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イ国の魔女  作者: ネコおす
第一部 イ国編 ~商会の主~
72/309

ポットの町 七

「ウカヤリさんは傷害で何度か拘束されていますね。ただ、そのどれもが男性に対してだけ、殆どはお仕事のお客様相手とのことです。この町に来たのは2年前、その前の経歴は彼女の自発によるハ国に住んでいたということだけです。事実かどうかはわかりません。現在は『艶花亭』という所でお勤めです。」


事実確認は取れないし、彼女の自称の経歴だけ。ただ2年前までハ国にいたのならば城都の者と繋がりがある確率は低い。彼女の発言が本当ならだけれど。


「ティグリスさんは『﨟長亭』という娼婦館の飼い子…だそうです。親は既に居らず、生まれも育ちもポットの町、前歴もありません。…ただ、昨日の件を考えると…」


前歴はない。でも昨日の物取りと思われる輩と一緒に行動していた事を考えると過去にもそういった経歴がありそうだ。親がいないということはその娼婦館の店主が保護者代わりということかな…


ネビスさんとキノさんが衛士さんから集めた情報をパラナが伝えてくれる。

試験終了後、合格した2人は商会の条件説明に、すぐに承諾した。普段ならここで、採用を決定して後日迎えを寄越すのだけれど…今回は私たちとしても、すんなりと採用するわけにもいかなかった。なので結果を保留とし後日、採用決定を伝えるとして帰ってもらった。それから私たちは彼女たちの経歴を見直し、彼らの採用をどうするべきか話し合っていた。

時刻は既に陽は傾きかけている。今日の出立はもう無理だろう。


今この場にいるのは工員たちとレナさん、ユーコンさん、キノさん、そしてネビスさん。

ドンノラさんはこの場にはいない。彼には別件で探りを入れてもらっている。彼ならこの町でも問題なく動けるだろう。


「私としてはウカヤリちゃんは大丈夫だと思うわよ。確かに手が早いし、前歴持ちだけれど彼女、男相手にしか手を出してないのでしょ?」


「でも、あの…娼館館で働いておられるのですよね?」


パラナがおずおずと発言する。


「あら?ナイルちゃんはそういうの気にするの?」


「気にしません。娼婦であれ供給と需要が成り立っているのなら、それは立派なお仕事です。ただ、私は良いとしても同僚の皆さんの考えが同じとは思いません。」


私自身は彼女の魔法の適性やそのざっくばらんな性格は好ましいと思う。けれど工員たちには彼女に対して抵抗がある者もいるだろう。そうなれば今いる工員だけでなくウカヤリ自身もいい思いはしないはずだ。


ネビスさんは「そうねぇ…」とだけ答えた。

とりあえず彼女の採用については、ここにいる工員たちだけでも意見を聞いて採用を決めようと思っている。問題はティグリスについてだ。


「ガキの方は、昨日言っていた物取りの一員だったんだろう?魔法の適性はありそうだったが無理に雇う必要はないんじゃないか?」


確かにユーコンさんの言うとおりだ。雇われただけというのは私の憶測、事実は分からない。子供とはいえ、この町の住人だし、私が思っているよりも悪質な行為に及んでいる可能性だってある。


それに彼は未成年だから保護者の承諾も必要だ。

イ国には未成年を働かせてはならないという法はない。ただ成人するまで子は親の所有物という昔からの概念がある。なので親の方針次第というわけだ。ちなみに私は副団長からの説得とお父さんも成人前から衛士さん見習いをしていた経緯もあって私の自主性に任せてくれている。


普通に考えれば、ティグリスの採用はない…けれど私には彼の採用以上に気になるところがあった。



話し合いは佳境に入り、結局ウカヤリは採用、ティグリスは残念だけれど不採用にまとまろうとしている頃だった。衛士さんが部屋に急ぎの要件と室内に入ってくる。


「今しがた門の前に女が来て『商会の長に合わせろ』と言ってます。追い返そうとしたのですがなかなかに強情で…」


私に合わせろという女性?この町で知り合いの女性なんて募集であった人たちだけだけど…不採用になって文句でもつけにきたのだろうか。


「とりあえず会ってみましょう。屋敷の前まで連れてきてください。」


城都には娼婦館はありません。そういった仕事をする人も少数いますが、彼女らを買うのは元貴族などの富裕層。彼らは人ごと買ってしまいます。


次回は、ティグリスの視点。採用試験に合格して屋敷を後にした彼のその後。

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