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イ国の魔女  作者: ネコおす
第一部 イ国編 ~商会の主~
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ポットの町 五

「何チンタラやってんだい。二の間が終わったら次は六の間だからね。終わらなければ晩の飯は抜くからな。」


いつも通り、ここ娼婦館『﨟長亭』にババァの怒鳴り声が響く。俺の何が気に食わないのかいつもこの調子だ。


俺の名はティグリス、今年で12歳になる。この館で育った。母親は知らない。俺を産んですぐに死んじまったらしい。それからはこの館の女たちが俺の親代わりだった。特に店主であったヘラは俺に優しくしてくれた。ある事情で小さい頃から病弱だった俺を本当の子のように看病してくれたお陰で俺は死なずにここまで育つことができた。そんな俺も、ある時を境に寝込まなくなった。これからはヘラに恩を返せる、そう思っていた。


そう思ったのも束の間、ヘラが死んだ。町のヤブが言うには長く病気を患っていたらしい。周りの奴らにはまったくそんな素振りを見せず一番身近にいたはずの俺も気が付かなかった。代わりに店主になったババァは俺の事を小間使いの様に扱い、気に入らなければ殴られた。店主がこの態度だからか今まで優しかった周りの女達も俺と関わらないようになった。


こんな店出て行ってやる。いつもそう思う。行くアテがないわけでも無いが、この町にいる限り結局どこも似たり寄ったりだ。どこへ行ってもクソだった。


そんな時に『城都での勤務』という、この町では珍しい仕事の募集があった。『魔法が得意な者』とか『字が読める者』とか変わった条件で、採用に試験があるというものだったが、町の移動は商会持ち。給与も悪くない。俺はこのゴミ溜から出ていくことを希望した。ババァはぐちゃぐちゃ言うだろうけれど黙って出ていけばいいだけだ。


けれど返答は採用に必要な試験さえ受けれないというものだった。成人していない俺は門前払いらしい。ガキというだけで誰にも敬意を払われないだけでなく、仕事を選ぶ権利さえもない。クソだ。


町を出るための小遣い稼ぎに窃盗団の手伝いをする。今日の輩はあまり見かけない連中だったけれど、ツテから貰った前金はなかなかだった。これは成功報酬も見込めると期待したけど結果は失敗。そのうえ、気がつかれたのは俺が原因だと連中にボコられ、前金も奪われた。クソだ。


あの時、ウマが引く車に乗っていた奴は俺と大して変わらない歳の女だったと思う。俺がこんな事後の部屋の掃除なんてやって、その日の飯をやっと得ているのに、同じくらいの歳のガキがいい服着て、車に乗って、軍兵に護衛してもらいながらの優雅な旅だ。本当にこの世界もクソだった。


俺には夢があった。それを叶えるにはたぶん金が沢山いる。そして、この街に居ては叶わない夢だ。一度、荷車に紛れ込んで町から出ようとした事があるけれどすぐに見つかってしまった。この町は入ってくる者は素通りだが出ていく者には厳しい。その日は館に連れ戻されババァにボコボコにされて地下室に数日間、監禁された。


そして今日も一日の食を得て生き残るためにクソみたいな仕事をしていた。部屋の掃除を終えて次の部屋に移動しようとしたところで、女に出くわす。コイツは昔からこの店にいる女だ。店主が変わってからも俺を邪険に扱ったり、暴力を振るったりしてくることはないけれど、やっぱり他の奴らと一緒で俺に関わらないようにしている。俺は廊下の脇に避けて道を譲る。


女が俺とすれ違いざまにいきなり肩を掴んだ。小声で話しかけられる。


「…おい、ティグリス。お前に用件があると衛士が来てるよ。来てるのは1人だけ。何か心当たりある?」


…なんだ。まさか先の輩がドジ踏んだとか?いや、それ以前の件が今更…?でも、それならもっと人をよこすはずだ。ガキ相手とはいえ捕物に衛士1人という事は考えにくい。


「『募集の件』だって言っててさ、店の裏で待たせてある。…あんた、やるなら上手くやりな。店に直接尋ねられてたら厄介な事になってたよ。」


「あ?…ああ…」


確かに直接、受付で尋ねられてたらババァにバレていたかもしれない。そうなったらたぶんまたボコられて数日は地下に監禁だ。…こいつ俺に気を使ってくれたのか?


「ありがとう…」


「…私らにも立場があるからね…でもアンタはもうここじゃ無い場所を見つけた方がいい。」


女はこちらに顔を向けず視線を合わせずに、そう言って俺の側を通り過ぎていく。


こんな所で働いている奴らはみんな自分のことで必死なんだ。誰もが、これ以上堕ちたくないのは当然だ。そんな中でもまだ俺を気にかける奴がいることに少しだけ感謝しつつ俺は店の裏に急いだ。


倉庫通りでウマの前に飛び出てきた少年です。彼が今後どのようにナイル達と関わってくるのか…


次回は、ナイル視点に戻ってポットの町再募集の採用試験です。

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