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イ国の魔女  作者: ネコおす
第三部 ハ国編
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新しい日常 1



「ヴォルガ様が頼み事ってここ最近では珍しいですね。」


「今の君の立場を考えれば当然だろう。しかしながらこの頼み事はこちらの都合だけというものでもないからな。」


「…つまり、また面倒事なのでしょうか?」


「依頼自体は君になら簡単なものだろう。ただ叔父上の意向もからんでいる。」


アグニン様が絡んでいるってことはつまりはお国に関係することだろう。やっぱり面倒な事ではないだろうか…


そんなことを思いつつ私はヴォルガ様について議堂の通路を歩く。歩幅は私に合わせてくれていて急がずにもゆっくりとついていける。しばし無言の間が続く。



ロ国との戦を終えて半年が経ち、イ国にも戦後処理のあれこれも決定し、やっと落ち着きを取り戻し始めた。

私はというとあの凱旋と公の場での演説でコルト―はおろかイ国中に私の存在を知られることになった。

戦で人外と言ってもいい戦果を挙げてしまった私をアグニン様やニメレン様は私をニメレン様の妃として迎え王族とすることでその立場を守ろうとしてくれたみたいだ。

その事に帰国まで気が付かなかった私は当初狼狽えたけれど、考えてみれば悪い話ではないし家族の今後も守れるし王族であれば平穏に暮らせるだろうと願ったり叶ったりだ、と考えてみたりもしたのだけれど…


結局のところ、私の都合の話でしかないのだし、流石に私への恩情だけで自分の一生の相手を決めるなんて気が引ける。あの演説の場を後に、私は素直に自分がニメレン様の話を理解していなかったことを伝え謝罪した。

それをアグニン様やニメレン様は受け入れてくれたけれど既に公言してしまったことと、私の今後の立場を考えるととりあえずは表向きは今の状態を維持する事になったのだ。

お互いにまだ成人していないことや元が貴族出身でもない私は他国の王族や連なる者たちに知られていないこと、そういった理由で今暫くは王族ではなく婚約者としての扱いということらしい。その間に考え、改めて王族として道を歩んでも良いし断ってもらっても良いとアグニン様からは言われた。実に私に都合の良い話だった。



「習事についてはどうだ?」


突然、ヴォルガ様が口を開く。


「どうだ、と言われましても講義はヴォルガ様もやっているでしょう。」


「私のそれ以外についてだ。私の担当は語学や地学や歴史、一般教養だろう。それらの点については君は問題ない。一般教養については未だにズレている所もあるが…」


「楽器や音楽、踊りについてはダメダメですね。私には素質がないようです。」


「ほう、君にも苦手なものがあるのか。それは『夢』では見たことはないのか?」


『夢』…私の見たこことは違う世界の『彼』の世界での経験についてはヴォルガ様とユーコンさんはその内容を全てではないにしろ、それなりに伝え知っている。


「ないです。そんな都合の良いものではないのですよ。」


「それだけの知識や技術を持って都合よくないとはなかなかの物言いだな…」


私に気を使ってか彼らからその事について詳しく尋ねられることはない。その『夢』が見るだけでなく経験であること、時間の流れを感じるものであったこと、その見てきた世界がこことはまったく異なった世界であったことくらいだ。


夢見であるという理由で騎士団の庇護下にあったこともあるのだからもっと追及されてもいいようにも思えるのだけれどそういった事を彼の仕事以外で受けたことはあまりない。


とはいえ、魔法についてはヴォルガ様はそれなりに質問をしてくる。例をあげれば私の魔法についてどのように意識して発現しているのかや、その過程、意識の仕方などについて。

特に隠す必要もないので私は正直に答えるのだけれど、だいたいいつも「…すまない。私にはまだ理解できないようだ。」と終わる。この世界は、望遠鏡や眼鏡がまだ貴重な文明、分子やその結合について図に描いて説明したところで簡単に理解はできないだろう。


でもヴォルガ様は今や魔法で水を杯の半分程度まで作り出すことができるようになっている。やはり他者とは一線を引く人なのだろう。


「それで今日の頼み事って何なのでしょう。そろそろどこに向かっているかくらい教えてくださっても良いのでは?」


「ふむ…他に人の気配も無くなったことだし良いだろう。今から向かうのは議堂地下宝物庫、この国の貴重品が保管されている場所だ。」


宝物庫…そんな場所がここの地下にあったのか。私の頭には金銀財宝が山になっている絵が浮かぶけれど、そういえばこの世界では金銀は大した価値では無かったのだっけ。

金も銀も貴重だけれど実益の無い物に価値はあまりない。鉄の方が全然価値がある世界なのだ。となると伝説の武具とかそんなのだろうか…


とそんなことを想像していてふと気が付く。


「そんなところに私が入っていいのですか?」


「本来は王族や王に許可を得た者以外には入ることは禁じられているし、その存在も知られていない。それだけ国にとって貴重な物が保管されているということだ。」


つまりヴォルガ様はアグニン様に許可を得ているということだ。そして、そこに今から私も行く。


「えっと、まだ王族じゃないですけれど…」


「叔父上の意向だといっただろう。許可を得ている。」


「アグニン様の意向ですか…それで内容は?」


「君の魔法であるものを作って欲しいのだ。」


12月25日に更新。この作者って…って想像はそこまでだ!


新編、最初からシリアスで入った展開でしたが暫くは日常パートが続きます。

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