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イ国の魔女  作者: ネコおす
第一部 イ国編 ~商会の主~
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一般教養 前編

翌日も午前中から私は騎士棟に来ていた。今日も講義があるからだ。


今日の講義の内容はまだ解らない。事前に教えてくれる時もあるけれど殆どは当日、講師が来て初めて聞かされる事が多い。講師も誰がするのかその場にならないと解らなかった。


それだと準備が出来ないと思うかもしれないけれど、騎士団で受ける講義はその殆どが口頭によるものなので準備する必要もない。図解が必要な時や文字を習う際には書物や蝋板を使うこともあるが基本は口頭だ。


本当は私も覚書したいけれど、この世界では紙もインクも高価で馬鹿にならない。今の私なら買えない事もないが一月の収入が軽く飛んでいってしまう。蝋板くらいなら自分で作ってもいいけど結局あれは控え書きするもので記録しておくのには向いていない。結局の所、今は必要ないので習事は全て聞いて覚え、疑問があればすぐに書物で調べることにしている。



というわけで私はいつも通りに今日は8の鐘がなる前に大部屋で待っているのだけれど講師が来ない。いつもなら9の刻をすぎる前に担当の講師がやってくるのに既に半刻は過ぎている。


私は只、椅子に座って待っているのも何なのでちょっと体を動かすことにする。最近は日々騎士棟まで歩いて通っているし、人並みとは言えないけど体力も以前よりもついてきたと思う。襲撃事件以降、熱を出して寝込むこともなくなった。


準備運動、その場駆け足の運動から、よーぃ…はじめ。1、2、3、4…






「…お前、何をやってるの?」


ハッ!いつの間にか背後にユーコンさんが立っていた。私は体の回旋を終えた所で運動を止める。


「あははは…これはある国の軍隊に伝わる伝統の鍛錬運動でして…」


「鍛錬?それがか?俺には子コフが踊ってるようにしか見えなかったが。」


「??コフとはどんな生き物のことでしょう?」


「森に住んでる野生の動物でな。こう、『キィキィー』って鳴く小さくて手足の長い動物だ。お前にちょっと似てる。」


…たぶんそれは猿みたいな動物だ。レディに対して猿みたいとはなんて失礼な奴っ!

私が反論しようとするとユーコンは言葉を続ける。


「まぁお前の変行は今に始まったことじゃないんだろうが…一応、女なんだから場所は弁えろよ?」


…そういう風に言われると反論のしようがなかった。



「今日はユーコンさんが講師役だったのですね。」


「いや、今日は本当はヴォルガが担当だったんだ。俺はたまたまヴォルガに用が会って来てただけなんだがアイツに来客が入って俺が代理でナイルの講師をすることになった。」


それで時間が遅くなったのか。副団長でなくて良かったかもしれない。副団長の講義はいつも質問の余地がないほどみっちりだ。ユーコンさんは曲者ではあるけど副団長の講義より気は楽そうだ。


「…なんか失礼なこと考えてないか?」


勘のいい奴めっ…



「それじゃあ始めて行くか。今日講義は法についてだったんだが時間も中途飯場だし一般知識の講義に変更しよう。『玉』についてだ。」


おおぅ、私も『玉』って何なのか知りたかったんだよね。今日は当たりかも。


「『玉』、玉石とも言うが、これが何だかお前はなんだか知っているか?」


「私が知っているのは家で使っている灯りに玉を使っているって事と、その玉は小動物の死骸であるという事です。」


「そうだ。お前の家だけじゃなくて、この国の殆どは日が落ちた後の光源として玉を使っている。ただ、玉が()()()()()ってのは正確ではない。」


むむ…お父さんが言っていたんだけど嘘だったんだろうか?


「正確には玉は()()()()()、生物が死した後に残る石の事だ。光源に使う玉はメズィというズィの一種の玉だ。だが玉は生物の数だけ種類がある。なので動物だけでなく植物の玉も存在する。」


「はい!質問です。という事はそれぞれ違う用途があると言うことですか?」


「そういうことになる…が、実際は違う生物でも同じ用途のものがあったり、用途が不明なものが多いな。なので用途不明な玉をどんな事に使えるのか研究する機関も存在する。」


思った通りユーコンさんの講義は気が楽だ。講師によっては講義中の質問を受け付けない人もいる。こうやって疑問が浮かんだ時にすぐに答えてくれる人はありがたい。


それにしても研究機関とか、なんだか楽しそうだ。確かに他にどんな用途の玉があるのか私も気になる…けれど、その前にもっと気になる点があるので質問してみることにした。


「生物は全て死んだ後に空に還り玉石だけが残るという事なのですが、それでは家畜などはどうなるのでしょうか?」


ユーコンさんの話だとこの世界の生物は死ぬと空に還って遺体は残らない。でも、そこには石だけが残る。その石が『玉』ということだ。

けれども、全ての生物が同じというのなら、店で売っている家畜のお肉やお花などの植物は何なのだろうか。アレらは全て『死んだ後』だ。全ての生物が人と同じく玉を残して肉体が消えるなら、お肉やお花が市場に出回っているのはおかしい。それに少なくとも染色で使ったお花や草からは石なんて出てこなかった。


「ちゃんと聞いていたか?玉が残るのは生物だけだぞ。スヴァやパカなどの家畜には玉石はない。」


???…どういうことだろう…


因みにスヴァっていうのは豚のような動物、パカは毛の長い牛の事だ。どちらも食用などに家畜として飼育されている。ただ、あっちの世界に比べると、体が小さくて私と同じくらいのサイズだ。


「えっと…スヴァやパカは玉が残らないのですよね?でも先程は全ての生物は死すると玉を残すと言われていませんでしたか?」


「そうだ。スヴァやパカは生物ではないだろう。」




…ん?もしかして『生物』の認識が違うのではないだろうか。


「あの…生物とはどんなことをいうのでしょうか?」


「そこからだったのか…」


ユーコンは「まさか」という感じに大げさに天を仰ぐ。


「生物とは玉石を持つ動植物のことだ。玉を持たず死して空に還らない動植物は生物ではない。」


「では、スヴァは生物ではないなら何なのでしょう?」


「???…動物だろう?」



ああ、理解できた。


この世界では『人と同じく空に還る動植物』が生物なのだろう。この世界では動く物が動物で草木を植物というのはあっちの世界と同じ認識だけれど、彼らから見るとスヴァやパカは『生きてはいない』動く物なのだ。


そういえば、あっちの世界での生物の認識は『細胞室を持って、その中で自立生存できる機能を持った物』だった。だから寄生でしか生存が出来ないウィルスは生物ではなく、非生物と区別されていたはずだ。でも非生物とされるウィルスも遺伝子があり繁殖する。


結局のところ、『生物』なんて枠組みは人が勝手に作った境界線での話でしかない。この世界では『死しんだら玉のみを残して肉体が消滅する物』が『生物』としての境界線なのだろう。


「理解しました。人と同じく死すると消滅する動物や植物が『生物』で、それらの動植物は死ぬと肉体は空に還り、石が残る。その石が玉という事ですね。」


「そうだ。むしろ、お前の夢の知識ではその辺のことや玉の事は出て来ないのか?」


「はい。全く出てきません。むしろ今初めて知ることばかりですね。」


当たり前だ。『玉』なんて魔法と一緒であっちの世界にはまったく存在しない物だし、そもそも認識自体が違う。むしろ、あっちの世界では生物が死んで肉体が消滅なんてしたらビックリだよ。この世界は、私があっちの世界で知った常識と違って驚く事も多いけれど、今のが一番驚いたかもしれない。


「やっぱお前の知識は偏っているな。ヴォルガが早めに教育したがったのも頷けるよ。」


失礼な。私は9歳の女の子なんだから知らないとこがあっても当然でしょ。ただちょっと別世界の経験があって、ちょっと魔法が得意なだけだ。


「そういえば以前の講義で化け物がいるって言ってましたよね?」


「ああ、イズニェーネのことか?」


そうそう、それだ。化け物って言うくらいだからどんなものか気になっていた。


「そのイズニェーネは『生物』なのですか?」


「いや、イズニェーネは特別でな。生物ではない動物が突然変異する。変異するとその身体は嫌悪を抱く姿になり、その大きさが二周りは大きくなる。討伐しても空には還らないので生物ではないな。」


「討伐…殺しちゃうんですか?」


「ああ、変異しても基本は大人しいままだ。むしろ、凶暴だった個体が大人しくなったりもする。しかし、中には荒れ狂うように周りの生物たちに襲い掛かるものもいるんだ。そういうやつは放置しておくとどんどん大きくなる。」


確かにそんなゲテモノが襲いかかってきたら怖いな…ウマのイズニェーネなら二周りなら私の2倍近くになりそうだ。


「それにアイツらがいる周囲の動物たちもイズニェーネに変化する。だから見つけたら早急に討伐してその身を燃やすことでそれを防ぐ。」


それって感染するってこと?病気かなにかだろうか…死骸を燃やすってのも感染防止にあってるし。

でも『生物』には感染しないってことか…なんだか変な病気だ。


「じゃあもし、イ国にイズニェーネが出没したらどうするんです。」


「騎士団で討伐隊を編成して討伐に出る。一人二人で太刀打ちできる相手じゃないしな。剣で一度や二度切り裂いても全く通じない。」


まさに化け物だった。そんなのに遭遇したら私の魔法くらいじゃどうにもならないだろう。


「だからもしイズニェーネに遭遇することがあったらいち早くその場から退いて衛兵や騎士に報告すること。決して立ち向かったりしないことだ。」


「はーい。」


「本当に理解してるのかよ…」


私はまだこの城都から出たことさえない。それこそ先の門の事件の時くらいだ。ただでさえ珍しい化け物に遭遇することなんて滅多なことがなければ起こらないだろう。


「…街の外でイズニェーネに出会ったら?」


「ユーコンさんを盾にして逃げます。」


「…おい。」


そんな冗談を言い合いながら講義は続く。

ナイルの奇行が気になる人は「じえいたいたいそう」で検索。

この世界で玉石を残す生物は少数派です。ナイルのユーコンの扱いが段々雑になってきてます。そこそこ偉い人のはずなんですが…


次回は引き続きユーコンによるこの世界の一般教養講座。

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