2-3 ♂ プールサイド・キッス ♀
「ま、まずいっ――!」
ペンダントに淫力が溜まりきって、まさしく光が爆発する瞬間。
俺は必死に思考を振り絞って――プールの中へと飛び込んだ。
『『みなたちゃんっ⁉』』
周囲の女子たちが叫んだ。
「みーくん!」
向こうサイドにいた愛音は、肩にかけていたバスタオルを放り投げてくれた。
刹那遅れて溢れ出したピンク色の光が、俺を包み込んでいく。
(う、くそ……カラダが……!)
水中でも容赦なく俺の姿は変わっていった。
髪の毛は鮮やかな桜色へと染まり、頭からは渦を巻くような角。背中には蝙蝠のような黒い羽根。艶めく尻尾が独立した生き物のように伸びていって――ほどなく〝サキュバス化〟が完了した。
(く、ううう……こんなカラダ、みんなに見られるわけには……!)
しかし息はもう限界だ。口からはごぼごぼと水泡がこぼれていく。
――みーくん……!
諦めかけた瞬間、俺の名前を呼ぶ声とともに身体を支えてくれる存在があった。愛音だ。彼女は水面に漂ったバスタオルを掴むと、俺の頭に被せるようにしてから、上半身を水面に引き上げてくれた。
「……っ! はぁっ! はあっ……!」
俺は肩を上下させて息をする。気管に水が入って咳き込んだ。
『おい、大丈夫か……?』と教師を含め、まわりに人が寄ってきていた。
愛音はうまく俺の身体をタオルで隠しながら、品行方正な態度で言ってくれた。
「やっぱりこの子、今日調子悪いみたいで。すこし休ませてきますね」
♡ ♡ ♡
場所はプール脇の建物にある更衣室に移った。
俺はベンチの上に横になって寝かされている。
「……はあ、はあ……っ」
俺の息は、水から上がってからも乱れている。
「みーくん、だいじょうぶ……?」
「あ、……う」俺は自らの火照る身体を両手で抱きしめながら言った。「大丈夫じゃ、ないかも……」
俺は身体の中でもっとも熱をもっている部分――例の淫紋が刻まれた下腹部に手をやった。熱いマグマのような血液が皮膚の下にあるのが分かる。それが全身に向かってどくどくと汲みだされていくようだった。
「あ、愛音――俺、まただ。そろそろ。おさえられなく、なる……」
「……みーくん」
愛音はそこであたりを見渡した。だれもいないことを確認して、一度深く深呼吸。目をきゅうとつむって、赤く染まった頬を両手で挟み、気合を入れるような声を出した。
「――よしっ」
続く動作で。
愛音は俺の身体にまたがるようにしてきた。
「あ、愛音っ⁉」
彼女は上半身を折り曲げ、俺の顔を覗き込んできた。白金色の髪を耳の上にかき上げる。濡れた髪からぽたりと落ちた水滴が、俺の頬に当たって跳ねた。
「みーくんがもとの身体に戻るまでのあいだ、どんなことでも協力するって言ったでしょ? 私、覚悟はもう、できてるんだからっ――」
それは一瞬の出来事だった。
「っ‼」
愛音は女子としての主張が強い、豊満で小さな俺のカラダを組み敷いて。
腕を掴んで逃げられないようにして。
俺の口元に――その白桃色の唇を寄せた。
「……ん……あ」
一度。二度。
唇を触れ合わせる。その粘膜は暖かく湿っている。
「――ふあ」
離す時に吐息が漏れた。しっとりとした息が俺の顔に当たる。キミの熱量が俺の頬をくすぐる。
そして、三度目――
「……んっ⁉」
愛音の舌先が、俺の中に潜りこんできた。
「……っ、……っ‼」
ちゅく、ちゅく、と粘度の高い水音が響く。
ゆっくりとした速度で俺の中に侵入してきた愛音のそれは、俺の舌を探し出してその先端を舐めあげた。
最初は優しく。やがて熱心に。
暖かい粘膜が溶けあうように触れ合って、脳内がゾクゾクと熱をもった。
「う……あ」
互いに口を離すと、名残を惜しむように間に糸が引いた。
愛音は顔の前に垂れた髪を、もう一度片方の耳にかきあげた。表情があらわになる。彼女は。
いつもの爽やかで純粋な微笑みを、すこしだけ崩して。
頬を茜色に染めながら。
言った。
「ねえ、みーくん。がまんしなくて、いいよ――?」
そんな言葉を聴いたら。
「……っ‼」
俺はもう。俺はもう。
カラダの芯から湧き上がってくる本能をおさえることは、できなかった。
「あ、愛音っ――!」
頭の中をまっピンクに染めながら、愛音のことを抱きしめる。彼女の口を唇で挟む。舌先を差し込む。
『んっ』とキミが声をあげる。お互いを探し合って、お互いを絡めあう。触れる。吸う。飲む。息が漏れる。さする。びくんと跳ねる。そうして彼女のモノを。粘膜を。体液を。――貪っていく。
そうすると、やっぱりすこし、お腹の疼きが満たされた。
「はあ、はあ……」
時間が流れた。短くはない、とても長い時間。
だけど数字にしてみれば儚い時間。
――俺たちは互いを求めあった。
「……みー、くん」
「愛音――」
蝉の声が青い空に滲む夏。蒸し暑い午後の昼下がり。
場所はプール脇、誰もいない女子更衣室。
外からは授業中の生徒たちの声と水音が響く中、片方は露出の多いみだらな【淫魔姿】、もうひとりは湿った【スク水姿】という背徳的な状況で――
俺たちは生涯2度目となる〝おとなすぎるキッス〟を終えたのだった。