ハーレクイン 2
「ホールって、私がバイオリンの演奏会で使ってるところよね?」
「そうだよ」
ゴールデンオーカー家が所有するコンサートホール
【ブルシエルホール】
名高い音楽家たちが各国から集まり、日夜コンサートを開いている有名なホール。
元々はお母様の所属するオーケストラがコンサートをするためだけに作った施設らしいのだが、「こんな素晴らしい施設を私たちが使うだけではもったいない」とお母様が主張し、世界各国から音楽家たちを招待するようになった。
確かにあのホールは他のホールとは比べ物にならないほど、とても音の響きがいい
正に、音楽を奏でるためだけのホールだ。
さすがゴールデンオーカー家
名高い音楽一家だけある
「それにしても、なぜブルシエルホールで宝石を?
旦那様は他にもたくさん施設をお持ちですのに……」
「さぁ……確かにね。
ねぇなんでなの?クラージュ?」
「知るか!俺に聞くな!」
「音よ」
「「音?」」
「皆知ってるでしょ?
ブルシエルホールは音楽を奏でるためだけに作られたホール。だからとても音の響きがいいの。
誰がどこから喋っても、ちゃんと聞き取れるのよ。」
「そっか!
もし怪盗クレーが現れても、響きが良すぎるあのホールで音を立てずに行動することはほぼ不可能!」
「皆で音を追って、出口に向かったところを一気に取り押さえるんですね!」
「まぁ、そんなところかしら。」
「さすがです!おじょ………」
トゥイーディアが言いかけた途端、二人が大慌てで口を押える。
「トゥイーディア!ここは屋敷の外だ!」
「あっ………
申し…ごめんなさい、おじょ……スリジエ」
トゥイーディアが慌てて言い直すと、二人は溜息をつく。
私がもしゴールデンオーカー家の娘だと知ったら、何かしてくる輩がいるかもしれないと言う理由で、私のことを“お嬢様”と呼ぶのは屋敷の中だけと言う決まりになっているからだ。
「だから普段から名前で呼んでって言ってるのに……」
「いいえ!お嬢様はお嬢様です!
それ以外の名称でお呼びするなんて私には出来ません!」
トゥイーディアは小声でそう言った。
従順なんだか、頑固なんだか…
「もたもたしてたら中に入れてもらえなくなっちゃうわ。ホールへ急ぎましょう」
私がそう言って足を速めた時だった。
「ホール?
おい!そこの四人組!」
男の人が、いきなり大声で私たちを呼び止めた。
黒いスーツを着た、高身長の茶髪の男性。
速足でこちらに近寄ってくる。
クラージュが私を守ろうとしてか、その男性との間に立ち塞がった。
「お前たち、ブルシエルホールに行くのか?」
「そうだけど?だったら何だって言うんだよ!」
「俺をそこに案内しろ。用がある。」
「はぁ!?
いきなり声かけてきて案内しろだ?
そんな怪しいやつ連れていけるかよ!」
「用があるって言ってるだろ!」
私は、今にも掴みかかりそうなクラージュの腕を引っ張った。
「スリジエ…?」
「あなた何年ボディーガードやってるの?
怪しいかどうかなんて目を見ればわかるでしょ?」
「けどお前に何かあったら……」
何か言っているクラージュを無視して、私は男性と話をするため、男性の元へ少し近づいた。
「確かに私たちはブルシエルホールに行きます。
けど、あそこは関係者以外立ち入り禁止ですよ?
何か関係者であるという証拠はお持ちですか?」
私がそういうと、男性はニヤッと笑って胸元に手を入れた。
その行動に、今度はピソンが戦闘態勢に入る。
だがトゥイーディアは何かを思い出したような顔をした。
「おじょ……スリジエ、この方、もしかしたら……」
「俺、こういう者なんだけど?」
男性が胸元から取り出したのは、紛れもない本物の警察バッヂだった。