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異種族ネゴシエーターのお仕事  作者: らにのちてち
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新しい仕事

鉄道というのは、こんなにも眠気を誘うものだっただろうか。

首都に活動拠点を置かせてもらう前は、片田舎から小一時間、鉄道に揺られる日々だった。あの頃は、いつでも時間が足りなかったから、鉄道内では基本的に書類とにらめっこをしていたし、考えることが多すぎて眠気を催す暇もなかった。


立て続いた戦争による国内情勢の乱れ。先の戦争で勝利した我が国は、多くのものを得たが、同時に多くの問題を抱えた。かろうじて戦火にさらされなった首都を除く、主要都市に対する復興措置。湾岸地域にあふれた難民と地域住民の軋轢による対立。帝国政府に対する執拗なバッシングと敵対国工作員によるテロ行為。問題は立て続いて起こるのに、対処する人員はいない。


大きな問題が解決し、国の展望を見据えることができるようになると、今度は帝国政府内で多くの対立構造が生まれてしまった。国家維持のために存在する各所機関のつなぎ役。


それが私に与えられた次の職務だった。立て直しの裏で、首都外の主要都市ではそれぞれの勢力がまるで自身の領土であるかの如く政策を行った。首都にまとまってくれていれば仕事もやりやすかったというのに、妙な対立の仕方をするせいであっちこっちに引っ張りだこだった。


まあ、おかげで私のような出自を隠した胡散臭い人間が各所にパイプを持つことができたし、首都に拠点を置かせていただけた。そのせいで面倒ごとが増えたのは確かだが。

だが、やることが多いというのは私のような人間にはよかった。休ませてやれと、仕事の多さ故に同情されることもあったが、いろいろと思いつめてしまう時間もなかった。


諸々の問題が解消されたころに、忙しい立場から解放された。

大きな問題が解消されたとはいえ、細かな問題はいくらでもあった。それでも私を異動させたのはおそらく今の職務につかせるための前準備もあったのだろう。窓際どころか建物外。一切の派閥からの隔離、存在を隠すというか、存在を消すかのような異動だった。


とはいえ閑職というわけでもなかった。それなりにやることはあった。充実した仕事環境とは言えなかったが、経験を生かしてうまくやっていたつもりだ。


だが今は、眠い。あまりにも眠すぎる。

考えることはたくさんある。方策の見つかっていない問題だらけだ。だが、一般的な常識の中で生きていた私にとって、この業務はあまりにも、あまりにも常識外というか、何から手を付ければいいのやら。マニュアルが欲しい。切実に。


鉄道の程よい揺れと、何時間も代り映えのない山々が見える車窓。時折トンネルに入ると、窓には眠そうな中年男。以前はずっとあった目の下のくまは今はない。うわ髭伸びてるな。剃らないと。

もういっそ夢の世界に逃げ込んでしまいたい。などと考えてしまうのも致し方ないというものだ。


新しく賜った役職はネゴシエーター。交渉人。

だが相手は、国家でも、国内派閥の権力者でもない。というか、ほんといまだに信じられていないのだが。

どうやら私の新しい仕事相手は、


人間ではないそうだ。

 

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