プロローグ ♂ カワルカラダ、カワルココロ ♀
「んっ♡」と俺の口から甘ったるい声が漏れた。
高鳴る心臓を落ち着かせようと自らの胸に手をあてる。
そこには本来〝男〟だった俺には存在しないはずの膨らみがあった。
それを手のひらで潰してしまい、びくりと身体が跳ねる。
「う、ぁ……っ!」
自分の部屋。
そのベッドの上から、壁にかかった姿見に目をやる。
「うそ、だろ……?」
鏡に映った俺の全身は、極彩色の光に包みこまれていくところだった。
やがて頭上からは2本の角のようなものが突きだして。
胸とお尻がさらに大きく膨らんでいく。
「うー……やめて、くれ――!」
髪の毛が鮮やかな桜色へと変わる。耳がつんと尖る。衣装は露出の激しいキワドイものになっていく。
変化のたびにゾクゾクと身体の芯を這うような、なまめかしい感覚があった。
「や、だ……俺は、これ以上、変わりたく、ない……っ」
それでも全身の変化は止まらない。
背中からは漆黒の一対の羽根が生えて。尾てい骨に震えるような刺激が走ると、それはまさしく尻尾となり蔦のようにのびた。最後に自らの白くつるりとした下腹部に――入れ墨のような淫紋が刻まれる。
(んっ――くそ、ぜんぶ、この光のせいだ……!)
俺の身体を強制的に変化させていくビビットカラーの光は、首元に下がった『ペンダント』から発せられている。どうにか外そうと手を伸ばしてみるが――つるつるとすべって触れることすらできない。まるで見えない膜に覆われているようだ。
「俺は……男、だ」
鏡に向かって俺は声を絞り出した。
豊満な肉体をもつ悪魔的な少女――いわゆる【淫魔】と呼ばれる存在に変化してしまった自らの身体を否定するように。
自分が男であったことを忘れないように。
俺は繰り返す。
「俺は、男、なんだ……!」
しかし発せられた声はどこまでも甲高い。反響するように下腹部の淫紋が怪しく輝きだす。
震える身体を、未だ自分のものとは思えない白く華奢な手で抱きとめる。『んっ』とふたたび声が漏れる。
肌はきめ細やかでしっとりと柔らかい。表面がほのかに汗ばみ上気し赤くなっている。
そのうちに――俺の脳内は、それらの感覚を受け入れていく。
「――ん、ぁ」
大きな胸。男の子にからかわれるのが嫌だった。重くて肩も凝るし。
可愛い下着が見つからなくて苦労していること。
鼻孔をくすぐる、お気に入りのボディクリームの飴玉みたいな香り――
そこで俺はふと気づく。
「……え?」
違う。そんなものはない。
全身の血の気が引いた。
俺は男として生まれ、男として育ってきたはずだ。なのに。
「あれ……あたし……? っ⁉ ち、ちがう、俺は……」
俺の記憶が――はじめから〝女の子〟であったかのように塗り替えられていく。
「……うっ、ぐっ……いやだ。俺が、消えちゃう――」
まつ毛の長い、ぱっちりと大きな俺の瞳から涙が落ちる。
「うー……! 頭の中まで、女の子に、なりたくない……っ」
ラメ入りのリップグロスで艶めく下唇を噛みしめて、ふるふると首をふる。
一緒に揺れたピンク色の長髪が露出した肌をくすぐって、背筋がゾクリと震えた。
「もとの身体に、戻して、くれ――」
開け放された窓から突風が吹いた。カーテンが勢いよくはためいてばたばたと音を立てる。夜の空には怪しく紅く光る〝半月〟が浮かんでいる。
そのどこか倒錯的な美しさを持つ月を目にした瞬間――
「っ……!」
全身を巡る血液が沸騰したように熱くなって。
これまでの葛藤とかぜんぶ忘れて。
――俺の脳内が、ピンク色に弾けた。
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『オレが淫魔ちゃん!?
定期的に精気を吸わないと
頭の中まで〝少女化〟が
進行してしまう男子高校生の
えちえちで歪んだTSラブコメ』
♂♀♂ STARTs from HERE !! ♀♂♀
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ところで。
恋愛というのは世界でいちばんの奇跡だ。
何十億という人間の中からたったひとりを好きになって。
そのたったひとりが、自分のことも好きになってくれる。
――そんな奇跡を、俺は手にすることができた。
男。女。男。
俺たち3人は結束された幼馴染だった。
その中で唯一の女の子だったキミ。
俺はキミのことを好きになって。キミも俺のことを好きになってくれた。告白してくれた。
もうひとりの男は俺たちのことを祝福してくれた。かけがえのない親友だった。
そんな順風満帆だった俺の高校生活は。俺の思春期は。俺の恋愛模様は。
――女。女。男。
などと。
3人のうちのひとりが。つまりは俺が。
男から女に変わってしまったことで――
波乱の運命を辿ることになるのだった。
「うー……!」
つまりこの物語は、俺たち3人の関係が。日常が。
性的に倒錯した様々なトラブルによってドロドロに溶けて壊れて変化していく――
極めて不条理で。
極めて不健全な青春恋愛譚だ。
「絶対にもとのカラダに、戻ってやるからな……! んっ――♡」
俺はほとんど下着と変わらない服の上から、零れそうな胸をぎゅうと抱きしめて。
どこまでも甘くて可愛らしい声でそう決意した。
えちえちで甘々で――ドロドロに歪んだ、
思春期&TS(性転換)ラブコメの開幕です!
完結まで毎日更新しますので作品フォローやいいね、★★★★★評価などの応援もぜひ……!
(今後の執筆の励みにさせていただきます)