サーランの町 七
「ナイルさん!大変です!」
宿に戻ってポットへの旅路の準備をしているとミズリーが部屋に飛び込んできた。
「ミズリーどうしたの?」
「今、車の中の荷を確認していたんですけれど、7張持ってきた『連弩』が6張しかないのです。」
「えっ…間違いではなくて?」
「確かです。連弩は私たちの人数分を持ってきました。」
ホシノ商隊の人数は私を除いて7名。間違うはずがなかった。
「工員の誰かが宿に持ち込んだとうことはないのでしょうか?あと他になくなった物はありますか?」
「いえ、今パラナが全員に確認をしましたが誰も触っていないそうです。他の荷もクマが確認していますが無くなったのは連弩が一張だけ。他の連弩や矢や換えの弦は手付かずです。」
「いつから無くなったっていうのは分かりますか?」
「宿に到着した時には確認をしています。朝は募集のために準備をしていた機材を確認しただけなので分かりません。荒らされたような形跡もなかったので…」
無くなったのは昨日、宿に到着した後から今日、募集から帰ってきた時まで。
私物や金銭は宿に持ち込んでいる。車に積んであったのは機材と一部の着替えなど旅路の必要品、それと武器である連弩だ。金銭狙いなら服や他の日常品を持っていく。この世界では服は高価だからだ。今日の募集のために機材を前にしていたので連弩は着替えの服など必要品と一緒に奥にあったはずだ。一見しただけでは用途さえ解らないはずの連弩を偶然一つだけ持っていくとは思えない。荒らされた形跡がないことを考えても、ただの物取りの犯行とは思えなかった。
それに車には兵士さんたちが立哨についていたはずだ。立哨がいなかったのは昨日みんなで食事処に行って帰ってくるまで。昨日の一件があって、その後はまた立哨についてくれていたから他の時間は考えられない。見張りをサボっていたというなら別の機会ということも考えられるけれど…
「キノさんに事情を説明して呼んできてください。確認したいことがあります。その後は、もう一度みなさんと一緒に確認をお願いします。」
「兵士たちに確認したところ昨日今日と交代で立哨についていたが不審な者は見ていない。募集の際にも私たちは仕切りの外にいたがウマや車に近づいた者はいない。立哨中は必ずいずれかが車の前にいて居眠りもしていないとの事だ。」
事情を聞いたキノさんは昨日の晩に立哨についた人たちに確認をしてくれた。それが本当なら、無くなったのは機会は皆で食事処に行った時だけとなる。宿から離れたのは2刻あまり。ただ、その時間にはまだ車留にも人気があっただろうし、宿の入り口にある広間には人が多くいたはずだ。
「キノさん、宿に昨日から泊まっている人に聞き込む事はできますか?昨日の私たちが食事処に行っていた時間、誰か車に近づいた者がいないか。」
キノさんは「了解だ」と言って部屋から出ていった。工員たちが確認している今も車の側には兵士さんが立哨してくれている。立哨についているのは1名づつの交代だ。見落としもあるので断定はできないけれど…
私以外に部屋の中に残っているのはドンノラさんとレナさんだ。2人も今の会話を一緒に聞いている。
「『連弩』というのはナイルが作らせていた弓の発展型という物か?」
「ええ、今回の旅路では危険もあるかもしれないので商隊の者たちが身を守れるように試作品を持って来ていたのです。まさか無くなるとは思いませんでした。」
「武器なのだろう。危険性はあるのか?」
「分りません。矢を持って行っていないという事なので直ぐに使うことはできないと思いますが…そもそも知らない人には使い方が解らないと思います。」
連弩の構造は難しくない。少し触れば勘がいい人なら使い方は解ると思うけれど初めて見た段階では武器であるのを理解するのは不可能だろう。
矢は通常弓で使う物より小型になるし、鉄製の矢に合わせて調整してあるので弓用の木製の矢では上手く飛ばすことも難しいだろう。それでも殺傷力はあるので危険性はある。何も知らない人から悪用される可能性もあるのでレナさんの心配も解るけれど、私は別の可能性を考えていた。
「ドンノラさん昨日頼んでいた件はどうなりました?」
「ああ、お嬢が言っていたとおり2人いたな。だがそれがどうかしたのか?」
んー、もしかすると…私が考えた可能性の話を2人に伝える。あくまで可能性しかないけれど備えはしておいて損はない。2人と話し合って、この話は工員のみんなや兵士さんたちにはまだ伝えない事にした。
結局、夕方まで探したけれど無くなった連弩が出てくることはなかった。キノさんたち兵士さんたちによる聞き込みも徒労に終わり、私たちは今日は宿で食事をとる事にしたのだった。
ちょっと短いですが…
ちなみにホシノ商会の専属工員たちはミズリー、ラベ、クマ、シノ、パラナ、ベニ、マモレの7人です。まだ名前さえ出てきてない子もいますがちゃんと一緒に旅してますよ。
次回はサーランの町を出発して次の町へ。




