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イ国の魔女  作者: ネコおす
第一部 イ国編 ~商会の主~
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サーランの町 二


「なんなのでしょうあの像…」


「海の守護者…でしょうか。」


「あれが?」


この世界には禁忌があるため絶対神のような宗教は存在しない。けれどそれでも民族やその土地特有の精霊のような信仰は少なからず存在している。あれが精霊かと言われるとどうだろうと答えるしかないけれども…


明日の募集時の打ち合わせをしていたのにいつの間にか話が傍にそれてあの像の話題になっていた。印象が強すぎる。


「海の守護者か…それにしては可愛すぎないか?」


「っ!?可愛い…あれがですか?」


「可愛いではないか、特にあの目とか。」


レナさんの言葉にその場にいた誰もが驚く。ドンノラさんでさえ少し引いていた…レナさんの感覚は個性的らしい。



とレナさんの新事実がわかった所で私は次の提案をした。


「明日の募集については今話した通りの手順で行きましょう。特に前回のコルトーでの募集と変更はありません。募集地は今日のラプタさんの館前、荷車で行って機材を早めに設置、同時に周囲の囲いの仮設をお願いします。それでこの後なのですが…」


サーランの町へは午前中に到着したのでまだ日は落ちていない。私は今日の食事は町の食事処で食べることを提案する。


「それはいいですね!私も城都違う味というのに興味あります。」


「ラベの料理は美味しいけれど、保存食ばかりってのは流石に飽きますしね。」


私の意見に賛成の工員たち。じゃあ何を食べようかと移行したところで話が遮られた。


「私たちは外食には反対だ。人の多い場所での護衛は難しい。」


キノさんの意見に場は静まり返る。キノさん以外の軍兵さんたちは別室で待機、数人は館の前で車を立哨している。この辺は人海戦術の軍隊というべきか騎士団よりも人使いが荒い。


「確かに人の多い町での警護は難易度が跳ね上がります。それに食べ物などに仕込まれた場合は対処のしようがありませんからキノさんが気にされるのは解ります。」


「ただ、訓練された兵士の皆さんはそれでも耐えられるでしょうが、ウチの工員たちは違います。町にいる間くらいは少しは気を抜かせてあげたいです。それに護衛にはレナさんやドンノラさんのような一騎当千の騎士さんたちが付いてくれます。毒の仕込みなども誰もが行くような店を選べばむしろ難しいでしょう。」


「それでは私たちは…」


「キノさんたち兵士のみなさんもご一緒に如何でしょうか?」


「な、私たちもか?しかしそれは…」


キノさんはドンノラさんの方に目配せをする。「距離を取れ」という彼の命令を気にしているのだろう。


「全員同卓という訳にはいかないでしょう。そもそも人数が多いので幾つかの卓には別れると思いますよ。私とレナさんドンノラさんは同卓になりますが同じ店内であれば何かあってもすぐに対応できるのでは?」


私はキノさんと同時にドンノラさんたちにも意見を提示する。


「む…それでも問題は残るがナイルの言い分も理解できる…まぁ女性陣も13番隊と一緒になら不都合はさしてないとだろう。」


「ナイルさんと騎士のお二方が良いので在れば此方としても否はありません。我々としても保存食以外の食事が摂れるので在れば兵の士気も上がります。」


よし!これでお魚が食べられる。町も明るいうちにもっと歩いて見て周りたいと思っていた。先ほど気を引き締めなくてはと改めたばかりだったが、やっぱり好奇心には勝てないよね!私はウキウキと外出の準備を始める。キノさんも他の兵に後の行動の伝達と準備のために部屋を出ていった。


「ナイル、もしかして浮ついていないか?」


「…ソンナコトナイデスヨ?…それに兵士さんたちとも少し距離を詰めておいても損はないと思うのですよ。全員が敵である可能性は少なそうですから味方は多くしておいた方が良いです。」


「しかし、もし彼らの中に間者がいるのだとしたらつけ入る隙を与えることになる。」


「それもです。少し隙を作ってどう動くか見てみましょう。今のままではどうにもなりませんから。いざという時よりもこちらから仕掛けて覗ってみるのも悪くないでしょう?」


「ほぅ、そういうことか」と感心してくれるドンノラさん。

すみません、今の一連の繋ぎは私の好奇心を満たすための建前です…


レナさんたちやうちの工員たちは準備はしなくても、すぐに町に出ることができるようだ。

私は自分のカラの玉があるのを確認し、幾らかの硬貨を革袋に移して鞄に詰めこんだ。





「うわーお店いっぱいですね!」


「ミズリーさんあんまり離れすぎないようにしてね。」


中央通りより一つ入った路地には個人向け商店と飲食店が立ち並んでいた。そのいずれの品も他国の物やサーラン特産のものが多くコルトーでは珍しいものばかりで、尚かつ価格も良心的だった。


「この飾りの付いた棒って何に使うのですかね?」


「家の瓶なんかにさして飾るんじゃない?」


「ああ、それは『簪』と言って髪を結って飾る装飾品ですよ。」


「え?これで髪を結うのですか?どうやって…」


流石最年長のパラナ。お菓子などに目のいっているミズリーやクマたちと違って飾り物に目が付く。私はそれは『簪』と言ったけど『彼』は男で髪もいつも短髪だった。なので髪を結ったりくらいはできるけれど『簪』の使い方なんて実際知らない。


パラナはお店の人に言って実際に使い方を教わる。「『カンザシ』なんだいそりゃ?これは『スピロ』だよ」と店員さんに言われているのが聞こえてくる。まぁ当然呼び方は違うよね…ゴメン。


誰かが買い物をする時はみんな同じ店か両隣くらいの店の前で待つ。そうしなければ兵士さんたちが困ってしまうからだ。ちなみに私のすぐ隣にはレナさんが付いている。ドンノラさんは流石に女の子の群れに混じる訳にもいかず少し離れた位置で警戒していた。


「ナイルさん!さっきの飴屋さんでこの先にサーランや各地の名物料理を出してくれるお店があるらしいですよ!」


ミズリーは両手に飴と串を持って私の所に駆けてくる。うーん、私よりお姉さんのはずなんだけどなんだろうこの子犬っぽさ。いつもの気弱な彼女ははどこへ…サーランの町にきてミズリーのテンション絶好調の状態のままだった。もしかすると彼女はこちらの方が素なのかもしれない。

逆にラベは町に来てもまったくテンションは変わっておらず、いつもどおり表情は薄い。けれども、心なしかいつもよりリラックスしているように見える。彼女は常にミズリーから距離を取らない。彼女を大切にしているのか、それとも実は寂しがり屋なのだろうか。


他の工員たちも各々に楽しんでくれているようで良かった。旅路の間、ずっと気を張ったままでは消耗してしまう。彼女たちには気を休めて貰いたかった。



ふと、ある店が目にとまる。他のお店に比べて少し暗い印象で『ガラクタ屋』と木札が立てかけてある。入り口には変な形をした陶器や変な木の枝、ただ大きいだけの石や不格好な植物、壊れた農具や正体不明の粉などが壺にはいっていたりと置いてある品には統一性がない。その中で私の目に止まったのは木箱の中に無造作に詰め込まれている歪な形の黒い塊。持ってみると大きさの割に意外に重みがある。


「何かお探しかねお嬢ちゃん?」


店の奥にいたお婆さんから声をかけられる。失礼ながらちょっと不気味だ。


「あの、これって何でしょう?」


「それは『マクソ』だね。ゴクって言う南の海辺にいる虫が作る塊で森のそこらに落ちてる物なんだけど、少し柔らかいだろう?だから子どもたちが玩具にして投げあって遊んだりするのさ。」


『マクソ』…名前に少しドキッとするが「別に動物の糞ではないよ」というお婆さんの言葉にホッとする。虫が作る塊…アラニエの糸とかと同じようなものだろうか?地面に落としてみると少しだけ跳ねる。塊の質感や感触がどうも気になったので貰うことにした。金額は1カラ。その辺に落ちてる物がパン一つ分のお値段と変わらないのは、なかなかにボッタクリな気もする…

それでも気になった私は購入して『マクソ』をカバンにしまうと、お婆さんにお礼をいってみんなの元に戻った。


色々言い訳していますが単純に町に遊びに出たかったナイル。そんな彼女の性格に慣れているレナと細かいことは気にしないドンノラ。一番気を使っているのはキノだったりします。


次回は、お食事会。



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