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イ国の魔女  作者: ネコおす
第二部 ロ国編
236/293

決闘



「本当に良いのか…?」


「大丈夫ですよ。私の事はご存知でしょう?」


ニメレン様の問いに私は軽く返す。


私のムクート王子への提案に驚いたのは当の本人だけでなくイ国陣営も同じだった。



「魔女…貴様、我をどこまで愚弄するつもりか?」


「愚弄するつもりなんてありません。貴方を謀ったのは私ですよ?それに私のような子供に負けることがあれば貴方だって納得ができるでしょ。」


「ぐぬぅ……………承知した。決闘については貴様の条件で良い。それくらいの枷がなければ勝負にすらならぬだろうしな。」



そして私の提案した決闘は了承され今に至る。決闘の場は陣営のすぐ側の平原。陣営と傾斜のある丘陵に挟まれ左右の足場は狭い。

本陣営の面子だけでなく、この騒ぎに駆けつけた騎士兵たちも周囲に集まる。自然と戦いの場は縦に限定される。集まった者の顔を見るとドンノラさんやヘルィなどの顔もあった。パラナがこちらを心配そうな表情で見ている。珍しくマレーさんも浮かない顔だ。


「このような茶番、さっさと終わらせて貴国一の騎士の生命を貰い受ける!それが散った者たちへの手向けだ!」


また騙されているというのにどこまでも真っ直ぐな人だ。国家間戦争という本題からただの復讐、そしてそれも決闘に目的がすり替えられているというのに。ここまで馬鹿正直だとなんだか憎めなくなるというか…ロ国の騎士たちから支持が高い理由もなんとなく理解できる。


だからと言って手加減などできる相手ではない。この人の身体能力は危険だ。


「距離はとって下さい。私のようなか弱い女性相手なのですから…そう、まだ後ろです…もう少し後ろ。その辺で大丈夫です。」


私はムクート王子とたっぷりと距離を取る。100m近くは離れただろう。けれどもこのくらいの距離は彼にとっては数秒で詰められる間だ。


「ユーコンさん、開始の合図をお願いします。」


「……お前の事だから考えがあるんだろうが、油断はするなよ。アレは本物だぞ。」


「解っています…」


正直、私自身でもなぜ自分が決闘をすると言い出したのか理解していなかった。マレーさんと決闘をして負ける可能性を想像してしまったのか、私のような子供に負ければ彼も負けを納得できるだろうという考えか、はたまた私自身の彼を騙した事への呵責か…


彼は本当に強い。それは身体能力だけでなく、馬鹿だけれどその真っ直ぐ過ぎる意思と精神性もだ。彼を屈服させるのは並大抵のことではないだろう。そして油断をしたら一瞬で私の首が飛ぶのも事実だった。


「我はいつでも良いぞ!空へと還る覚悟はできているのだろうな、魔女?」


「ムクート様こそ私のような子供にも本気を出せるのですか?」


「本来我は弱い者、特に女子供に手を挙げるのは好まぬ…しかし貴様は例外だ。」


「それは有難うございます。」


ユーコンさんが私とムクート王子の立つ中央へと歩んでいく。歩みが進むにつれ周囲の喧騒も静かになり、空気が張り詰めてくる。


ムクート王子は正面を向いて私を見て視線を外さない。この戦場、彼の性格から言っても真正面から来ることは想像できる。私も今から始まる戦いに構えて彼の頭上を意識する。


そしてユーコンさんが中央に辿り着き手を振り上げる。



………



『…始め!』




ドォォォン!!!




ユーコンさんの合図とともにムクート王子の立っていた場所には鉄塊が落ちた。重さはヤグのイズニェーネ戦より遥かに大きい60t級、高さ10m程度からの落下だ。私の意図を読んでくれていたのだろうユーコンさんの合図の時機はバッチリだった。


ムクート王子には悪いけれど真っ向勝負で勝てる相手じゃない。殺すには惜しい人物ではあるけれど生かして屈服させるなど難しい。エネルギー量は500万じゅーる以上にはなる。人が耐えられる訳がなかった…



「…………ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅぅぉぉぉおおおお!!!」



…ないはずなのだが!?


落ちたはずの鉄塊がよく見ると地面から少し浮いている。まさかあれの衝撃に耐えたうえにさらに持ち上げてるの!?


鉄塊が少しづつ地面から離れ、そしてその下にいるはずのない人影がはっきりと映る。


「おおおおおおおおおおっ!!」



ズシィン!!



「はぁはぁはぁはぁ……」


鉄塊は横に投げられ地響きが起こる。いや、ダメージ息切れてるけどそれだけ!?


「ふ、ふははは…驚いたぞまさかそのようなぁあああ!!?」



どぉん!



間髪入れずに追加の鉄塊を落とす。今度はちょっと高さを5mほどあげた。重さも2tほど増えている。今度こそは…


「ぬぅぅぅぅぅうううううう、ぐわぁぁぁぁぁああああああ!!」


ズシィン!!!


「はぁはぁはぁはぁはぁ……」


……この人、本当に人なのだろうか?


でも、流石に今度は無傷ではない。右の腕や肩の様子が明らかにおかしい。追加を落とせれば決着がつきそうだけれど…


「ふ…ふふはははは!まさかこのような技を持っているとは肝を冷やしたぞ!」


私もまさか耐えられるとは思わなかった。

投げ捨てられた鉄の塊はそれなりに巨大だ。それが左右に捨て置かれたから今、彼が立っている場所に落としても鉄塊同士が阻んで彼にまで到達しないだろう。


「これで終わりか魔女?ならば今度は我が攻めるとしよう。」


そういって彼は地に刺していた剣を左手で取る。

周囲の観衆からは声一つでない。ユーコンさんが珍しく焦り顔だった。


「ゆくぞっ!魔女ぉ!!」



ドンッ!



相変わらず目にも捉えられない超高速の突進、その目標はもちろん対峙する私だ。

当然、私に彼の剛力や技を受ける力なんて無いし、その疾さを捉える目もない。



が…


ガッ!…ィィィィィィン



とてつもない轟音が響き渡る。


「………な、ばかなぁ…」


私の正面、ムクート王子との直線上に突如現れた鉄塊に顔面から激突した音だった。自分の超高速がそのまま相乗して入ったのだ。流石の彼もずるずると地に伏せる。


どこまでも真正面な人だなぁ…


私はすかさず四方を鉄塊で囲む。いつもの鉄板程度だったら簡単に叩き割られかねない。

そのうえで鉄塊の側面に階段を作り、上に昇って彼の様子を覗く。


「…もしもし?生きてますか?」



返事はないけれど身体は消えてないのでどうやら生きているらしい。試しに小さい石粒程度の鉄を落としてみるけれど無反応。

このままとどめを差してもいいけれどどうしたものか…


「…終わったのか?」


ユーコンさんが声をかけてくる。


「どうやら意識を失ってしまったみたいですね。このままとどめを刺してもいいのですけれど…」


「「「「「「わぁああああああああああ!!」」」」」」


私達のやり取りで勝利の行方を確信した観衆から一斉に歓声があがる。


同時にユーコンさんが長い溜息を吐く。マレーさんを除いて本営陣の皆もホッとした表情をしていた。そして興奮冷めやらぬ中、ニメレン様が前に出る。それに合わせて観衆たちの歓声も止む。


「勝負はついたのであろう。生命を取るまでも無いのではないか。」


「でもこのまま目が覚めればまた私達を襲うかもしれませんよ?」


間違いなく筋力、体力だけならマレーさん以上の化け物だろう。彼が意識を取り戻した後に問答無用で暴れれば甚大な被害は免れない。


「私はムクート殿はそういう人物では無いと思う。彼は敵ではあるが信頼できる人物ではないか?」


ニメレン様が庇う理由も解らなくもない。とんでもない馬鹿だし、軍を率いる指揮官としては無能…だけども純粋なほど真っ直ぐで馬鹿正直な人物。敵とはいえ憎めないというのも正直なところだ。人柄だけ見れば約束を違える人ではない。


「ニメレン様がそういうのであれば…誰か王子を引き上げて貰っても良いですか?手当を施さないと本当に空に還ってしまうかもしれません。」


「私が手伝いましょう。」


そう言ってマレーさんがひょいっと鉄塊の上に軽々飛び乗る。2m以上あるというのにムクート王子にしてもマレーさんにしてもやっぱりこの人たちは規格外だった。

鉄塊に囲まれた中央に飛び降りるとムクート王子に意識が無いことを確認してからその大柄の身体を肩に担ぎ上げる。


「…右腕は肩が壊れているし、右手の指は砕けてます。額は裂傷、首も痛めているでしょう。他も箇所もボロボロ…よくぞ生きてます。」


マレーさんは彼を軽々と担ぐと鉄塊の上に飛び乗り、更に兵が用意した木製の担架の元へと飛び降りて彼をそれに乗せる。ムクート王子の身体はかなり重いらしく兵たちは8人で担架を担ぐ。


「診療所で治療を。もし意識が戻ることがあったら教えて下さい。」


ふぅー………運が良かった。初撃が避けられる、通用しない可能性もまったく考えていない訳ではなかったし、それでもある程度は口八丁でどうにかなりそうな気がした。けれども彼の身体能力は予想のそれ以上だった。正直、最後の彼の突進は目で追えていなかった。カウンターが上手く決まったのは運だった。


「よくやったな。」


「ユーコンさんこそ私の魔法に合わせて合図してくれたのでしょ?有難うございます。」


「まぁお前なら当然先手を取ると思ってたからな。あそこまで躊躇ないとは思ってなかったが…」


「躊躇してて勝てる相手ではないですから。実際、初撃で決めるつもりでした。避けられる可能性は考えていましたけれど、まさか耐えられるとは思わなかったです。」


「普通はあんな巨大な鉄の塊を支えられる奴いなどいはしないだろうからな。とんでも相手だったが、それでも結果はお前の勝ちだ。」


私は一撃受けていないけれど、その一撃が致命傷、攻撃を許した時点で辛勝だった。けれども勝ちは勝ちだ。その後、ニメレン様やヴォルガ様もやってくる。マレーさんだけは私の勝利を確信していたらしい。マレーさんはいつも私のことを買いかぶり過ぎだよ…


その後、半壊した本営の修復を兵たちに任せ、ニメレン様の天幕に集まり軍議の続きをする。ニメレン様の判断は休止、明日一日を兵たちの休息日とすることにした。


問題はムクート王子がいつ動ける様になるかだ。怪我の様子から今日明日で回復するようなものではないだろう。彼をつれて進軍する訳にもいかないし、一部後方を残し補給部隊と合流させて様子を見るべきか…


とりあえず明日の軍議で考えるべき最初の議題になるだろう。


出張中でちょっと更新がサボりぎみですみませんー><


とんでもないムクートのパワーに予想外となりましたが勝利したナイル。彼との約束、ナイルは何を彼に求めるのでしょうか?


あと少し筋肉王子のお話は続きます。

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