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イ国の魔女  作者: ネコおす
序章 不思議な記憶
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長い夢

もう目眩はしない。意識もハッキリしている。私は先程までは騎士棟の2階で副団長に聴取されていたはず。でも目の前の見える風景は全く先程までと違っていた。



ここは何処なのだろう…


真っ白な建物。材質は石みたいだが継ぎ目が全くない。よく見ないと気が付けないほど透き通った壁が廊下と隔てており、私のいる部屋には小さなベットと、これまた小さい赤ちゃんが寝ていた。この子、尻尾も耳の毛も生えてない…私と同じレタルゥだった。私はその赤ちゃんに触ろうとしたけど触れることは出来ない。触った感触がなく触ろうとした指がすり抜けてしまう。


暫く時が経つと部屋に大人たちが入ってくる。彼らも赤ちゃんと一緒でみんな尻尾も耳に毛も履いていなかった。私は声をかけたり触れようと試したが結果は赤ちゃんの時と同じだった。他の場所に移動しようとしてもそれは叶わい。この部屋から出ても少し離れた所で自然と足が進まなくなる。仕方がないので私はずっと赤ちゃんを見ていた。お腹も減らないし喉も渇かなかった。



数日後、赤ちゃんが両親に連れられて部屋から出ていく。すると私も一緒に移動させられた。離れても気が付くとその子の近くに移動していた。どうやら私はこの赤ちゃんと離れる事はできないらしい。そのまま彼らの家まで強制的に移動させられ、私もその家で住む?こととなった。



数年経つと赤ちゃんはもう走り回るくらいの幼子になっていた。

数年も一緒にいるとこの世界のことや『彼』との付き合い方もなんとなく解ってくる。まず、この世界にいる人たちは全て私と同じレタルゥしかいなかった。尻尾や耳に毛の生えている人なんていない。そして私は『彼』の周りからその生活を見ていることしかできない。でも意識すると彼と五感を共有することができることに気がついた。『彼』が見ている視界、食べた物の味や匂い、食感も感じることが出来た。それだけでなく意識を共有している間は感情も共有することも出来るようで『彼』が楽しいと思うと私も自然と楽しくなり、『彼』が悲しいと思うと私も悲しく感じた。



さらに数年が経った。この世界でも子供は学校というところに通うらしい。毎日、難しい事を学んでいた。暇だったので彼と一緒に同じことを私も学んだ。『彼』はあまり物怖じせず友人も多かった。



16年が経った。『彼』はとっくに私の年齢を超えて逞しくなった。私の身体は全く成長していない。ある時、『彼』に彼女が出来た。赤ちゃんの頃から見ているので微笑ましい反面、側から離れられないのでちょっと恥ずかしい。9歳の私にはちょっと早すぎる…っと言いたいところだけれど、私も彼と一緒に時を過ごしているので既に25歳なのかもしれない…もう一度言うけど私の姿は全く成長していない。ぺったんこだ。



25年が経った。『彼』は軍に入隊して兵士さんになっていた。この国では軍とは言わないらしいけど武力を持って国を守るというそれは同じだ。職種は工兵、爆薬等が専門だ。この国は長きに渡って平和が続き戦は起こっていない。それでも災害は起こるし、その時は彼も出兵し人を助け守った。



40年が経った。『彼』は仕事と趣味ばかりで未だに未婚。私としては彼の子供が早く見たいのだけど『彼』にその気が全然ないようだ。この頃からだろうか『彼』は表には見せないけど1人でいることをを好むようになっていったように思う。それでも生来の人当たりの良さや知識広さ、責任感の強さからか同僚や友人からの信頼は厚かった。



50年が経った。長く平和だったこの国も戦に巻き込まれることになった。彼は当時は後方支援だったが、何故か行く先々が前線となり拠点を転々とした。たくさんの人を守るためにたくさんの人を殺した。その代償として彼は片足と片腕を失った。戦争は3年続き、終戦と共に彼は軍を辞めた。



60年が経った。退官した彼は最初こそツテを使って職を転々としていたが、最終的にはこれまでの経験と知識を活かして物書きを生業としていた。雑誌やwebの記事を書いたり、本を出版したり、そこそこに売れているのか普通に生活するには困っていないらしい。この世界では文字を書くのも板を叩くだけで出来るので片腕でも不便はない。だけど未だに未婚…もうこの歳じゃ子供は望めないのは残念。『彼』自身が1人を好んでいるように見えた。でも『彼』は孤独を感じていない。こういう生き方もあるのだろう。



私がこの世界に来て、そして彼が生まれてから65年が経った。

彼は出先で爆発事故に巻き込まれて亡くなった。『彼』1人なら逃れることも可能だったかもしれない。でも『彼』は事故現場で近くにいた見知らぬ子供を守ることを選んだ。不思議なことに『彼』の最後の感情は『安堵』だった。



結局、『彼』とは65年も一緒に過ごしたのに五感や感情は共有しても、会話することや触れ合うことは1度もできなかった。私はこの世界では認識すらされていないので当然のことだろう。それにいくら五感や感情を共有できてたとしても『彼』の思考までは解らなかった。


『彼』は最後まで孤独だと感じる事は1度もなかった。例え戦場で孤立しても、両親も他界して一人っきりになった時も、老年期に1人で数日間も部屋に引きこもって黙々と仕事をしている時も、それでも孤独という感情は『彼』は感じていなかった。


なぜ孤独を感じ得なかったのか、そして最後の今際の思いがなぜ安堵だったのか私にはよく解らない。ただ、65年前に突然家族と引き離されて、知らない場所、知らない世界で誰とも話せず、誰とも触れられず、そんな孤立した日々を送ったきた私もなぜか、『彼』と同じように一度も孤独を感じなかったのは確かだ。



65年間も見知らぬ世界で過ごしたナイル。見た目はペッタンコのままですが、彼女の年齢は74歳になってしまいました。


次回は副団長視点のお話です。

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