1-5 ♂ オンナノコになっちゃった⁉ ♀
「な、な、な……! なんで俺が、〝女〟になってるんだよーーーーーーーーーっ!!」
俺の魂の叫び(かわいい)が周囲に響き渡った。
気づけば外はもとの日中の明るさに戻っていて、蝉も自慢の美声をこれでもかと響かせている。
「なななななんなんだよ! こ、これが……俺……?」
俺はあらためて鏡の中に映る自分の姿に目をやる。
目をやって――息をのむ。
「……っ!」
やはり間違いない。
どこからどう見ても美少女だ。
背は愛音よりも低く小柄だが、それでいて出るところは出ている恵体。
光り輝く黒髪は耳の後ろあたりでリボンで2つに結ばれていて、そのままゆるくウェーブがかって膝元にまで落ちている。服装はフリルがほどこされたふわふわとしたワンピース(でいいんだよな……?)だが、一目ではどういう構造になっているのか分からない。とてもじゃないが自分ひとりじゃ着られなさそうだし、実際に着た覚えもなかった。
この女(とはいえ俺なのだが)の趣味なのだろうか、いたるところにリボンをモチーフにした装飾品がついている。
「……はっ!」
俺の意識が一瞬飛んでいた。
なぜかって?
鏡の中の少女に。
つまりは今の自分に――見惚れてしまっていたからだ。
「うー……本当に、俺、なのか……?」
確かに俺の面影は……なくはない。
黒髪だし。つんとしたつり目だし。困ったような下がり眉だし。(いや、今実際に俺は困り果てているのだが)
しかし、それらの顔のパーツには――
少女の存在を。魅力を。
より引き立てるためのメイクがほどこされていた。
その結果。
鏡の中で〝女の子〟として完成された少女は。
とてつもなく――
「か、かわ――」
「かーーーわーーーいいいぃぃぃぃっ‼」
「おあっ⁉」
つぶやきかけたところを、より大きな声でかき消された。
愛音だ。
「か、か、か……かわいいようっ! ほんとにみーくん? わー、かわいすぎるよーーーーーーっ‼」
愛音はその場で飛び跳ねながら、目をらんらんと輝かせている。
そして途中で我慢しきれなくなったように――
「おあっ⁉ な、なにするんだよっ!」
俺に向かって抱きついてきた。
「やっ! やめ、ろっ……!」
振り払おうとするが自分の身体のバランスが変わっていて。
なにより思ったように足に力が入らず、俺はその場にしゃがみこんでしまった。女の子座りで。
「きゃー、なんなのこの生き物……! ぎゅってしてあげたいよーっ」
愛音は目を♡型にしながら、俺の頬やら髪やらにすり寄るのを止めない。
「みーくん、女の子になっちゃったの?」
「は? ……はああ⁉」
言葉で表すのは簡単だ。
このあり得ない現実を。巻き起こった事実を。
端的に表すならそういうことになる。俺が女の子になった。
だけど――
「そんなオカルト、あるわけないだろっ!」
そうだ。ありえない。だからこれは……壮大なドッキリの可能性がある。
さっき倒れて意識を失っている間に、俺のことを着替えさせ、特殊なメイクを施し、俺の見た目を女の子に変えてしまった。声はボイスチェンジャーだ。
随分と大がかりに思えるが、たとえば悪戯好きで家も金持ちな龍斗が仕掛け人であればありうる。
「こんなに可愛いのに――えへ。みーくんは女の子になっちゃったんだよ」
愛音がなぜか諭すように言う。
「うー……ちがう! 俺は男だ!」
いわばこれは、よくできすぎた女装だ。
なにか確かめる手段はないだろうか? 俺が本当は〝男〟だという証拠に足り得るもの――
髪の毛を引っ張ってみる。痛い。ウィッグは地肌にまで絡んでいるのだろうか。
肌を撫でてみる。程よく脂肪がついて柔らかく、なめらかだ。最近の特殊メイク技術はここまで進んだのか。
「……あ」
そして。
俺の視界に、とある膨らみが飛び込んできた。
男であるならばついているワケもない――そのふたつの膨らみ。
俺はごくりと唾を飲み込んで。
その女の象徴に――手を伸ばす。
「…………⁉」
ふにゅり。
服の上からだと意外にカサカサした触り心地だったが……。
その服の下には間違いなく〝豊満で柔らかなふたつの膨らみ〟が存在している。
「……あるっ……」
俺は慌てて首を振った。
いや、違う。そんなわけがない。俺は男だ。ついているわけがない。
これだってきっと特殊メイクの賜物であろう。まったく龍斗のやつ、どこまで手が込んでやがるんだ。
「あ……そうだ」
ふとそこで思い立つ。
そうだ。なにもこんなにちまちましたことで確かめるよりも。
――〝ずっと簡単な方法〟があるじゃないか。
自分が〝男か女か〟を知る極めてシンプルな方法。
いくら特殊メイクだろうが、誤魔化しようがない決定的な方法。
「ふ、はは……ツメが甘かったな。最初からここを確かめれば一発で分かったんだ。これがドッキリかどうかなんて」
いくら手のこんだ女装だろうと、ここにある存在だけは特別だ。
「恥ずかしくて見られないだろうと思ってたんなら生憎様だぜ。自分のなんだから恥ずかしいもくそもないさ」
俺はそう言って、一応は幼馴染ふたりの視線を気にして背を向けると。
前にかがんで。
ふりふりとしたスカートの裾を掴んで。
ゆっくりと。ゆっくりと。
たくしあげていった。
「……ん?」
前傾姿勢になる。頭で覗き込むようにする。
やがて視線の先に滑らかな生地の布が見えた。ピンク色をしている。
刺繍がほどこされ、ここにもリボンがついている。
ふむ。パンツだ。女性ものの。
「ったく、こんなところまでこだわりやがって……」
さらにその先へと視点を進める。
薄ピンク色の可愛らしい下着。
しかし――見えたのはそれだけだ。
他にはなにもない。
十数年間見慣れたモノが。膨らみが――見当たらない。
「……んん????」
スカートを持ち上げきると、股の間をひややかな風が抜けた。
――いや。まさか。そんな。
全身を嫌な予感が貫く。
汗が額に滲んでくる。
心臓が高く強く打っていく。
そして俺は。
意を決して。
――パンツの上から、自分のものを触った。
「……っ⁉」
そして。
俺はぱさりと、スカートを下に落とした。
身体が硬直する。思考が硬直する。
乱れる呼吸をどうにか落ち着かせて。
全身から冷や汗をダラダラと垂らして。
ひくひくと目と口を引きつらせて。
俺はゆっくりと。
ゆっくりと。
経過を見守ってくれていた、幼馴染ふたりのことを振りかえり――
涙ながらの声で。
言った。
「……な、ないぃぃ……!」
こうして俺は。
自分が正真正銘の〝女の子〟に変わってしまったことを――
どうしようもなく身体で理解したのだった。
女の子になっちゃいました(にっこり)
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