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イ国の魔女  作者: ネコおす
序章 不思議な記憶
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初めての染色 三

「それで出来上がったのがこれか。」


ミーナは出来上がった、鮮やかなターコイズブルーに染まった布をお父さんに見せていた。既に日は落ちて夕食も終えた後、私は毎日の習慣と化した洗体と洗髪を早めに済ませて今は団欒の時間だった。


「ナイル凄いんだよ。こんな綺麗な生地が家で出来るとは全然考えたことなかった。」


「正直、私もここまで綺麗に発色するとは思ってなかったんだけどね。」


普通、単色の草木染めで染めた生地は優しい色になりやすい。本来、こんなに鮮やかな色は合成染料が必要だ。素材にした花とは色もまったく違うし、正直に言ってこの出来映えは偶然だった。あっちの世界とは様々なところで勝手や要領が違うけれど、染色もそれに違いないようだ。


「でも本当にこれは凄いわ。これなら雑生地じゃなくて服なんかの生地にしてもいいかも。納品するものに勝手はできないけれど、自分たちで使うには良いわね。」


お母さんたちの話を横で聞きながら、少しは私も手伝いになったかなと思いつつ私は手を動かしていた。


「で、そのナイルは今度は何を作ってるの?」


「簡単な編み物だよ。」


私は染めた紐を叶え結びに編んでいく。紐自体はそこまで太くないし単色の単紐なので出来上がってもシンプルなものだ。『彼』がパラコードとかを使って編んでいた物のようには上手く仕上がらないけど、ちょっとしたアクセサリくらいにはなりそうだ。


「できた。はい、ミーナ。」


私は出来上がったブレスレットをミーナに渡す。


「えっこれ…」


「ミーナは素材がいいんだからもっとお洒落しないとっ。…と、言っても紐を編んだだけの簡単なものだけど。」


私はミーナからブレスレットを手に取ると手首にはめてあげる。ミーナは少しの間、それをボーと眺めていた。


「…私、ナイルと結婚するっ!」


そう言ってミーナは突然私に飛んで抱きついてきた。私はいきなりのことでミーナに押し倒されそうになって慌てる。というより押し倒されていた。


「け、結婚!?…えーっと、ミーナ、お父さんは?」


「お父さんはこんな綺麗なものくれないもの。」


ここまで喜んでくれるとは思っていなかったけれど、ミーナのキラキラした笑顔が見れて私も嬉しくなる。


お父さんは見るからに悄気てる。「いつか娘に言われたい言葉を娘に取られた…」と嘆いていた。


「でも、これ色落ちしないって本当かしら?」


「まったく色落ちしないわけじゃないけど落ちにくい筈だよ。もう少し色が定着したら洗って試してみよう。」


以前にお母さんが染色を試した時も染料までは作ったらしいけれど、定着しやすくするためにタンパク質や媒染剤が必要なことは知らなかったらしい。お母さんは「これならもう少し良い糸で生地を織って服とかを作っても…」などと1人思案中のようだ。


「ねぇ、この染め方を友達とかに教えても良いかな?」


うーん…


正直、この世界はまだ未開拓で私の知っている知識は、それ自体に価値がありそうな気がする。でも富裕層の人達は、しっかり染色されてる服を着ているし、装飾品もそれなりに凝っている。つまり、この世界でも染色方法は既に確立されたものだろう。

それなら、みんなで共有してもらって下町の人たちが色彩豊かになるのも楽しそうだ。


私はミーナに染色の流れだけでなくて、お湯の温度や注意点をいくつか伝える。温度の単位がないので説明は少し大変だったけれど、ミーナは熱心に私の話を聞いていた。本当なら控え書きでも渡してあげたいのだけれど、この家には紙もインクもない。そもそも私は、この世界の文字が、うろ覚えだ。

それでも真剣に私の説明を覚えようとするミーナやお母さんのその姿に私は嬉しくなる。


ミーナが学舎で、お母さんが下町の井戸端で、みんなに広めた染色の方法は1週間もせずに下町に広がった。街の所々で明るい色の服装を見かけるようになった。



この時は、まさかこれが後に事件に発展するとは私は思ってもいなかった。


何気なく作ったブレゼントが予想以上に喜んで貰えて嬉しいナイル。お父さんはちょっと可愛そうです。

下町の服装は素材色のままなので白、茶、グレーなどの質素な色はしかありません。無地生地に比べて革は高価になりますが、色の付いた生地よりも断然安価で、それなりに色種があるので、それを装飾などに使ってお洒落を楽しんでいたりはします。


次回からは、少しきな臭くなっていきます。

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