかったもんな。しょうがないしょうがない。
…数日でひどい筋肉痛になるだろうなぁ。いやだなぁ。
さて、なんとか山頂部には来れた。足元に茂っていた多肉植物も、日を遮っていた巨木も周囲にはない。事前に観察した通り、高山植物が点在する岩場だ。植生は一般的なものだ。走り回る植物がいるとか鼻で歩く生き物が大繁殖しているとかそういうことはないようだ。霧が濃いとか地面からガスが噴出しているとかそういうこともない。先遣した調査部隊が村の発見に至らなかったのは別の要因があるのだろう。
山登りのほうは想定外だったが、村が見つからないことに関しては、予想も対策案も用意できている。
もちろん私の発案ではない。とても優秀な部下の発案である。
「山の植生というのはもちろん標高や気候などの環境によって左右されます。今回先輩が調査、いえ訪問される山の山頂部には高山植物が繁殖しているようですが、近しい環境、標高の山を調査したところ高山植物は発見されませんでした。
つまり山頂の環境は自然発生したものではなく、何らかの超常的な要因があるものと考えます。私はこの現象が意図的なものであると考えています。つまり村を隠すために高山植物がなければならない。いえ、自然に植生する木々ではいけない理由があると考えました。
先輩は何だと思いますか?わかりませんか?そうですかぁ。わからないですかぁ。では教えてあげましょう。いえまってください。今回の調査私も連れて行ってくれませんか?わからないんですよね?私も行ったほうがいいに決まってますよね。そうですよね?え?ダメ?何でですかいいじゃないですか。おねがいしますよぉ」
なかなか教えてくれなったから本当に大変だった。重要度の高い仕事こそ、複数名で臨むべきというなかなか論破しにくい提言も駆使してきたので本当に大変だった。まあ今にして思えば、振り切って本当によかった。上司と何日も一緒に仕事なんてまじで苦痛だろうからね。野営とかもあったし、軍部上がりでない人間にはつらいことも多いだろうから。今後も連れて行かないほうがいいだろう。
さて、彼女の予想が当たっているかどうか。間違っていたとしても、仕方がないことではある。何しろ未知の領域というものだ。対策が通じなかったらまあ、しらみつぶしかなぁ。いやだなぁ。何日かかるんだろうなぁ。見つけるまで帰れないからなぁ。
「さて皆々様ご照覧あれっと。これこそは我が優秀な部下によって作られた幻覚つぶし。その名も偏光調整グラスである。」
いやぁほんと部下の技術力の高さ、考察力には驚かされるばかりだ。
「高山植物というのは丈が低いものが多いです。そうです。丈が低いことが重要なのではないでしょうか。道中の木々は非常に大きく、日差しをほとんど遮ってしまっています。
単純に村を隠すというのならば、あれらの大きな木によって隠すほうが簡単です。あの太さならば樹上にも住めるでしょうから。そうやって暮らしていれば、気球に見つかることもなかったでしょう。
でも山頂で、わざわざ低い植物に囲われて暮らしています。なぜか。おそらく、村を隠すのに光を用いているものとおもわれます。光の屈折を利用した目隠しではないかと予想しました。
そこで、こちらを開発いたしました。光チョンまげグラス君ですっ!
いろいろなパターンの屈折現象に対応可能なように、しておりまして側面のダイアルを調整してもらって、屈折率を合わせれば、隠された村もきっと発見できますっ!
ただ細かい調整は実際に現地で行ったほうがいいと思うので、技術者を連れていくのをお勧めしますっ!
いえいえ私にしかわからない部分も多いと思うのでぜひわたしも、あっ待ってください。ちょっ先輩っ!」
さて、どうだろう。実際に使ってみると問題点もあるな。見えないものを見つけるのは難しい。しかもこのグラスは実際に効力が確認されたものではないわけで、使用中に調査した場所で発見が何もないとして、本当に何もないと証明する手段がないのだ。
「結局これあれか、しらみつぶしか。」
とりあえず、グラスを使用した状態でしらみつぶしを行って、何も見つからなければ、ほかの手段を講じて…しらみつぶし。
足、痛いなぁ。