3-10 ♂ 真夜中のキミを探して ♀
龍斗の姿はどこにも見あたらなかった。
学校は遅刻しているという話だったが……あらためて龍斗のクラスに行ってみると、席は変わらず空白のままだった。『今日は休みみたいだよ?』と隣の席のやつが言った。
「龍斗、龍斗……っ!」
俺は午後の授業を適当な理由をつけて早退して、龍斗の家へと急いだ。
玄関でチャイムを鳴らす。出ない。
ふたたび鳴らす。反応はない。
家のまわりをぐるぐと回ってみたが、中に人がいる気配もなさそうだった。
「どこ行っちゃったんだよ……⁉」
普段は欠席どころか遅刻ひとつしない龍斗が学校を休んだ。
それだけで相当に特別なことだ。
家にもいない。連絡もつかない。どこかに消えてしまった。
その理由はきっと、どうしたって――
「俺のせい……だよな」
昨日。
俺の部屋で開かれたサプライズの誕生日会で。
龍斗についていた〝嘘〟が白日のもとにさらされた。
その時、俺は愛音を追って出ていってしまったけれど……。
残された龍斗は驚いたように、あるいはひどく哀しそうに。
大きく目を見開いていたのを覚えてる。
そして帰ってきたら――部屋には龍斗はいなかった。
「……ごめん、龍斗。帰ってきて、くれ……」
龍斗がいそうなところはひととおり探した。
一緒によく遊んでいた場所――カラオケ、ショッピングモール、商店街、カフェ、ゲームセンター、ファミレス。
例の離れ山にある秘密基地にも行ってみた。
けれど。どこにも。
彼の姿はなかった。
「うう……。龍斗……会い、たい」
気づけば夕方になっていた。
太陽はいつかと同じように地平線に沈もうとしている。
その紅い夕暮れの中で、俺は龍斗と日課をした。
それを愛音に見られた。そこからすべてがおかしくなった。
「ぐっ……お前に、言わなきゃいけないことが、あるんだ……」
声には嗚咽が混じる。目頭がじいんと痺れてくる。脚はもうくたくただ。
「……痛っ」
ローファーで駆けずり回ったせいで、かかとには靴擦れができていた。
コスメポーチの中にいれていた絆創膏を取り出して貼ってやる。
髪は途中で動きやすいように、間に合わせの髪留めで頭上にまとめた。
汗で制服の下のキャミソールがべったりと肌にはりついている。
「龍斗、一体どこに――あ」
そこでひとつ。
思いあたった。
「……っ!」
俺はその場所に向かって駆け出す。
龍斗と例の〝日課〟をしていた公園だ。
♡ ♡ ♡
「龍斗っ……!」
公園についた俺は、最後ののぞみをかけるように周囲を探した。
しかし彼の姿は見当たらない。
「……いない」
途方に暮れてベンチに座る。
周囲はいつの間にか随分と暗くなっていた。
外灯がじりりと音をたてて順番に灯りはじめる。
あたりがどこか無機質な光に照らされる。
いつのまにか蝉の声は消えていて、かわりに夜の虫が鳴きはじめていた。
最初は遠慮がちに。やがて街の人混みのようにざわめいていく。
「……龍、斗」
スカートの上に置いた拳は無意識のうちに震えている。
手の甲にぽたりと雫が落ちた。俺の涙だった。
指の背で目尻をぬぐってやる。細い支柱の時計台を見る。
もうすぐ日課の時間だった。
「あ――そうだ。日課だ」
俺は龍斗と〝毎日の約束〟をしたんだ。
もしかしたら今日だって。本当は昨日のことなんて関係なしに、なにか別の理由があって休んだだけかもしれない。
そんなふうに都合の良い考えが疲弊した頭の中にどんどん浮かんでくる。
「時間になったら、きっと――」
俺は電池の切れかけた玩具の人形みたいな足取りでベンチに座って。
龍斗のことを待つことにした。
「…………」
だんだんと夜の空気は密度を増していく。
いろいろな人が公園を通り過ぎていく。その数は次第に少なくなっていく。
ふと空を見上げた。今夜は雲はなく、星たちが忙しそうにまたたいていた。
「りゅう、と……」
祈るように俺はつぶやく。
(大丈夫、きっと、龍斗なら――)
だけど。約束の時間になっても。
龍斗が姿を現すことはなかった。