山頂の異種族さん
「フランさんっ!よろしいでしょうか!」
どんどんと戸がたたかれる。ちょうど昼食を食べ終え、ゆったりとお茶を楽しんでいたところだった。至福の時間というものだ。そこにこうも想像しことをされるというのは、いくら生きてきてもイライラするものだ。
まあ私の性格故かもしれないが。
「フランさん。フランさんっ。」
戸を叩く音が大きくなる。うるせぇな全く。何だってんだ。こんな真昼間から狼が来るわけもなし、騒ぐほどのこともそうないだろうに。
...それはつまり緊急性が高いということか?ああ全く、こんな年になってまで新発見やら驚きやらはいらないんだがなぁ。
「フランさんっ!」
「ああもう、うるっさいよ!」
ガシャン!
思わず放り投げてしまったカップが壁に当たって砕けた。
お気に入りだったのに...
「どうしたんだ、こんな真昼間から。くだらない用だったら承知しねぇぞ。」
扉を開けると、村の門番をしているリグが汗だくで立っていた。いつものように革製の防具を身に着け、お気に入りの槍を携えている。
だが、汗だくなこと以外に異常は見受けられない。防具にも槍にも血は付着していない。どうやら狼ではないようだな。
だが、顔色が悪い。焦りもあるがどうにもおびえているように見える。
まあこいつはまだまだ若いからな。肝が据わっていないのだ。
「フランさん。来てくれ。っは、早く。侵入者だ。人間が来たんだっ。早く来てっ。」
...はあ、まったく。これだから若い連中というのは困る。たかが人間ごときにこんなにおびえているのか。あの生き物はいくらでも増える。どこにでもいるものだ。どこにでもいて、どこにでも来る。アリや鳥と大差はない。数ある生き物の一つだ。
ただまあ、厄介な生き物であるのは確かだ。あいつらは争いが大好きだ。同種同士でやたら滅多殺しあう。それも周囲の生き物、環境をいくらでも巻き込んで殺しあう。
あの生き物の存在範囲が広がった為に、我々は山を住処にせざるをえなかったともいえるだろう。全く迷惑極まりない生き物だ。だが、恐れる対象ではない。恐れる対象では断じてないのだ。我々は種族として、生物として山と相性がいい。故にこそ山にあって我々は人間を恐れることはない。
というか。そもここにはたどり着けないように、私が力を行使しているのだ。山に入ったとて、ここには来れない。もっとも人間が空にすら現れ始めたときは、あの生き物はどこなら現れないのかと気色悪くも思ったが、それだって対応した。人間は数こそ多いが、我々のような力を持つものは、少ない、何ならあの生き物はそういう力を持ったものを率先して殺していた。ほんとに意味が分からない。
「フ、フランさんっ。聞いてますかっ。フランさん!てっ痛い!」
あんまり声がでかいから、思わず殴ってしまった。リグはうずくまって頭を押さえている。あはは悶絶している。そんなに力を込めて殴ってないだろうまったく。
「うるっさいなっ!聞いてるよっ!お前がぎゃんぎゃん騒ぐから、カップは割れるし、手も痛くなっちまっただろうが!」
ああ、ほんと。お気に入りだったのに。悲しい。悲しいなぁ。くそぉ...
「ぐううう。この馬鹿力め...どっちも自分のせいだろそれ…ッてそんなこと言ってる場合じゃないんだよっ!フランさん」
「何度も言わせんなっ!人間ぐらいでギャーギャー騒ぐんじゃないっ!どうせここまではこねえ!ほっとけばあきらめて帰るんだからほっとけ!」
ほんと若い連中は度胸がないというか、細かいというか。なんでもかんでもそんなウサギみたいにおびえてたら生きずらくってしょうがねえだろうに。ああもうなんでこんな精神の未熟なやつが門番なんだ。人選ミスったなほんと。細かいこと気にする奴には畑で草取りでもさせときゃよかった。
「いま初めていったろそれ…くそっまだくらくらする。ああもう…気が抜けちまった。でも緊急事態なんだよフランさん。その、人間がよ、山、登れてるんだよ。もうすぐ村にたどり着いちまうんだよ。」
「あ??」