新しい生活 八
着痩せするなぁ、この人…
隣を歩くレナさんの先ほどまであった大峰山は騎士の出で立ちになると、なだらかな丘陵に様変わりしている。私はそれを見て無意識に自分の平野に手を当てていた。
そんなどうでもいいことを考えながら夕暮れの中、黙々と家路を3人で歩く。
今日は、いつもなら自分から話しかけてくれるマレーさんも黙ったままだ。自然と私の歩幅に合わせてくれるレナさんは気遣いが出来る人だけれど沈黙はやはり気まずい。
「マレーさんは今日のお話はどう思われました?」
「恥ずかしながら、私には難しくて解らない事が多かったよ。私の家系は代々騎士として国に支えているし、商いについてはからっきしだからね。」
「いえ普通は自分の仕事に関係がなければ解りませんよ。でもレナさんがドニエプルさんのお孫さんだとは思いませんでした。でも何故、騎士になられたのですか?」
「そ、それはまぁ…ナイルこそ下町出身の身で何故このような事態になっているのだ?」
はぐらかされた…彼女にとって騎士になった理由は地雷なのかも知れない。
とりあえずレナさんには私の立場を知っていて貰った方が良いだろう。私は周りに人気がないことを確認しつつ今までのことのあらましを説明した。
「昼に聞いた話まではユーコンの話から想像できたが、その後の話は完全に初耳だな。…ユーコンめ。私を巻き込む事になる事を解っていて黙っていたな。」
最後の方は聞き取れなかったが話の素振りからレナさんとユーコンさんの仲はただの教官と生徒ではないような気がする。
「お話を聞いているとレナさんとユーコンさんは仲が宜しいのですか?」
「まさか。ユーコンとは、ただの昔馴染みだ。奴は昔から私を揶揄する意地悪な奴でな。」
ユーコンさんとレナさんの外見から見る限りレナさんの方が幾分か若い。ユーコンさんの性格を考えると妹分のレナさんをからかう様子が目に見えて想像できる。
「でもまぁ、ユーコンさんの気持ちも解りますね。今日のレナさんの可愛らしい姿を見ると私でもからかいたくなってしまいますよ。」
「なっ!?なにぉ言ってぇ…」
口調がもう何だか解らないものになってしまっている。そんな態度を取られると悪いと思いながらも、もう少し弄りたい気持ちが芽生えてくる。
「マレーさんも見ましたよね。レナさんの可愛らしい姿。どうでしたか?」
「…あー、うん、に、似合っていたと思う。」
「っ!…イ国騎士一の剣士であるマレー殿にそう言って貰えるとは光栄だな。」
マレーさんに話しかけると2人ともほぼ同時に顔をそっぽに向けて答えた。…どうにも歯切れが悪い。もしかすると2人はあまり仲が良くないのかもしれない。
そうこう話している内に家路も終盤となっていた。
「私はここまでで大丈夫ですよ。マレーさんはレナさんを送ってあげて下さい。」
「な、何を言っているっ!私は騎士だぞ。この通り帯刀もしているから大丈夫だ!」
そう言いつつ彼女は鞘に収まった剣を振って見せると「それではまたの機会に。」と1人、そそくさと来た道を引き返して行ってしまった。取り残される私とマレーさん。
「それではまた明日もよろしく御願いします。」
「…ああ、こちらこそ宜しくだナイル嬢。」
いつものやり取りを終え、マレーさんが踵を返すのを見送ると私は自宅の玄関に向かう。
ここ最近はいつも新しい発見があるけれど今日は一段と色々あった気がする。自宅からは空いたお腹に響く匂いが漂ってきている。今日の夕食はなんだろうか。とりあえず虫が入っていなければ何でもいいやと思いながら私は家の扉を開いた。
おまけ回みたいになっちゃいました。レナさんの騎士姿は金属製の胸プレートです。
次回は、舞台はドニエプルの館に戻り、レナさん視点でのお話です。




