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イ国の魔女  作者: ネコおす
第一部 イ国編 ~商会の主~
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サーランの町 一

「うわー見てください、大きな川が見えますよ!」


「ミズリーあれは海ですよ。」


「海…あれが全部塩水の…?」


結果から言うとサーランまでの順路では何も起こらなかった。車の振動で私のお尻が硬くなったくらいだ。帰ったら絶対サスペンションを作らせよう。


イアの村を出てから一山越えるとその後はずっと下り道だった。気温もコルトーより暖かく、コルトーがかなり高地にあるのだと認識する。

この付近まで来ると道も大きくなって南北に伸びる道と交差する。行き交う人やウマ、車も多くて、人の活気だけなら城都であるコルトーよりもある。町は正面に頭より高いくらいの門と石壁、左右は高い崖となっておりサーランの町だけが海に直接面しているというのが見て解る。


「うわ、なんか変な匂いしますよ!?」


「海の匂いですね。風に乗ってここまできてるのでしょう。」


ミズリーはいつもの気後れはどこへやら、さっきから「うわーうわー」とはしゃいでいた。勿論他の子たちも一緒で車内は騒がしい。今、車内にいるのはミズリー以外にはシノとクマ。ラベやパラナはウマ引きに付いている。


外の様子を見ているとレナさんが近づいてきて旗を上げろと合図を送っている。

隊が別の町に入る際にはその所属を明示しなければならない。騎士さんや軍兵さんは左腕に腕章を、私たち商隊なら車に旗を掲げる。クマが幌を上げて準備しておいたホシノ商会の会章の入った旗を取り付ける。


一行は隊形を密集にして門に入る。衛士さんに所属を通知して入門手続きを行い札を貰う。この辺の手順はコルトーと同じだ。

町の中に入ると外の喧騒よりさらに騒がしくなり、コルトーほど建物が密集していないし2階以上のものもないけれど、外を行き交う人が比べ物にならないくらい多い。ひっきりなしにウマ車が行き交っており、だからだろうか中央の道は大きく作られていて車がすれ違うのにも不便がない。この道は海まで続いているらしく、遠く道の先に海と船泊が見えている。道沿いの店の前にはウマや車がつけられ荷の積み下ろしをしたり、中の店員と交渉をしていた。

住んでいる人口は城都に比べ3分の1程度しかないはずなのだが常に人が外を行き交っている分、コルトーよりも活気に溢れているように感じられた。


「うわーすごい車の数ですね!それにみんな元気があるというか…」


さっきから「うわー」とばかり口にしているミズリーが窓から顔を出して外を見渡している。そこにレナさんがウマを近づけて解説してくれる。


「元気というよりもサーランの町の連中は荒っぽいんだ。手が早いというわけではないが口調や気性がせっかちで雑把だな。中央通りは特に商人で賑わっているから、少し外れればまた違ってくる。」


「今はどこに向かっているのです?」


「まずは町の主に挨拶を。その後、宿へ移動して工員募集は明日になります。」


町の主、つまりこの町の自治長のことだ。共和制後は選挙で選出されイ国の一議員でもある立場だけれど2度の選挙を経ても領主時代とその人物は変わっていない。

私としてはそんなことより町を見て周りたいし、元貴族相手の挨拶など面倒なのだけれど立場として仕方がない。


海辺の近くまで来て中央通りから外れると町の様相は変わる。さっきまでの喧騒とはまた違った活気に溢れているが漁で揚げられたばかりの魚や他の国から揚げられた荷物でごった返していた。建物も先ほど中央通りにあった店群より幾段か見劣りして、古い木製の掘建て小屋や平家が多い。海には大小の船が並び泊まっておりそれを見たミズリーはやっぱり「うわーうわー」と口にしていた。


船泊の通りに入って程なくして車が止まる。まだ揚げ所で喧騒の真っ只中だ。周囲は漁市場の他に平家や荷置き場にしかない。私が不思議に思っているとレナさんがウマから降りて車に近づいてくる。


「ナイル、ここが目的地だ。」


「えっ?」


レナさんがそう言って示す先には今にも朽ちそうな木製の平家が建っていた。




「これはこれはどうもどうもー!ようこそサーランの町へ!城都の新星、ホシノ商会のお噂は私共の耳にも入っていますよ!」


案内された建物に入ると漁業者と変わらぬ格好の恰幅の良い年配の男性が妙に高いテンションで話しかけてくる。もしかしてこの人が自治長…?


「私はこのサーランの主をさせて貰っているプラタ=ラといいます!いやーアクセニア商会さんには足を向けて寝れませんからねー、ドニエプルさんからはお話を聞いています!ホシノ商会の主であられるナイルさんですよねお会いできて光栄です!」


「いえ、こちらこそこの度は無理を言って申し訳ありません。しばしの滞在と工員の募集することをお許し下さい。」


「全然、全然問題ありませんよぉー!もう暇が在れば何日でも何週間でもご滞在頂いて結構!ぜひサーランの町を見ていってください!」


うわー…なんというか、すっごいテンションの高い人だった。とても元貴族で領主とは思えないんだけども…


「おっと、こんな汚い所で申し訳ない。ここはサーランの主館ともなっておりますが町の運営会場や漁業者の待機場にもなっていましてね、以前は中央通りの反対側に館があったのですが仕事上、不便であっちは賓客の宿泊施設にしてしまいました。ですので皆さんがお泊りになられる所は上等ですのでご安心を!」


自分の館を不便だからと捨てて、漁業者たちと一緒の今にも朽ちそうな平家に移転したと?プラタさんは、なんというか色々と想像以上の傑物のようだ。私が頭の中で想像していた領主像を良い意味で破壊してくれる。ある意味、コルトーなんかよりこの町の方がよっぽど共和化しているようにみえた。


けれども、だからこそ、この町がこれだけ活気溢れているのかもしれない。

イ国唯一の港町というだけではない。町を指揮する長自らが現場に最も近い場所で任に就いている。それは町の需要や現状をいち早く察知できるし、指示を出すにも時間差がない。それがこの町をここまで盛り上げている要因の一つであるのだろう。

これと同じことを城都のような大きな街で行うのは不可能だろうけども、それでもこの町は共和制の一つの理想の形として参考になる。


挨拶を済ませ宿地に移動することとなった私たちをラプタさんは車の前まで見送ってくれる。彼の態度は一貫して町の主とか貴族というより完全に商人のそれだ。私は同じ商いとして彼を見習わなければと思うのだった。


あっさりとサーランの町に到着してしました。イ国の沿岸沿いは高い絶壁になっていて海に接することができるのはこのサーランの町だけです。


次回もサーランの町。街中へと繰り出します。

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