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イ国の魔女  作者: ネコおす
第一部 イ国編 ~商会の主~
64/309

サーランの町 八

私たちは明朝、早い時間にサーランの町を出発した。サーランからポットの町までは山を越えるので5日かかる。初日はイアのような小さな村で宿泊する予定で陽が落ちる前に着くには早めに出発する必要があった。


サーランの門を抜け暫く経つと舗装されていた道が終わり、ゴトゴトと車が揺れる。私と一緒に車内にいるのはクマとシノ、パラナだ。彼女たちの足元には連弩がある。ウマの引手についている者たちも同じく連弩を携行させることにした。女性が携行するには少し大きすぎるのだが、あの一件以降商隊の警戒度は上がっている。彼女たち自身が常に携帯することを望んだ。


「絶対、あのフィシとかいうヤツらだって!私たちに嫌がらせするために盗ったんだよ。」


今話しているのはクマ。車内での話題は昨日起こった連弩の盗難事件についてだった。


「でも、兵士さんたちが立哨についててくれたのでしょう?難しいのではないかしら…」


「でもアイツら昨日はもう宿には帰って来なかったよ。怪しい。」


あの後、私たちは再びラプタさんの所に出向いて紛失の経緯を話した。盗難の可能性の事もあるが無くなった物が武器である。一応、町に常駐している兵士さんや衛士さんたちにも注意を促しておく必要があった。私たちの不備のせいで申し訳ないと謝罪したけれど警備体制などの詳細を聞いたラプタさんは「それで盗まれたのであれば仕方がない」と不問としてくれた。一応、広間でのいざこざの事も伝え、彼らを聴取しようと言う話になったのだけれども、彼らは既にサーランの町を後にした後だった。


「確かに到着して次の日には経つなんてあまりないことですけれど、証拠もありませんし安易に断定するのはどうでしょうか…」


「いや、きっとアイツらだって。性根が曲がってそうだったし。」


「顔が悪い事しそうだった。」


クマとシノはめちゃくちゃな理由を上げているが、今のところ1番、怪しいとされているのは彼らだった。パラナも断定はできないと言っているが口ぶりからフィシらを怪しんでいるには違いないようだ。


「ナイルさんはどう思うっすか?やっぱりアイツらが怪しいですよねっ?」


確かにサーランの町中で私たちと不穏な雰囲気になったのは彼らだけだ。買付に来た割には殆ど町に滞在せず直ぐに町を発った事も怪しい。でも、彼らは素行こそ悪いがロジェパ王国名門貴族のウィルヘルム家の使いだ。そんな立場の彼らが嫌がらせ目的くらいで盗みなど働くだろうか…


「そうですね、可能性はあると思います。ただ、一つの事柄だけ見て、決めつけてしまうと他の可能性を見落としてしまう事になりますから、パラナの言う通り安易に断定はできませんよ。」


「では、ナイルさんは物盗りの犯行だと?」


「いえ、嫌がらせや物盗りというのも可能性の一つだという事です。もしかすると、まったく別の理由かもしれませんよ。」


私の言葉にクマは「え、どういうこと?」と難しそうな顔をしている。シノも一緒になってあーでもないこうでもないと言い合っている。それを宥めるパラナ。


ポットへ向かう車内は今日も姦しかった。


サーランを発ったナイルたちは次の町ポットを目指します。

彼女たちが携行している連弩は試作品の中でも一番小型なものです。ただ兵士が戦場で使う武器としては威力が低いのでボツになったもの。それでも鎧などがなければ十分に殺傷能力はあります。


次回は、舞台は変わってコルトー。副団長視点です。

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